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幻獣戦争 2章 2-3 英雄は灰の中より立ち上がる⑪

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幻獣戦争 英雄は灰の中より立ち上がる⑪

「派手にやりますね。これ津波がやばいでしょう」
「ですが、これで多少は時間が稼げるのでは?」
 無線越しで引き気味に感想を漏らす一樹に、無線越しで真那がそう問う。
「稼げますけど……これは中隊を後退させて正解でしたね」
「――そうみたいです。神代博士がすごい勢いで通信をコールしてきてます……陸将、繋ぎたくないです」
 無線越しで一樹は、暗にやりすぎと言いたいのか困り気味に呟くと、朱雀が無線上で泣きそうな声で俺に助けを求めてきた。確かにこれはやり過ぎだ。俺でも庇えんぞ……

「仕方ないな。中隊各機はこのまま神代博士達と合流しろ。俺達は高台に移動するぞ」
 俺は無線上で各機に指示して、機体を防御陣地近くの高台へ移動させる。一樹達は後方部隊と合流すべく俺達と別れ移動する。

「黄泉、索敵を始めてくれ」
 高台に移動させ、機体を対岸の隠岐の島へ向け俺は黄泉に声をかける。タケミナカタの一撃で一時的に敵集団が消滅したため、敵の砲火は止んでいたが水平線の彼方に波らしき影が見えていた。

「――高天原に神留り坐す皇親神漏岐神漏美の命以てぇ、八百萬神等を神集へに集へ賜ひ神議りにぃ、議り賜ひて禍つ神の居りしところ示したまえぇ。かしこみぃかしこみまおすぅ」
 黄泉が静かに祝詞を唱え、同時に機体から緑色の光柱が放たれる。

《光の柱は軌道上の天照に当たり、天照は衛星の形から衣を着た女神へ変貌。女神は目を見開き地表を見る――その視線の先は隠岐の島……しばらく観測を続けた後、女神は衣を拡散させ、比良坂機に緑光のオーラが注がれる》
 

「……見えたわ」
「黄泉!」
 ぐったりする黄泉を見て咄嗟に叫ぶが黄泉は反応を返さない。恐らく失神しているのだろう。
 まずい――が、こちらが先だ。俺は更新された天照の情報を後方の艦隊へ送信。
 更新された戦域図には赤色の敵マーカーに加えて、新たに紫色の敵マーカーが追加される。

「隠岐の島ほぼ全域か……朱雀、タケミナカタの砲撃はできるか?」
「装填中ですのでまだ時間が掛かります」
 無線越しに問う俺に朱雀は無線上で一言返答する。攻撃できればよかったが仕方ないか。
「こちら第一戦闘大隊比良坂。西ノ島駐留艦隊司令部、応答してくれ」
「こちら旗艦伊勢若本だ。どうした?」
 俺が通信を送ると勇司が応じ、回線が開かれコックピットモニターに勇司が表示される。

「黄泉が頑張ってくれた。敵指揮官タイプの識別ができているはずだ。更新されたデータに基づいて砲撃してくれ」
「こちらでも天照の情報が更新されたことを確認している。間もなく要請した航空部隊が当空域に到着する。有効な支援爆撃が期待できるだろう――それから、朱雀に礼を言っておいてくれ。無茶をしてくれたおかげで航空部隊の被害を抑えれそうだ」
 手短に伝える俺に勇司はそう言って笑みを浮かべる。無茶か……博士の方はキレてるだろうな。

「わかった。他には何かあるか?」
「……そうだな。早めにそこから撤収したほうが良い。津波でその辺も波をかぶるぞ」
 俺の問いに勇司は意地悪く言うと通信を終えた。戦域図を確認すると津波の警告が上がってることに気づく……どうやら沿岸部はもれなく津波をかぶりそうだ。

「大隊各員に通達。西ノ島防御陣地まで速やかに後退。津波が来るぞ」
 俺は無線上でそう命令し防御陣地へ向け後退を開始。
「……朱雀、戦線を崩壊させるとはなかなかやるな」
 道すがら合流した真那が無線上で声をかける。同様に真那機の前方空域を飛行している朱雀機は、無言のまま何も答えず、真那機の隣を飛行する一樹機は無線上でなぜか面白そうに笑っていた。

「戦術的に見れば正しい判断だ。気を止むな。朱雀」
 さらにその後方空域を飛行している俺はそっと無線上でフォローする。築いた前衛防御陣地も丸ごと波に浸かるが、こちらの人的損失が出ないことの引き換えでもプラスになる。後は面制圧と爆撃でどれだけ効果的に幻獣を減らせるかだ。

 俺達は後退中の部隊と合流して速やかに西ノ島防御陣地まで撤収。
 防御陣地では、待ち構えていたかのように神代博士が、テントから拡声器片手に外に出て俺達を出迎えてくれていた。 

 《――朱雀ぅ!! 前線を崩壊させるとか中々やるじゃない! 私が海面に撃つなって言ったの忘れたのかしらあぁぁぁぁぁぁぁ!!》
 

 拡声器から伝わる博士の怒号が無線上に木霊し響き渡る。しかし、朱雀は沈黙を守ったままだ。釈明のしようがないのだろう。俺でもこれは沈黙してしまう。

「博士、その辺にしてやってくれ」 
「――わかったわ。黄泉は大丈夫?」
 俺が無線上で博士をなだめるとあっさりと引き下がり、拡声器越しで気遣うように問いかけてきた。
 俺は博士が指揮所に引き下がったことを確認して通信コンタクトを送る。直ぐに回線が開かれ博士がコックピットモニターに表示される。

「まだ気を失っています……このまま死んだりしませんよね?」
「大丈夫よ。じきに目を覚ますわ。それよりもこれからどうするの?」
 心配する俺に博士は微笑みと改めて問いかけてきた。
 津波の影響で前線は崩壊している。となれば、防御陣地から遠距離による砲撃を続ける他ない。

「特科とタケミナカタによる砲撃を継続して対岸の幻獣を掃討します」
「了解。じゃあ、今のうちに戦略機は補給と整備を行いましょうか」
 俺の回答に博士はそう答え通信を終えた。
「一樹、特科以外の大隊各員に戦略機の補給と整備が済むまで休息を命じてくれ」
「了解」

 俺の指示に一樹は無線越しで一言答え大隊各員に通信を繋ぎ始めた。
 俺達が各自補給に入っている中、海上艦隊の面制圧と航空爆撃が開始された。戦域図の情報が更新され、主力艦隊が隠岐の島正面沿岸部へ面制圧を開始したことが表示される。隠岐の島旧美保神社沿岸部に展開する幻獣がみるみる戦域図から消滅する。

 作戦が第2段階へ移行した証明だ。戦域が広がったことにより展開している対岸の幻獣は、二手に別れ戦力分散を開始。このまま砲撃を続ければ時期に上陸が可能になるな。俺は戦域図を見るのを一旦止め、複座に座る黄泉を抱きかかえ外に出た。 

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く

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