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ひらがなエッセイ #41 【る】

    人間は嫌いだが、人混みは好きだ。というポジションで暮らしていた学生時代は、お祭りや花火大会、各種イベント事に狂ったように出かけた。人混みに紛れると自分の輝きすぎる個性が色褪せて、一般人になれる気がするんだ。と、当時は真顔で言っていた。タイムマシンが完成したら、あの頃の自分を殴る。ボッコボコにしたる。その後抱きしめて一緒に泣いてやろう。それで世界は上手くいく、パーラパラパラパーラダイス。以前の自分の方がまだマシだったのかも知れない。

    大学時代を過ごした神戸では、阪神淡路大震災以降、復興、地域活性化の為に【ルミナリエ】と言う光の祭典が行われていて、今では年末の風物詩となっている。私はこの【ルミナリエ】が好きであった。光のアーチを大人数でくぐる姿は、みんな揃ってエデンの園へ向かう様で、とても美しかった。終点の東遊園地では、公園を囲むように光のアートがそびえ立ち、出店なんかもある。まさしくそこは、理想郷であった。ベビーカステラ美味しかった。

    好きであった、と書いたのは、今ではそんなに好きではないからである。何故なら、いつの間にやら私は、人間は好きだが、人混みは嫌いだ。と言うポジションにシフトしたからである。年末はコタツにミカンでええ。出かけとぅ無い、出かけとぅ無いんじゃ。でもたまには出かけないとな、久しぶりに行ってみようかな【ルミナリエ】。

    何故か無性に野菜が食べたいと思うのは、野菜が足りてないからだよ、と言われるように、美しい物が見たい、と思うのは、美しい物が足りていないからなのであろうか。日常の繰り返しに辟易しているなんて、惰性で時間を浪費しているなんて、あの頃の私は今の私を見て何と言うだろう。彼ならきっと、こう言うんじゃないかな。

    君がそこにいる事を望んでいるのなら、止めはしない。だけど本当は望んでいないとしたら、僕についておいで。とても綺麗な世界を見せてあげるよ。

    やっぱり殴る。そう思った。

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