見出し画像

ビロードのようなその体に触れさせて/虜になる『猫の絵本』おすすめ4選

猫。今更言挙の必要もなく、多くの人々にとって生活の一部ともなる大切なパートナーであり、「人と動物」の枠を超えてなんだか哲学的なことを、ふと問いかけてくれる存在でもあります。無類の動物好きの私ですが、様々事情がありまして猫さんだけは共に暮らしたことがなく、日に日に募る想いから、お薦めの『猫の絵本』をご紹介させていただきます。猫好きさんもそうで無い方にも、心に響く1冊があればとても嬉しいです!

①『ちいさなねこ』石井桃子 作・横内 襄 絵/福音館書店

画像1

ある日おうちを飛び出してしまった、小さな仔猫の大冒険。低年齢のお子さんとも無理なく楽しめる、シンプルな画面運びと、だからこそハラハラさせてくれる迫力、温かくも繊細な挿絵がとても魅力的です。初版発行は1967年。鮮やかに紡がれた物語と絵は、50年以上の月日を経ても色あせないのだと、今更のように絵本そのものの魅力にも気づかせてくれます。実は小さな仔猫ちゃんが遭遇する”アクシデント”は、子どもが外で出会ってしまいがちな危険ともぴったりリンクしていますね。親子で純粋に物語を楽しみながら、無理なく、お外での安全な遊び方についても考えたり話すきっかけをくれる作品なのかもしれません。

②『ぼくはいしころ』坂本千明 作/岩崎書店

画像2

紙版画のクリエイターとして活躍されている、坂本千明さんによる絵本作品。白い背景に浮かび上がる黒猫の優美な表紙にまず目が惹かれる作品ですが、タイトルに「?」と意外性を感じます。ページを開き読み進めると、その”いしころ”の意味がハッと胸を突く瞬間があるんです。実際に猫という存在を愛するのはもちろん、普段私たちの目には見えないところで確かに存在している、ひとつひとつの命の存在について、目を背けず向き合わなければ描けない世界。だからこそ、とても胸に迫る痛みと温かさがあります。ラストはとても温かく、安心してお子さんともお読みいただきたい作品ですが、大人の読者にも、忘れがちな小さな存在の「愛おしさ」を思い起こさせてくれる作品だと思います。

③『ねこのオーランドー 3びきのグレイス』キャスリーン・ヘイル作、こみやゆう 訳/好学社

画像3

作者は19世紀イギリス生まれのキャスリーン・ヘイル。先輩司書さんに薦められ、鮮やかなカバー画やリズム感あふれるポップな物語に、まさか古典と呼ばれる作品とは思わずにまずは読みふけってしまいました。近年、好学社さん、福音館書店さんで作品が復刊されており、この『3びきのグレイス』もそのひとつ。”擬人化”などという言葉では堅すぎるくらい、自然に愛情たっぷりに、互いを思いやり機嫌の良い日々を過ごすオーランドー一家の日常の全てが、頬ずりしたくなるほど愛おしいです。「そらとぶじゅうたん(猫)」のファティマの存在、呪い野魔法にかかってしまった母グレイス、彼女を助けるためのサンタクロースの元への冒険旅行。途中で『ミルキーウェイ』、アイスクリームとミルクで出来た川でついつい降りてみんなでたらふく飲んだり食べたりしてしまうところなど、憎めない魅力がたっぷりです。家族1人1人のキャラクターが細かく描き分けられているところも、絵本の体裁を取りながらも高学年の子でも夢中になってしまうような物語の濃密さがあります。リズム感あふれるこみやゆうさんの訳文が、いっそう、ストーリーの魅力を引き立ててくれています。優しさとユーモア、愛らしいイラストにあふれた宝箱のような物語、ぜひ一家に1冊必携のおすすめ作品です。

④『あのねこは』石津ちひろ 作・ 宇野亞喜良 絵/フレーベル館

画像4

猫の絵本は、”今、ともにいること”の喜びや嬉しさを感じさせてくれるものばかりではありません。かつて愛した猫を喪った後の、ある少女の想いが綴られていく本作は、実際に同じ経験をした方からすると、手にするのもつらい作品かもしれません。けれども、実際には「もう」いない存在に想いを馳せることで、少女の中で大切だった「あのねこ」は決して消えず、心の中に生き続けている。回想の中に、不思議とそんな未来への希望まで感じさせるのは、著者である石津ちひろさんの言葉選びの美しさと妙、そして宇野亞喜良氏の叙情感あふれる素晴らしい挿絵の相乗効果によってでしょう。一編の詩のようにさらりと読めるシンプルな構成ながらも、読後、いつまでも心に優しい爪痕を残す。相手が誰であっても、何であっても、誰もが相手を愛し生きる以上、避けて通れないその1点を、美しく感情豊かに、鮮やかに胸へ刻んでくれる素敵な作品です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?