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「半福半X」が目指すのは、多様な「らしさ」が重なり合う社会|伊豆大島ツアー&ワークショップ 2023 Summer レポート・後編

その地域で、だれかの「自分らしい暮らし」を支える仕事をしながら、自らも「自分らしい暮らし」を副業的に実践する。そんな「半福半X」のライフスタイルを模索する新たなプロジェクト「Work in Local & Social」の伊豆大島ツアーが、7月9日、10日の2日間にわたって繰り広げられました。 

前編では、伊豆大島ツアー1日目に行われた「大島恵の園の見学」と「波浮エリアの散策」の様子をお伝えしました。後編では、1日目夜の「トーク&交流会」、2日目の「『わたしの半福半X』を考えるワークショップ」をレポートします! 2日間の旅を経て、14名の参加者が考えた「Local & Social」とは?

▼ 前編はこちらから ▼


◆ DAY1

● 【トーク&交流会】根っこにあるのは、自分らしさ

夜の交流会の会場となったのは、波浮エリアにある「泊まれる酒屋 火とお酒」。火とお酒は、焚き火とお酒が楽しめる一棟貸切の宿で、2023年4月にオープンしたばかりの島のホットスポットです。日が沈み辺りが暗くなってきたところで、まずは交流会の準備に取りかかりました。

泊まれる酒屋「火とお酒」

火起こしチームは、焚き火が趣味だという松岡施設長に火起こしを教わりながら、調理チームは中本さんを中心にバーベキューの準備を進めていきます。

火起こしを初体験!

火がともり、食材がテーブルに並ぶ頃、武蔵野会のみなさんや大島のみなさんもぞくぞくと集まってきました。準備が整ったところで、みんなで乾杯! 待ちに待った交流会のスタートです。

焚き火のあかりが会場を照らします
みんなで乾杯!

交流会の冒頭、大島でさまざまな活動を行う3名に挨拶をいただきました。1人目は、千葉努さん。千葉さんは2010年に伊豆大島に移住し、大島を拠点にデザインオフィス「トウオンデザイン」を営み、コミュニティや場づくりをテーマにした多種多様なイベント企画やメディア作りを行なっています。

トウオンデザイン・千葉努さん

千葉:離島をはじめ地方は、人と人との距離が近いといわれますが、近いからこそさまざまな出会いが生まれやすいと思っています。ここでの出会いを大切に、いろんなアクションをしてもらいたいですね。

2人目は、稲田晋司さん。大島出身の稲田さんは、株式会社フロンティアコンサルティングファームの執行役員を務め、現在はデザイン部の部長として、働き方を豊かにするデザインやリサーチ活動を行なっています。

株式会社フロンティアコンサルティングファーム・稲田晋司さん

稲田:私は大島南部のクダッチの出身で、高校3年生まで島で暮らしていました。進学を機に島を離れ、生活の拠点は現在も本土にありますが、育ててくれた地域に還元したいという思いはずっと変わりません。今年の5月に明日の会場、WELGOを大島に開設しました。島での多様な働き方を実現するひとつのきっかけになれたら嬉しいですね。

3人目は、山口健介さん。稲田さんと同じく、大島出身の山口さんは、結婚・子育てを機に、夫婦で島へUターン。2020年10月にゲストハウス「露伴」をオープンさせ、現在は、新たに喫茶店と一棟貸切の宿の開設に向けて準備を進めています。

露伴・山口健介さん

山口:島に戻ってきた当初は、介護福祉士として働きながら、趣味のDIYスキルをいかして、友人の物件の手伝いをしていました。これまで培ったDIYスキルがあれば、自分も宿ができるかもしれないと、セルフリノベーションで作り上げたのが「露伴」なんです。これからも島内外の方が交流できる拠点をつくっていきたいです。

デザインスキルをいかした地域プロジェクト、島外に暮らしながら大島に新たな風をもたらすコワーキングスペース、趣味からはじまったゲストハウス。どの活動も根っこにあるのは、ルーツや自分らしさです。

あなたの「X」やあなたらしさは何か?
Localに根ざして活動するみなさんから、一つの問いが投げかけられたような気がしました。 

冒頭の挨拶が終わった後も会場では、大島について、福祉についてそれぞれの思いを語り合う姿がみられました。焚き火を囲み、星空を眺めながら語り合う。島に流れるゆったりとした時間が、立場や肩書きをいったんおろして、等身大の自分に向き合うきっかけをつくっているのかもしれない。そんなことを感じました。

各テーブルに分かれて語り合う時間

「火とお酒」のオーナー・吉本浩二さんも、会の終盤に合流。吉本さんは、「火とお酒」の2階部分にある酒屋「高林商店」、隣のゲストハウス「青とサイダー」なども経営する、波浮港で新たなアクションを起こす一人です。

火とお酒オーナー・吉本浩二さん
高林商店でドリンクを購入

吉本:今は、伊豆大島初のクラフトビール醸造所の開設に向けて準備を進めています。一緒に頑張る仲間が近くにいることが原動力になっています。自分も負けてられないですね。

吉本さんをはじめ、ゲストのみなさんとまだまだ語りたいところでしたが、明日のワークショップに備えて交流会はおひらきに。波浮港に点在する宿泊場所に分かれて眠りにつきました。


◆ DAY2

● 【トークセッション】LocalとSocialが、わたしをわたしらしくする

2日目。サンドイッチを食べて腹ごしらえをしたあとは、ワークショップ会場に向かいます。今回のワークショップの会場となるのは、今年の5月にオープンしたコワーキングスペース「Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO」です。

一晩を経てさらに距離が縮った参加者のみなさん

大島町椿公園の建物を活用して新たにオープンしたWELAGO(=ウェラゴ)の名前は、「Work」と多島海域(諸島・列島)を表す「Archipelago」を掛け合わせた造語に由来します。

新たにオープンしたコワーキングスペース「WELAGO」

「都市と地方の共存社会を、多様な働き方から描く」を目的に掲げ、島内外の方が無料で利用できるコワーキングスペースとして運用されているWELAGO。壁一面に描かれたシンボリックなアートや靴を脱いでリラックスできるスペース、窓から見える大島の自然など、オンオフの切り替えがしやすいように、細部までこだわってデザインされた空間だと感じました。

WELAGOの壁一面に描かれたアート

会場に到着後、5名ほどのグループに分かれてまず簡単なアイスブレイクを行うことに。紙を3等分に折り、自分の好きなもの、嫌いなもの、大島で印象に残っていることを書き込んでいきます。初日のツアーで見聞きしたものを振り返り、自分自身についても棚卸ししていく時間になりました。

アイスブレイクでは1日目を振り返りました

次に、Work in Local×Socialのプログラムコーディネーターを務める今津新之助さんより、ワークショップの導入として、武蔵野会がこれまでやってきた取り組みを紹介していただきました。

Work in Local×Socialプログラムコーディネーター・今津新之助さん

今津:今回のツアーでは、福祉施設だけでなく大島のまちも一緒にみて回りましたよね。これは、みなさんに島で暮らすことを前提に、恵の園で働くことを考えてもらいたかったからです。

既存の就活に違和感をもつ学生の増加、介護福祉業界で叫ばれる人材不足。この2つにアプローチしていくために「半福半X」という概念を掲げました。これをキーワードに、福祉に関わる人や自分らしい働き方を目指す人が増えてほしいなと思っています。

福祉に関わる人を増やしていくためには、狭義の福祉を広義の「ふくし(=ふだんの・くらしの・しあわせ)」にひらいていくことが必要だと考えています。 

現場の人たちだけで支えるサービスとしての「福祉」だけでなく、地域の人たちとともに取り組む「ふくし」の試みを、ここ大島でも実践していきたいと思います。

続いて登場したのは、ゲストの小松理虔さん。小松さんは、地元福島県いわき市を拠点に、ローカルアクティビストとして、食や観光、医療福祉、文化芸術など幅広い分野の企画・情報発信を行っています。小松さんからは半福半Xを実践する上で、ヒントとなる考え方をレクチャーいだきました。

ヘキレキ舎・小松理虔さん

小松:LocalとSocialに関わるなかで、大事にしているのはおもしろがる姿勢。ここでいうおもしろがるとは、地域も人もリスペクトしながら、目の前にあるものを興味深いものとして捉えることです。

どの地域も人口減少や高齢化など、抜き差しならない課題を抱えています。そうした地域課題に対してネガティブなイメージをもつ人もいるかもしれないけれど、ネガティブなものをネガティブなまま受け止めてしまうと、苦しくなってしまう。ネガティブなものを興味深いと面白がっていく視点がやっぱり必要なんです。

目の前のものを興味深いものと捉えた瞬間、どうして今の姿(課題)があるのだろうと問いが生まれ、課題の背景を探れるようになったり、地域らしさがつかみやすくなると小松さんはいいます。思考のスイッチひとつで、ビビッドに地域を捉えて、暮らしをより豊かにすることができるのです。

印象的な言葉は手元の紙にメモ

小松:一方Socialをみていくと、福祉施設で働くみなさんは、その人がその人らしくいられる空間をつくっていらっしゃいますが、その時間って、ある意味自分の存在も許されている時間だと思うんです。自分にもダメな部分があるけれど、目の前の人を支えることを通じて、そんな自分も一緒に支えられていく。充足感が得られると、自分自身や自分らしさも見つかっていきます。

また、福祉施設は地域のなかにありますが、その場所でその人らしくいられる空間をつくっていくためには、仲間や他者の協力が欠かせません。福祉はそもそも地域があって成り立つものなので、Localの担い手とSocialの担い手が協働していくのが理想ですね。

LocalとSocialが少しずつ重なり合っていくことで、自分も福祉も地域もよりよくなる。半福半Xは、新しい社会モデルをつくる取り組みといえるのではないでしょうか。

LocalやSocialに対して漠然としたイメージを持っていた参加者も、2つの現在地を知り、視座が高まったようでした。

大島から、新たな社会モデルを提唱していきたいと語っていた小松さん。続くトークセッションでも、今津さんと小松さん、合同会社千十一編集室の代表、大正大学表現学部専任講師などを務める編集者の影山裕樹さんの3名で、半福半Xが現代社会に投げかけるメッセージについて話し合いました。

合同会社千十一編集室・影山裕樹さん

影山:うちの大学では、福祉と聞くと施設で働くイメージをもっている学生は多いです。でも、福祉って、根本的には社会の寛容性を増やしていく取り組みなんじゃないかなと思います。

どの地域にも、障害者や子ども、お年寄りの施設はありますが、そういった施設は今、社会から隔絶された場所にあります。自分と異なる立場にある人たちが、分断されていた方が居心地がいいからですね。 

しかし、このまま分断が進むと、どんどん不寛容な社会になってしまう。そこをつないでいくのが福祉の役割なのかなと思います。自分とは価値観は違うけれど、こんな人も地域社会にいるんだなと知っていること、接点を持っておくことがすごく大事ですね。多様な人たちが重なり合うコミュニティは、 災害時にも強かったりするんです。

Work in Local×Socialの取り組みを、広義のふくし、つまりさまざまな他者に対して寛容な社会をつくるという文脈のなかに、位置付けていけたらいいんじゃないかと思います。大島だけでとどめるのではなく、他の地域にも広げていきたいですね。

だから、今日のワークショップでも、大島にこだわることなく、自分が属するコミュニティや活動しているフィールドなど、まずは自由に「半福半X」を考えてもらいたいです。

3人の鼎談

小松:半福半Xは一見すると、中途半端、どっちつかずと捉えられてしまうこともあるかもしれません。でも、半福半Xというあり方だからこそ、両方の立場や言い分がわかって、橋渡しをすることができる。半福半Xが、地域をコーディネートしているという見方もできますね。

さまざまな視点から半福半Xを捉えるトークセッションとなりました

影山:最近ローカルでは、地元の強いコミュニティと都会から移住してきた若者のコミュニティの対立が鮮明になっていると感じています。SNS上には若者世代が多いので、意見が投稿されるとみんな若者の味方についてしまう。メディア上の分断がコミュニティの分断にそのままつながっています。

これを解消するためには、小松さんが言っていたように、地域の文化や歴史、人間関係などに理解があり、よそものの気持ちにも共感できる人、まさに両者のあいだをつなぐ人が必要です。

福祉が両者をつなぐ接点となり、 迂回する回路の一つになったらいいですよね。回路がたくさんあった方が地域は多様になりますし。それでいうとこのプロジェクトは、地域や福祉の関係案内人を増やし、よりよい地域社会を作る取り組みだという意識も、頭の片隅においてもらってもいいのかもしれません。

地域と福祉事業所の関係性について語る小松さん

小松:大島で何かしらのアクションをするときには、数十年にわたってここで事業を展開してきた武蔵野会の価値をめちゃくちゃ活用できますよね。

地域から信頼を得るのに、10年、20年と長い時間を費やすよそものもいます。その一方、島民の人たちの心の中には、恵の園のスタッフがいろんな困りごとを抱える人をケアしてくれているという思いが、どこかにあるはずなんです。

恵の園の職員として、片方の軸足を福祉に置きながら地域に関わっていく。それは、中途半端なあり方ではなく、むしろ相乗効果を生み出すものではないでしょうか。

今津:地域で活動するみなさんと一緒に何かをやっていくときに、施設の成り立ちやこれまでの歴史をふまえて、「恵の園ってなんかいいよね」と言ってもらえるような福祉施設を目指していきたいですね。 

おふたりとのお話を通じて、このプロジェクトの社会的な価値を再確認できました。今回このツアーに参加してくださったみなさんも、それぞれの視点で半福半Xをおもしろがってもらえたらと思います。


● 【ワークショップ】「わたしの半福半X」を掲げる

話題提供が終わり、「わたしの半福半X」を考えるワークショップがはじまりました。ワークショップは、グループで半Xを考える時間と、個人で半福半Xのプランを考える時間の2部構成で進んでいきました。

「半X」を考える第1部では、まずは自分にとってのXを紙に書き出していきます。自然をいかしたワークキャンプやビーチヨガ、魅力発信といった「大島」が軸にあるキーワードもあれば、本やフリーペーパーの制作、国際交流など「個人の関心」が軸になったキーワードも出てきました。

自分にとっての「X」を考える時間

同じ時間を過ごしていても、印象に残っているものは人それぞれ。書いたメモを班のメンバーに共有しながら、その違いに驚いている様子でした。

次に、出てきたキーワードの共通点を見つけ出し、グループ分けをしていきます。本とまち、暮らしをささえる、イベントや場づくりなどがテーマにあがりました。まちづくりのワークショップでは、食や観光がテーマにあがりやすい一方、福祉に関心をもつ人が多いからこそ「暮らしをささえる」というテーマが出てきたのかもしれません。

テーマにあがった「暮らしをささえる」
メンバーで話し合いを重ねます

最後に、グループで出たテーマやキーワードを全体でシェアします。ワークショップに参加していた田部課長や中本さんから「大島にそれほしかった!」という声があがったり、もっとこうしたらおもしろくなるんじゃないかというアドバイスがよせられたりするなど、活発な意見がかわされていました。

班で出た意見を全体で共有します
みんなでアイディアをブラッシュアップしていく時間に

お昼休憩が終わると、2日間の集大成である「半福半X」プランを14名全員に発表してもらいました。プランのなかには、恵みの園の利用者とスタッフの思いを表現する場づくりや大島の魅力と自分の興味関心とを結びつけたプランなど、明日からでも取り組めそうな実現性の高いアイディアもありました。

ひとりずつ自分の「半福半X」を発表
イラストと言葉で自分のプランを表現しました

発表を聞いていた松岡施設長と千葉さん、稲田さんからは、プランを前に進める具体的なアドバイスが送られていました。また、ワークショップの最後、参加者からはこんな声があがりました。

「この2日間、本やネットの情報に向き合うだけじゃわからない大島の魅力にたくさん気づけました。」
「半福半Xを実現できるように、ここで出会えた仲間と協力していきたいです。」
「東京へ帰ったら日常に戻りますが、今回のツアーを学んだことを明日の活力にしていきたいです。」

ゲストのみなさんから好評をいただきました

大島のLocalとSocialを体感する1泊2日の現地ツアーを終えて、今回14の半福半Xのアイディアが芽吹きました。9月に行われるプレゼンテーションに向けて、ここからさらにアイディアをブラッシュアップしていきます。一人ひとりの芽がどのように育っていくのか。とても楽しみですね!

1泊2日のツアーが終了!おつかれさまでした

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9月10日に行われる「公開プレゼン&トークセッション」の申し込みを、先日より開始しました! 当日の詳細は、以下のpeatixでチェックしてみてください。

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