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日記(新校本宮澤賢治全集/ボローニャ国際絵本原画展/シェアサイクルでの古本屋巡り)

新校本 宮澤賢治全集

休日の午前に宅配便が届いた。玄関を開けると、いつも来てくれる配達員の方の息がいつもに増して上がっている。
自分の住む部屋は3階以上に位置しており、しかしながらマンションにエレベーターがない。つまりやたら重たい荷物を持って階段を登ってきたようで、こればかりは自分の責任でもないのだが、夏に重労働をさせて申しわけないと思った。
いざ受け取ってみると、ずしりと腰が嫌な感じで痛む(自分は腰痛持ちである)。梱包を開けてみたのがこちら。

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『新校本 宮澤賢治全集』(1-9巻のうち7巻欠品)。1巻あたり6000~12000円×全18巻という正に全集という値段の本で、ある通販サイトで300-700円という破格で投げ売りされていたので衝動買いしたのである(ちなみに、「宮沢賢治」ではなく「宮澤賢治」とあるのは間違いではない。戦前は宮澤だったのだ)。
研究者の千葉一幹は『ミネルヴァ日本評伝選 宮沢賢治』(2014、ミネルヴァ書房)の中で「日本で出版された様々な全集類の中でも群を抜き優れた全集」と評している。宮沢賢治は改訂が大好きだったことで知られており、宮沢家に残された原稿や自作の出版本(『春と修羅』など)には事細かに赤字や訂正が入っている。この全集は、そういった作品形態の変遷のほぼ全てを網羅しようとして、それにほぼ成功しているのである。
実際紙面をめくってみると、たしかにすごい。百聞は一見にしかずということで、実際の紙面を見てもらった方が早いと思う。

『新校本 宮澤賢治全集』2巻本文編199ページ

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『新校本 宮澤賢治全集』2巻校異編119ページ

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これらは『春と修羅』の巻だけれど、初版本に対してどのバージョンでどう赤字を入れているか、どう内容を変えているかを全部網羅しようとしている。正直、ちょっと異常である。ここまで細かいともはや研究者向きの代物なのでは……という気持ちを届いた後に抱いたが(本そのものの重さと存在感に圧倒された)、しかし破格で投げ売りされてたら買うしかないでしょう。急いで揃えるものでもないし(読む時間もなければ活用する向きも出てこない)、のんびり揃えていきたい。

ボローニャ国際絵本原画展2020

コロナ禍で開催が1ヶ月程遅れたが、今年も板橋区立美術館でボローニャ国際絵本原画展が開催されている。

イタリアのボローニャで毎年開催されている絵本原画コンクールの入選作を集めた展示会。大学時代、夏にコミケで東京に来たときに訪れてからというもの、毎年必ず観に行くようにしている。
公募は絵本の原画5枚から受け付けてるので、展示は作品の特徴をよく表した原画が1作品につき5枚。これがどれもこれもクオリティが高い。
図録から4ページほど引用(ページ番号はすべて『2020イタリア・ボローニャ国際絵本原画展』(2020、一般社団法人日本国際児童図書評議会)のもの)

チェ・ダニ「サーカスのヘンテコ小屋」(P53)

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トマス・オリボス「偉大なる魂」(P127)

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アミール・シャアバーニーブール「月の泉のウサギたち」(P144)

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ユン・カンミ「木が育つビル」(P185)

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絵に対する語彙が少なくて表現が乏しくなるのだけれど、「こういったストーリー展開をこう表現するのか!」という表現力への驚き、「1枚のページにこんなに情報量が多いものを詰め込めるのか」という衝撃を1-2時間あまりで何度も体験するので、毎回刺激になる。

それはそうと、一番印象に残ったのはラム・キンチョイ「未来を夢見て」。香港の作家さんで、香港民主化デモを題材にした作品が入選していた。原画5枚の題名と絵の内容は以下の通り。

独裁者:テレビ中継する誰か(指導者)の周りはついたてで覆われていて、銃を持った兵隊がその周囲を警備している
卵と壁:民衆と兵隊
街角:覆面と傘で固まり身をよせあい、前を向いて立ち向かおうとする人々
今日もスモッグがひどい:白煙の中、逃げ惑い、軍や警察ともみあう無数の人々(スモッグ=催涙ガス!)
二度と家には帰れない:独房にいれられた無数の人々

また、今年は特別展示がまた良かった。題は「視るを超えて」。視覚障害者向けに作られた絵本の実物などが展示されている。
展示の様子が実際に公式動画で上がっているので、参考までに。

視覚障害者向けなので、「触って楽しむ」ことを意識して特注された本が勢揃い。印象的だったのは、ページが紙ではなく布でできた本が多かったこと。本文(点字)に詩が書かれていて、その横のページにある布のポケットに手をいれてそこに何があるかを確かめる、という趣向のものが2-3点あった。で、これ観た時に衝撃受けたんです。「ポケットに手を入れる」っていうの、健常者には変わったギミックだなってだけなんだけど、視覚障害者の方には「ポケットに手を入れて手探りで調べる」っていうのは日常的な行為なんですよね。「ポケット」という「中に何があるか目で見てわからない作り」っていうのは健常者だけに意味を持つ。このことに気づいたときのショックはそれなりにでかかった。
その他、本のページを木版画のように作りなおして来場者が実際に触って楽しめるように作られた展示なんかもあったんだけれど、これはコロナ禍で感染拡大防止のため視覚障害者の方以外は触っちゃだめということになっていた。仕方ないことなんだけれど、コロナマジでさぁ……という気持ちになった。
なお、この特別展示、実は内容が図録には掲載されない(毎年そうだったかもしれない)。更に、入選作は5枚の絵であるのに対して、図録はその5枚を全部載せているわけではない。ものによっては2-3枚しか載っていないので、あとから図録で見るのはかなり物足りなくなると思う。
こんな感じで、今年はなかなか行きづらい環境にある方が多いと思うのだが、例年以上に見どころがある特別展になっているように思う。なので、行ける場所に住んでいる方はぜひ行ってみてください。おすすめです。子ども連れで行っても喜ぶと思う(絵本展示だから)。
↑でも貼った公式ページがかなりオシャレでステキなのでもっかい貼っとく。

あと、マスクデザインの入り口の写真がステキだった。

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板橋区立美術館のGoogleマップ

シェアサイクルでの古本屋巡り

観終わったあとそのまま帰ろうかとも思ったが、いい天気だったし、この日は特に予定もなかったので、帰路の一部(板橋~池袋まで)にシェアサイクルを使うことにした。貧乏性なので、「せっかく板橋に来たんだし、自転車で行けそうな距離にある古本屋でも寄って帰るか」と思ったのだ。
使ったのはハローサイクリング。

山手線の内側はあまりカバーしてないが、都内に結構駐輪場所があるので結構重宝している。家のド近所にもあって気軽に使えるのがでかい。流石に家まで自転車走らせるのは面倒だったので、あくまで池袋までとした。最終的に辿った経路がこちら(地図の表示がうまくいってないが、下記地図「その他オプション」の徒歩経路表示で出てくるのが正しい経路)。


なんで埼玉に行ってるんだろう……でもGoogleマップでヒットしたお店の名前に「全品3割引き」とか書かれてたら行くじゃないですか。行かない? そっか……。
それはそうとその埼玉にあった戸田公園駅前の「くらの書店」さんは少し古い漫画やゲームを保存状態良好のままたくさん揃えてて、その道の人たちにはたまらない代物が多いんじゃないかなと思いました。

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『鉄腕アトム』のめっちゃ古いバージョンの本が全巻3万円とかであった。自分は古本屋で探すの主に海外文学やSFなのでそっちの方で刺さるものはなかったからさっと離脱した。

さて、道中、荒川にかかる戸田橋を渡っていたら、いい感じの青空にでっかい入道雲がみえた。

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視界を遮るものがない状態で入道雲みるの、一夏に1回くらいやっておかないと良くないですね(良くないとは?)。しかしどうやらあとで天気を調べ直したところこの入道雲の下(都内の23区西側あたり)ではにわか雨でてんやわんやしてる人が多かったらしく、なんか他人の不幸を楽しんでたみたいな感じがして謎の申し訳なさを感じた。

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これは横を通りがかったときに撮った戸田ボートレース場の様子。丁度レース終了タイミングだったっぽくていい感じの写真は撮れなかった。

さて、日記書いてて気づいたけど、多分自転車乗って古本屋巡りするの数年ぶりだったのではないか。大学時代は講義の空き時間に出町柳から四条寺町まで下って古本屋ざっと巡るの結構頻繁にやってたんだけど、社会人になってからは全然やらなくなった。自転車盗まれたあと買い直すのおっくうになったとか、通勤経路内にあるブックオフを日常的に巡る方が効率的とかそういう事情もある。自分は普段休日になると山手線の駅で適当におり、適当に散歩して帰ることが多かったので、自転車で移動するという習慣が抜けていたのも大きい。
なので、今回の古本屋巡りも、「古本屋を巡る」ことではなく「自転車を走らせる」ことの方が主目的だったところが多い。実際、7軒はしごして買った本1冊だけだった……。割と積ん読がたまってきてるし、出かける直前に『新校本 宮澤賢治全集』が届いたばかりだったし、購買意欲が薄れていたのもある。とりあえず海外文学やSFの値下げ棚を軽く覗いて回って、古本屋の雰囲気(古本屋の大きさ、品揃えや値付けの傾向はどんな感じかなど)を覗くくらいにするつもりだった。
しかしこの道中でデヴィッド・フォスター・ウォレス『ヴィトゲンシュタインの箒』(講談社、1999/原著1987)が見つかるとは思わなかった。

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デヴィッド・フォスター・ウォレスはInfinite Jestといったアメリカポストモダン文学の旗手として有名で、インターネットだと「これは水です」というスピーチで一時期話題になった(このスピーチは書籍として別途出版された)。2008年に死去していて、本作がデビュー作。邦訳はこれと『奇妙な髪の少女』の2つのみ。本の状態はそれほど良くなく、値付けも定価より安いが半額よりも高かったのだけれど、そもそもこの本、古書価が高騰していて(市場に出回らず、amazonのぼったくり古書価で1万円超え)読む機会が全然なかったので見つけたことそのものに動揺してしまった。即購入。

あと、M's Tasting Roomにも立ち寄れそうなので軽く覗いてきた。

ウイスキーを量り売りしてくれる店で、100を下らない無数のボトルが10mlから試飲・販売している。品揃えがやばい。オフィシャルボトル以外にボトラーズ(蒸留所から樽を買って自社で独自にボトリングする業者)の商品がゴロゴロおいてる。品揃えだけなら並ぶ店はたくさんあるだろうけど、ハイランドパークのボトラーズを8種類くらい飲める店は今のところここ以外に知らないかな……。
(試飲で有名なリカーズハセガワは酒類をオールマイティに扱ってるのがポイントなので、ウイスキーの試飲だけに限ればそれほど数は多くない。あと東京駅地下の商店街にあるから店舗面積があまり広くないのがいただけない。リカーマウンテン銀座777店は数だけなら並ぶか勝るかすると思うがオフィシャルボトルの方が大半だった筈。目白の田中屋はウイスキーやスピリッツの品揃えはワンチャン日本一だと思うが試飲をしていない)
ちなみに、今回は立ち寄ったものの試飲も購入もしていない。古本と同じで酒屋や飲食店は、外観や店頭ラインナップだけ覗いて利用はせずに帰る(場所だけ覚えておく)というのをやりがち。癖というか趣味みたいなもんだと思う。

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そんなこんなで寄り道してたらすっかり夜になっていた。で、涼しくなったので、本当は池袋駅から電車に乗るつもりだったけれど、そのままもう少し歩きたい気持ちになり、結局数駅散歩をして帰った。
最近は自宅勤務がずっと続いていて運動の機会に乏しくなっているので、しっかりカロリーを消費していきたい……(1キロほど体重が増加したらしい)。

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