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#019-晴耕雨読的な話 漫画編

夏野菜の収穫量もかなり減少し、ピーク時の4分の1程度になってきました。
出荷量も減っていますが、定期的に「フーズガーデン 玉浦食彩館」などで販売しておりますので、お立ち寄りの際には産直コーナーを御覧ください。

最近はあまり農業関連で書きたいトピックが思い付かないので、本日も読書に関する話です。

学生時代は漫画を読むのが大好きで家に何百冊もありましたが、いつの頃からか全く読まなくなり、蔵書も全て処分してしまいました。
しかし最近10年ぶり?くらいに読んだ作品がとても素晴らしかったのでご紹介します。

あまりにも評価が高かった「チ。」

その作品は「チ。 ー地球の運動についてー」です。

いくつも漫画賞を取り、各メディアで何度も絶賛されていたので、漫画に疎い私も気になってレンタルコミックで一夜で読み切りました。(全8巻)

中世ヨーロッパを舞台に地動説の証明に命を掛ける人々を描いた物語で、テーマ設定も内容も、芸術作品としても大変素晴らしかったです。

定期連載という作品形態

漫画作品の多くは雑誌等での定期連載の形で発表されています。
人気作品になるほど不要な引き伸ばしが起こりやすく、行き当りばったりの展開・後付けの設定・強さのインフレなど、作品としての完成度が損なわれていくケースが多いと感じます。

また日常系漫画は違いますが、何かの”物語”を語るのであれば相応のボリュームがあると思います。漫画であれば長くても10数巻程度ではないかと思っており、それを超えてくると一つの”物語”としては冗長になってしまう気がします。

「チ。」の作者;魚豊うおと先生もインタビューで「漫画は5巻程度で”物語”を語り切るのが理想」と話しており、「チ。」は全8巻ですが、当初の構想通りに終わらせることができたそうです。

物語”の完成度を重視して無駄な引き伸ばしをせず、一つの作品としてきっちり着地させた事がまずとても素晴らしいと思います。

地動説という舞台設定

また「地動説・天文学を巡る物語」という設定も個人的にとても好みでした。

なぜ近代以降に西洋文明が覇権を取ったのかというテーマを考察する際に、よく挙げられる要因として「科学的合理主義の採用」というものがあります。
宗教と科学、中世と近代を分ける重要な因子として観察・検証を繰り返す科学的合理主義思考の発展があり、その代表的な学問分野として天文学化学がよく言及されます。
(ウィリアム・バーンスタイン著「豊かさの誕生」、ニーアル・ファーガソン著「文明」など)

私もこの辺りの分野に興味があり大学時代に「宇宙科学論」の講義を受けていたので、天文学の発展という舞台設定自体にも興味が惹かれました。
漫画内では小難しい理論の話はあまりなく、「真理の美しさ」「人間の知的営みの尊さ」などの表現に力が入れられているので、理屈を知らなくても十分に楽しむ事ができます。

”物語”のテーマ

「チ。」においては人間活動の様々な側面を称揚する場面が出てきます。
大いなる善として信念、愛、希望、自由などが語られますが、私が最も心を掴まれたテーマは「”託す”ということ」です。

漫画の中では様々な登場人物が出てきますが、それぞれの人物が自分の役割を考え何かを次世代に託すことで、一人では不可能だった大きな事を成し遂げようとします。

私自分も子供が生まれたり、祖父母の世代が次々に亡くなっていく経験をしたことで、「世代を超えて何かを託す、継承する」ということの尊さを身近に感じるようになりました。
そもそも自分が家業である農業をしていることも、祖父母、両親の経験や想いを継承したいという側面があります。

また前述の天文学を筆頭に、学問という分野も先人たちのデータ・研究を継承して新たな発見を積み重ねることの繰り返しです。
フェルマーの最終定理」のように何百年も解けなかった難問が、何世代もの苦悩のバトンリレーの末に解けるということもあります。

大きく言えば人間活動の全てに通じる「託す、継承する」というテーマも「チ。」では見事に描き切っています。


印象的なセリフ、見開きページのカッコ良さなど褒めるところはまだまだたくさんあるのですが、物語の内容に踏み込むと未見の方の興を削いでしまうので、この辺りにしようと思います。

作者の魚豊先生は大学で哲学を学んでいたらしく、ソクラテスエピクロスなど哲学者の引用が度々でてきます。
私が前回の記事で書いたセネカの引用もありました。

哲学や天文学への興味、岩明均やサイモン・シンが(おそらく)好き、など私自身とも好みが似通っていて、とても楽しく読むことが出来ました。
本当に素晴らしい作品なので、まだ未見の方には是非読んでほしいと思います。


[本日の参考文献]


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