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(連載小説)和巳が"カレシ"で、かすみが"カノジョ" ② 振袖のち浴衣の男の娘・中編

次の週末、たまたま男の娘振袖モデルアドバイザーのバイトがあり、バイト先の着物屋さんで和巳は自分も店員としてではなくてお客として特典を利用して女物の浴衣を着たいと申し出た。

そうするとお店の方も振袖を成約してくれた男子に女子同様に浴衣1回無料サービスの特典をPRするのにちょうど「男子が女物の浴衣を着ると振袖同様にこんな風にかわいい浴衣の男の娘になれますよ」と云うモデルが欲しかったところだったと言われ、花火大会当日は特典を利用して浴衣を着る女子も男子も両方それぞれに多いのだけどそこはいつも真面目に振袖モデルアドバイザーのバイトに励んでくれている和巳の功績もあるし、勝手知ったるいわばお店の関係者でもある和巳を振袖だけでなくこの男の娘浴衣モデルに登用する方が何かといいだろうと云う事でなんとか予約で混雑しているところを受けてくれた。

「かすみちゃん、こんなに誰が見ても元は男だって思えない位に振袖が成人式の時以来似合ってるあなただったら浴衣が似合うのは間違いなしだから期待してるわよ。」とお店の方に言われ、そんなもんかなあと思いつつ確かにこの男の娘振袖モデルアドバイザーのバイトも半年くらいやらせてもらっているけど毎度自分を見て「えっ!この振袖の子が実は男子だなんて信じられない・・・・・。」とか「普通の男子でも振袖を着るとこんなに女子顔負けでかわいくなれるんだ。」と云ったお客様やお店のスタッフの反応からしても振袖はそこそこ似合うのに浴衣は似合わない事ってはないだろうと思ったし、何より一度成人式で女装して人前に出て振袖姿で外出したりもしている訳だから浴衣を着てお出かけする事に関してのアレルギーみたいなものはとりあえずもう今の和巳には無いのだった。

バイトが終わり、あずさになんとか花火大会当日の浴衣女装の予約が取れたと伝え、こうしてまた少し和巳が”かすみ”になる準備が前進した。

それからもいつものようにあずさはしょっちゅう和巳の家に来てはあれこれ自分のペースでおしゃべりして帰るのだったが、花火大会に一緒に浴衣を着て行く事が決まってからはもっぱらその話題が中心となっていた。

そしてあずさはお店のサイトで浴衣の品定めをある程度してから実際にお店に行って何枚かの候補の中から当日自分の着る浴衣を決め、もちろんその場に和巳も付き合わされ、一緒に品定めをした。

和巳もバイトでこのお店に何度か出入りしているのでおかげさまで着物や和装自体には割と詳しくなってきていて、あずさの浴衣の品定めにもお店のスタッフさんも交えてあれこれとアドバイス的な事をしながら一緒にどの浴衣がいいか選んであげていた。

「すごーい、和巳、いやかすみってほんと着物詳しいよねー。女の子のわたしより全然詳しい!。」と感謝されているのかそれとも半分からかわれているのか分からないその感想の中、あずさは花火大会に着て行く浴衣を決め、そして和巳も何枚かの候補の中から羽織ったりしながら着た際の色見や柄の出方や見え方を確かめながらあずさと一緒に花火大会で着る自分用の女物の浴衣を選んだ。

それからしばらくが過ぎ、花火大会当日となった。成人式に振袖を着た男子がこのお店の特典を利用して女物の浴衣を着るのも割とあるようで、バイト中に結構B面(男子の外面)で成人式が終わってからカノジョと連れ立って今度は浴衣を選びに来る男子を和巳も見かけていて、成人式当日ほどではないけれどこの花火大会の日はそれでもこの辺では一番浴衣需要の多い日と云う事もあり、お店は男女それぞれで混雑していた。

振袖の試着展示会は男女向け共この花火大会用の着付けの為にやってなくて通常営業なので和巳もB面にてあずさと一緒にお店に出向いてさっそくまずはメイクから始めた。

バイトでしているように家から既に着てきた女の子のパンティーとブラの姿になった和巳はブラにシリコン製のパットを入れ、抑え目に小さくした胸の谷間を作ったあとはガードルを履き、ワンピースになったゆかたスリップを着て薄手のガウンを羽織り、メイクルームへと向かう。

今日は浴衣なので素足に下駄だから足袋は履かず、スリッパでそのままメイクルームへと入ると和巳と同じように「浴衣女子への変身」をしている何人かの男子がメイクをしてもらっている。

どの男子も和巳と同じように一度成人式の時にフルメイクで振袖女装をしているためか慣れもあって成人式の時よりいくぶんリラックスした感じでメイクしてもらっていた。

その子たちは見ているとメイクさんと喋りながら「成人式の時は初めての着物女装と女装外出だったんだけど、僕の振袖男子姿がとっても好評で”男子にはまるで見えない”とかあちこちで評判でした」と言っていたりとか、中にはもう気分が「女の子モード」になっていて話す言葉が女言葉になり、声のトーンも少し高めで「わたし今日はカノジョと一緒にメイクして浴衣着せてもらうのぉ、とっても楽しみにしてたんですう。」みたいに女の子のような喋り方をしている子も居る。

そして和巳もメイクスペースの椅子に座り、いよいよ男子の和巳から男の娘のかすみとなるべくメイクが始まった。

とは言えいつもバイトで振袖を着せてもらう時にメイクしてもらっている顔なじみの店員さんが今日もメイクしてくださる事もあり、お互いに慣れているので適度に会話を挟みながら順調にメイクが進む。

ひんやりとした化粧水の後は肌を整える乳液を塗り、今日は主に夕方からの外出だけど念入りに紫外線対策でUVケアの成分の多い下地クリームを塗ってもらってからいつもより明るめのワントーン違うファンデーションでナチュラルで素肌っぽいベースメイクが完成すると引き続きアイメイクに移る。

まずは柔らかい感じを出すようにアーチ状の眉を書くとポップでそれでいて上品なキュートさを演出する淡い色合いのパステルカラーのアイシャドウを入れ、コテコテにならないようにアイラインは控えめにした分、目元を自然な形で強調するように睫毛をマスカラを入れてビューラーでくるりと整えた後は頬にほんのりと柔らかくて淡いピンクのチークをのせて全体的にナチュラルだけど上品さを感じさせる浴衣メイクが進んで行く。

そして全体的に上品で抑えめの色合いも多いのでリップもそれに合わせてかわいらしいピンクで揃え、仕上げにしっとりつやつやのグロスを重ね塗りしてもらって浴衣に合う和装メイクが完成した。

メイクの後は自然な感じの栗色のロングのウィッグをかぶり、引き続き浴衣に合うヘアメイクをしてもらう。

せっかくの浴衣と云う事でここはそれに合うアップヘアにウィッグをアレンジをしていただく事にして長めのストレートのウィッグをまずは高めの位置でポニーテールにして、2つに分けた束をねじって三つ編みにしていきヘアピンで止めてお団子を作って巻き付けていく。

そして華やかだけど成人式の時よりは少し小さめの花の形の髪飾りを大小1個ずつ付けてもらう。なにやら今日は自然な感じのナチュラルメイクにこだわったので髪飾りもそれに合わせて若干だけど少し控えめに揃えてくださったのだとか。

こうしてメイク・ヘアメイクが出来上がり、「じゃあかすみちゃんになった自分を見てみましょうか。」と言われ、鏡を覗き込む。

「はい・・・・・えっ・・・・・なんだかす、すてきです・・・・・。」

そこにはいつもの振袖用の華やかで艶やかなメイクとはまた違った二十歳を少し過ぎたばかりの「年頃の女子大生」が夏のイベントに出かけるのにカジュアルな中にもきちんとおめかしした感のある、涼しげな浴衣に合いそうな自然で且つ上品な和風ティストを感じさせるメイクを施された「女子」が映っている。

「どう?いつもは振袖だからパーティーとかセレモニー用の華やかでしっかりした感じのメイクにしてたんだけど、今日は浴衣って云う和装でも一番カジュアルなお衣装だから和風ティストを盛り込みながらも全体的にかすみちゃんのかわいらしさを活かしながら自然でナチュラルな感じをイメージしたメイクにしてみたけれど気に入ったかな?。」

とメイクさんがおっしゃってくれるけどもちろん気に入らない訳はなく、ヘアメイクも後れ毛を活かした感じでこれはこれで浴衣を着る事での女子としての艶っぽさを引き出せているようで浴衣にも合っているしこの髪型もばっちり気にいった。

そしていつの間にやら自分の気持ちもメイク・ヘアメイクが終わった段階で「かすみモード」に外見だけでなく、気分もすっかりと女子に移行していて仕草や言葉遣い、そして声のトーンまでも自然と女の子らしくなっている。

「かすみちゃんはいつものようにメイクしてもらうとすっかり女の子になっちゃうね。」とスタッフさんに言われるのだが、メイクしてもらうことで恥ずかしいのは恥ずかしいのだけど、なんて言うのか女の子としてのスィッチがONになる感じで、自分でもこの感触は嫌いではない。

そして着付けスペースに行くと先程メイクルームにいたメイクをかすみより先に済ませた子たちが着つけに取り掛かっていたり、着付けが終わったばかりのそれらの「浴衣女装男子」たちがどの子もとても満足した感じでメイクして女物の浴衣に身を包んだ自分に見入っている。

男の娘向け振袖無料試着展示会の時もそうだけど、支度が終わったばかりの女装子たちがいっぱいのこのスペースはみんな少し恥ずかしそうだけど、それ以上に和装姿できれいになった自分にうっとりしたり、うれしくなったりしているようでまた今日はこれから花火大会にこの浴衣姿で出かけると云う事で余計に華やかだし、テンションも上がっているように見える。

「じゃあかすみちゃん浴衣着つけるね。」「はい・・・・・お願いします・・・・・。」

そして着付けが始まる。振袖の時もそうだけど自分で和服の着付けができない分まるで「まな板の鯉」状態で、言われるがままにじっとしながら浴衣女装男子の「製作」が進む。

今日のかすみの浴衣は白地に赤い花のシンプルなもので、自然な感じのメイクととても合っていた。その浴衣をゆかたスリップの上から羽織り、腰紐、伊達締めを結んだあと、帯を文庫に結んでもらう。

浴衣は振袖などの着物と違って長襦袢を着ないでゆかたスリップの上からそのまま着るのでなんて言うのか着た感じが素肌に密着した感じで、肌に麻や綿と云った素材の感じが直接伝わってくる。

ただやはり和服の一種なので帯を締めたり腰紐や伊達締めを結んできちんと着るから一見見た目は涼しそうに見えるけどそこまで通気性がある訳でもなく、周りに人が大勢いるのもあるけれど思ったより結構暑く感じる。

そして仕上げに浴衣なので着物とは違って帯揚げ・帯締めをしない分、帯にさりげない帯飾りをしてアクセントをつけると着付けは完了した。

「はい”浴衣女子”の出来上がり!。まあ!かすみちゃんかわいくなったわねー。いつもの振袖姿もすてきだけど今日の浴衣姿もとっても似合っててすてきだし、夏らしくていいわよー。じゃあ浴衣女子になった自分を見てみましょうね。」

そう言われ姿見の前に内股でしゃなりしゃなり歩いて行き、姿見に映った自分の浴衣姿を見て見る。

「えっ・・・・・これがわたし・・・・・。なんだかとってもかわいい・・・・・。」

そこには「かわいらしさ」いっぱいの自然な感じで夏らしくて初々しい「浴衣女子」が居た。

浴衣と云う同じ和服ではあるけれども何度か着せてもらった振袖の時とはまた違った「女子」になった自分の姿にしばしかすみは見入っていた。

メイクさんも着付け師さんもおっしゃる様に振袖は華やかな感じのメイクや着付けだけど、浴衣は夏のイベントに出かけるための「おめかし感」や和装ならではの華やかさは含ませながら浴衣自体の気軽でカジュアルな位置づけに合わせた自然な感じをかすみの隠し持った「女の子らしさ」「おしとやかさ」「かわいらしさ」を引き出した感じに全体コーデを仕上げて下さっていて、それもあってかすみは女物の浴衣を着た自分に見入ってしまっていたのだった。

何もそれはかすみに限った話ではなく、浴衣女装子になったばかりのさっきまで並んでメイクや着付けをしてもらっていた他の子たちも同じで皆一様に「かわいい・・・・・」「振袖のときとまた今日はちょっと違ってるけどこのわたしの浴衣姿もすてき・・・・・。」などと言いながら姿見に見入っている。

そんな姿見の前の「出来立てほやほやの浴衣女装子」たちにお店のスタッフさんが近寄ってきて、いつも振袖無料試着展示会の時に使っている「女の子になるスプレー」をシュッと掛けてくれる。

「女の子になるスプレー」と云っても実際は普通にどこでも売ってるフローラルの香りのデオドラントスプレーなのはかすみは知っていたけれど、普段男の時はそんなフローラルの香りのするスプレーとか使う訳ではない子たちにお店の方が「じゃあ振袖の時と同じように今回もまた”女の子になるスプレー”を掛けましょうね。うふっ。」と言いながらシュッとスプレーを掛けられるときれいにメイクしてもらって浴衣の着付けが済んだばかりで外見も気分もまるで女の子そのものになっているこの子たちには効果は絶大で、「あん・・・・・いい匂い・・・・・。」とか「この匂いって振袖を着せてもらった時と同じ匂いね・・・・・あの時もそうだったけどこのスプレーって掛けてもらうとほんとに女の子になったみたいな気分になっちゃう・・・・・。」などと言いながらどの子もますます気分も表情も仕草も女の子そのものになっていっていた。

そして「女の子になるスプレー」のフローラルな香りがいっぱいの着付けスペースでお店のスタッフさんから成人式の時のように今回も「まあ!振袖もよくお似合いでしたけど女物の浴衣とってもお似合いですね!。」とか「こんなに和装が似合う女の子ってそんなに居ないですよ!。ほんとはやっぱり元から女の子だったんじゃないですか?。それにしてもお似合いですねー。」などと他の浴衣女装子に交じってかすみも言われ、お店の「営業トーク」とはなんとなく分かっているけど、特に周りにいる他の浴衣女装子たちはよりますます気分も「女性化」して「あら・・・・・そうですか・・・・・恥ずかしい・・・・・。だけどそう言われるとなんだかわたしってもしかしたら元から女の子だったのかなって思っちゃうんです・・・・・。」と言っている。

わたしはそしてお店の中にある撮影用のスタジオスペースでこの浴衣女装姿をお店の宣伝・資料用に撮影してもらっていた。

和傘を持ったり、振り向き加減で文庫に結んだ帯が見えるようにポーズを取ったりしながら撮ってもらっていると純女さん用の着付けスペースで着付けの済んだパステルカラーの緑の浴衣を着たあずさがやって来た。

「わーかすみとってもかわいくなったねー!。」「あ、あずさ・・・・・ど、どう・・・・・わたし浴衣似合ってるかな・・・・・。」段々と浴衣姿にも慣れつつあったかすみだったけど、やはり”カノジョ”に自分の浴衣姿を見られるのはちょっと恥ずかしさもあってうつむき加減にそう言った。

「何言ってるの、今日のこの浴衣を着たかすみってとっても似合っててメイクもヘアアレンジもばっちり合っててすてきじゃない!。さすが着物屋さんでバイトしてるわたしの”カノジョ”だねっ!。」「あ、ありがとう・・・・・なんだか恥ずかしいけどそう言ってもらえるとわたしうれしいな・・・・・。」

そう言っているとお店のスタッフさんからせっかくなのであずさもいっしょにかすみと写真を撮りましょうと云う事になり、手でハートを作ったり、またお互いが見つめ合ったりと云うカップルらしい雰囲気の構図の写真を何枚か撮ってもらった。

そして写真撮影が終了するといよいよ二人は花火大会の会場に向けてお店を出発した。

草履は振袖の時に何回か履いていてそのままお出かけもしているから慣れているけど、下駄は初めてで同じ和装女装外出でもちょっとまた違った感じでカラコロと鳴らしながら二人並んで歩いて会場の河川敷を目指す。

「わたしの”カノジョ”のかすみちゃん、今日は浴衣を着た女の子どうし花火大会を楽しもうね!。」「うん・・・・・そうしようね。」

(つづく)



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