口も頭もフル回転003

口も頭もフル回転

ーオレとアチキの西方漫遊記(28)

ボリューム満点の夕食メニューに加え、5人前の鰹のタタキ。ともに民宿の自慢料理だ。当初、完食できると高を括っていたが、やがて奥さんが脱落し、そこに黄信号が灯る。「よく食べる」と評されるわが夫婦にも限界はある。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉が思い浮かべるも、ここで諦めるわけには行かない。ただ、この難局を気合だけで乗り越えようとするのは愚かしい。食べながら知恵を絞る。口も頭もフル回転だ。

前回のお話:「お調子者のレース運び」/これまでのお話:「INDEX

策を弄す

「この程度の量なら、土佐っ子ならペロッと平らげるわよ」ー。宿の女将さんはそう言って笑った。安っぽい挑発にも聞こえるが、きっと事実なのだろう。これにあらためて気を奮い起こす。そもそも自分で予約した「かつお堪能!タタキてんこもり!」プラン。 頼んでおいて残すのは恥ずかしい。 自分で蒔いた種は自分で刈り取ろうと新たにする。

とはいえ、限界が見えてきた胃袋。無策で立ち向かうのは愚の骨頂だ。状況を踏まえ、まず提案。女将さんに残った分を冷蔵庫で取り置いて明日、朝食と一緒に食べられないかと尋ねる。返答はNO。新鮮なものは新鮮なうちに食べてもらいたいというのが宿側の言い分だ。確かに鰹は青魚。炙っているとしても、傷みやすいのに変わりないだろう。

次に特製ダレとおろしニンニクの組み合わせ以外の食べ方はないかと聞く。女将さんは塩で食べても美味しいし、ご飯の上に載せてお茶漬けにして食べるのも良いと勧めてくれた。まず塩を試すと、ちょっと風味が変わっていい。続いて、お茶漬け。特有の臭みが抜け、これまでとは違う新鮮な味わいだ。いったん落ちていた箸のピッチが幾らか回復する。

メンジョイ

思わぬ効果

こうした食べ方が思わぬ効果を生む。いったんギブアップしていたはずの奥さんが、これまでと違った味わいを楽しんでいる様子を見て、興味が湧いたらしい。どこか恐る恐るだが、鰹のタタキを少しずつ食べだした。戦線復帰だ。微々たる戦力だが、無いよりもマシだ。お茶漬けが気に入ったらしい。「最初からこの食べ方を知っていれば」と負け惜しみが聞こえた。

胃袋の限界が近づく一方、完食というゴールも見えてきた。(続く)

(写真〈上から順に〉:民宿自慢の料理の数々に感じ始めた胃袋の限界。とはいえ完食を諦めない〈イメージ〉=りす、土佐っ子の間ではよく知られた鰹のタタキを載せたお茶漬け=メンジョイ)

関連リンク(前回の話):

「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:


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