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幻獣戦争 2章 隠岐の島攻略作戦⑪

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幻獣戦争 2章 隠岐の島攻略作戦⑪

 陸上自衛軍原基地。中国地方東側に位置し関西要塞に近いこの基地は、中国地方防衛師団の根拠地であり、東師団長が駐在する中国地方における中央作戦司令部の役割を担っている。

 過日、九州要塞より提案された隠岐の島奪還作戦前ミーティングから数日後、まるで事前に計画していたかのような迅速さで、隠岐の島攻略作戦計画書が提出された。

 俺は1週間満たない速さで組み立てられた作戦計画書を前に、驚きを隠せずにいられなかった。仮に計画書作成の担当が俺だったとしても、ここまで迅速にまとめるのは不可能だ。情報収集だけで数週間は必要とする。普通なら考えられない速さ――これがあの男のネームバリュー……いや、そんなわけない。

 やろうと思えば俺達にだって出来ることだ。あいつと俺達にそんな差はない。あってたまるか……俺とあいつの違いは、最前線で指揮するか、後方で指揮するかの違いでしかない。これは別段臆病というわけじゃない。軍隊における指揮官はいわば頭だ。頭が前線に出て死んだら部隊が瓦解してしまう。それを理解しているから、指揮官は人殺しと罵られようが後方で指揮を執る必要がある。

 さもないと、部隊全体が全滅する最悪の事態がおとずれる。俺達が間違っているわけじゃない。むしろあいつが間違っているのだ。だから、あいつは最終的に佐渡島で部隊を全滅させたんだ――俺は間違ってはいない。

「だが、それでも皆どういうわけかあいつを慕う……」
 何故だろうか? 俺は椅子の背もたれに体を預け執務室の天井を見上げる。俺だってそれなりに頑張ってきたはず。被害を最小限に食い止め幻獣も食い止め続けてきた。

 この数年、ずっとだ。昨日一緒に飲んでいた部下が次の日には墓場に居る。そんな現実に耐えながら、今日まで……いや、退官するまで戦い続ける。それが自衛官の仕事。なのに何故評価されない? 何故中央は有能な俺を呼び戻さない。どうして俺がこんな貧乏くじを引かなければならない。順当なら、何れかの要塞作戦本部長に昇進してもおかしくない功績を立てているぞ! 何故中央はそれを理解しない! それとも……

「まだ功績が足らないのか?」
 作戦計画書をデスクに放り投げ思案する……どうにかして主導権を握れないか? 計画の不備を突けば十分余地がある……が、隙が無い。確かにこの計画書通りに事が運べば隠岐の島は攻略できるだろう。あいつの元には有能な部下が揃っている。恐らく成功する……

「――失礼します!」
「どうした?」
 デスク正面右に位置する執務室のドアが開かれ、態勢を戻しやってきた人間に目を向ける。やってきた人間は年若く精研な眼鏡が似合う顔つきの男。官僚思考が強い矢野泰治一佐、俺の副官だ。若干ニヤついているように見えるが――渡した計画書に穴でも見つけたのか?

「お話があります。東師団長!」
「わかった。言ってみろ」
 そう告げ敬礼する矢野一佐を俺は促す。
「この度実施される隠岐の島攻略作戦計画書に穴を見つけました」
「……ほう。どんな穴だ?」
 意地悪い笑みを浮かべ、眼鏡を光らせ言う矢野一佐に俺は期待を込め問う。

「作戦の第一段階、大型幻獣撃破担当をご覧になりましたか?」
「桜井朱雀二佐のことか? あいつがどうかしたか?」
「彼は狙撃の類が不得意です」
 俺の問いに矢野一佐は眼鏡を軽くクイっと上げ答える。

「どうしてそんな事がわかる?」
「班は違いますが私と桜井は同期です。奴の実績はある程度調べようと思えば調べられます」
「なるほどな。だが、過去はともかく今は有能かもしれんぞ?」
「今回の作戦は我々にとって大事な作戦です。今日や明日の実績より、昨日の実績を採用するべきです。でなければ、皆納得して死ねないでしょう」
 俺の一般的な問いに矢野一佐は官僚思考で回答する。確かに失敗するにしても、実績のある人間が失敗した方が戦う人間にとっては納得できることかもしれない……あいつでダメなら俺でもダメだろうと。

「……」
「今回は作戦の第一段階の失敗が即ち作戦失敗になります。そこを指摘して、我々中から優秀な人間を推薦することで――この作戦の主導権を握れます」
 沈黙する俺に矢野一佐は悪魔の囁きの如く言い放つ。俺は軽く腕を組み思案する……確かに矢野の言う通り上手くいけば主導権を握れるだろう。しかし、あいつが拒否したら……俺は嫌な奴とあいつ思われるだろうな。まあ、別にあいつの心証を悪くしても俺の生活に支障はないか。

「……良かろう。会議の時に提案する。念のため人選だけは進めておいてくれ」
「――了解!」
 俺の下した決断に矢野一佐は、一瞬顔を緩めるがすぐに引き締め敬礼すると退室していった。
「上手くいけば自分も昇進できる――か。現金な奴だ」
 矢野一佐が退室した事を確認して俺は小さくそうボヤいた。
 

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次回に続く


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