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「半福半X」で見つけたのは、わたしらしさ。|半福半Xな暮らし・働きかたを考える 公開プレゼンテーション&トークセッション 2023 Summerレポート・後編

伊豆大島ではじまった「Work in Local×Social」は、「半福半X」を掲げ、福祉の仕事をしながら、自分が実現したい「X」を副業的に実践するライフスタイルを模索するプロジェクトです。

伊豆大島で福祉施設「大島恵の園」を運営する「社会福祉法人武蔵野会」と、福祉の関係人口を広げる取り組みを行う「SOCIAL WORKERS LAB」のコラボレーションで、2023年1月にスタートしました。

プロジェクトの第1弾として行われたのが、「わたしの半福半Xを考える」3日間のプログラムです。DAY.3では、「公開プレゼンテーション・フォーラム」と題して、DAY.1-2に行われた伊豆大島ツアーの参加者による「わたしの半福半X」のプレゼン、ゲストのトークセッションが行われました。

▼前編はこちらから▼

イベントレポート後編では、公開プレゼン「わたしの半福半X」や懇親会の模様をお伝えします。


【公開プレゼン「わたしの半福半X」】地域と福祉をつなぐ、半福半X

小休憩をはさんだ後、公開プレゼン「わたしの半福半X」がはじまりました。この日に向けて、自分のアイディアを磨き続けてきたプレゼンターのみなさん。この日は合計6組が、半福半Xのプランをプレゼンしました。6つのプランをご紹介します!

どんな半福半Xが生まれたのか?

●大島特産の椿油を活用したオイルマッサージ/清水万悠子さん
1組目は、大学で社会福祉を学ぶ清水さん。清水さんは、老若男女あらゆる人が集える場づくりを実践したいと、大島特産の椿油を使った「オイルマッサージ」のアイディアを考えました。

清水万悠子さん

8月には、4日間のインターンシップでふたたび大島を訪れ、恵の園の利用者の方にオイルマッサージを実践。肌に触れることを通じて、相手を心から理解できるようになりたいという清水さん自身の願いにもつながる企画です。

恵の園でのインターンシップの様子

●つながる「恵」の本屋さん/大塚葉月さん・坂上智美さん・堀江春香さん
2組目には、恵の園と地域を本でつなぐ、「つながる『恵』の本屋さん」というプランが発表されました。本好きで意気投合した大塚さん、坂上さん、堀江さんが考えたプランです。

大塚葉月さん(右)・坂上智美さん(左)
つながる「恵」の本屋さん

つながる「恵」の本屋さんとは、通常営業している本屋がない、恵の園の職員と住民が接点をもてる場所が少ないという島での2つの課題を解決するために、恵の園やゲストハウス、カフェの一角を間借りして本の展示を行う企画です。本だけでなく、恵の園を会場に、利用者のアート作品を鑑賞して詩をつくる月1ワークショップ企画も提案されました。

会場には、プレゼンターの6名が選書した本と栞が展示された

●愛とぬくもりの研究会/三澤拓也さん
3組目は、現在、生活介護・就労支援員として働く三澤さんの発表です。三澤さんは、ワークショップやレクリエーションを通じて、愛やぬくもりをみんなで探究する「愛とぬくもりの研究会」というアイディアを発表しました。

三澤拓也さん
「触れる」ことを通じて、相手を理解しようという試み

伊豆大島ツアーで訪れた恵の園で、三澤さんは、利用者の気持ちを知ろうと、職員の方が一緒に床に寝そべる姿を目撃しました。相手を知るためには「触れる」「感じとる」姿勢が大切だという気づきから生まれた企画です。

リアルタイムで、プレゼンの感想が参加者からよせられた

●伊豆大島でカラオケ大会/阿部秀飛さん
4組目は、大学で表現や文化を学ぶ阿部さんの発表です。高校生の頃から、音楽活動を通じて、自分の感情や考えを社会に発信していた阿部さん。伊豆大島でのカラオケイベントを企画しました。

阿部秀飛さん
阿部さんは、大学の卒業研究として取り組みたいと語った

気軽に参加しやすい「カラオケ」で参加のハードルを下げ、ステージには、恵の園の広場を活用。利用者・地元住民・観光客が気軽に交流できる場をつくり、新たなムーブメントを起こしたいと語りました。

●めぐみお便り放送局/円城寺遥香さん・大川瑞稀さん
5組目は、大学で福祉を学ぶ円城寺さんと、大学院でボランティア活動を研究していた大川さん。2人タッグを組んで考えたのは、お便りプロジェクト「めぐみお便り放送局」です。

円城寺遥香さん(右)・大川瑞稀さん(左)
おたよりが、交流を促すきっかけに

めぐみお便り放送局の特徴は、恵の園の職員、利用者、地元住民、インターン生など、恵の園に関わった人が、「お便り」を介して福祉との関わりをもち続けられる仕組みになっているところ。福祉施設の中の人と外の人が、対等につながれる場をつくりたいという2人の思いが起点となって、生まれました。

●恵の園でシェアファーム/中本なずなさん
最終プレゼンターを務めたのは、恵の園で、生活支援員として働く中本さん。中本さんが考えたのは、地域にひらかれた施設づくりのアイディア、その名も「恵の園シェアファーム」です。

中本なずなさん
施設の近くに、シェアファームをつくるアイディア

農福連携には、利用者の個性をいかす、住民のみなさんと顔の見える関係がつくれるなど、多くの効果が期待されます。施設内のシェアファームを、他の5人の半福半Xとコラボする場、多様な人が集う場として、ゆくゆくは島のテーマパークのような場所にしていきたいと構想も発表されました。

1泊2日の伊豆大島ツアーを経て、最終的に6つの半福半Xのプランが誕生しました。プレゼンを聞いていた恵の園の職員や大島で活動するみなさんからは、「今後、このプランを一緒に形にしていけたら」と前向きな声が送られ、会場は熱気に包まれていました。

コメンテーターを務めた、フロンティアコンサルティングファーム・稲田晋司さん
恵の園・田部課長

【クロージング】オルタナティブがもたらす新たな価値

クロージングでは、参加者のうちの数名に、プレゼンの感想を全体でシェアしてもらいました。大島在住の方からは、「先に大島に住んでいる私たちが、みなさんのプランにどのように関わっていけるか妄想を膨らませながらプレゼンを聞いていました。この会場でとどめることなく、ぜひ島民の今回の半福半Xのプランを伝えてもらいたい」と、エールが送られました。

「福祉」を捉え直す機会になったという感想が寄せられた

福祉の業界で働く方からは、「自分の福祉観を改めて考える機会になりました。日々現場でいろんな活動をしていると、楽しい部分もありつつ課題感も残ります。管理側としてしっかりやらないとではなく、課題を面白がっていく姿勢を大事にしたいと思います」と、学びを共有してもらいました。

参加者に続いて、ゲストの千葉さん、社会福祉法人武蔵野会・高橋信夫理事長、影山さんからも総評をいただきました。

トウオンデザイン・千葉努さん

千葉:本を通じて、お便りを通じて、カラオケを通じて、つながる。今回のプレゼンを聞いて、コミュニケーションのきっかけをつくる手段はたくさんあると気づかされました。

福祉のベースがあることで、施設の利用者や住民の暮らしをより豊かにしていきたいという視点が生まれますし、地域づくりにもいかされるアイディアだと思いました。今後もみなさんと一緒に、継続的に取り組んでいきたいです。

武蔵野会・高橋信夫理事長

高橋:イベント冒頭の、地域づくりと福祉は共通するものがあるという話が印象に残っています。35年前に福祉の業界に入って以降、私は、福祉は独立した特殊な仕事だと思っていました。今考えると、福祉の側が、地域にひらいていなかったのかもしれません。
 
福祉の担い手だけが集まって考える多様性では、意味がないということですよね。自分と異なる考えを認め、他者に歩み寄る。このようなスタンスの重要性を実感しました。職員の興味をいかしながら、地域とつながっていきたいと思います。みなさん、ありがとうございました。

「Work in Local×Social」プロデューサー・影山裕樹さん

影山:地域とのつながりづくりは、まちづくりにおいてはある種の理想として語られますが、取り組むなかで壁にぶつかる場面もあります。でも、今日の6組のプレゼンにもあったように、他者とのつながりを作る営みはすごくクリエイティブで楽しいものなんです。
 
Work in Local×Socialでその楽しさを発信していきたいと思いますし、今日会場に集まったみなさんと一緒に、ここから地域×福祉の課題を解決するきっかけとなるようなムーブメントを起こしていければと思います。

【懇親会】「わたし」が豊かになった

最後はみんなで集合写真を撮り、イベントは終了。その後行われた懇親会では、オイルマッサージ・愛とぬくもりの研究会・つながる「恵」の本屋さんの3つのブースがひらかれるなど、ゲスト・プレゼンター・参加者がごちゃまぜになり、交流を深めている様子でした。

みんなで乾杯!
清水さんのオイルマッサージを体験するみなさん
懇親会でも、テーブルごとに色々な話題が話された

Work in Local×Socialプロジェクトでは、福祉と地域を行き来しながら、自分の「半福半X」のライフスタイルを模索してきました。すでに、恵の園の職員として「福祉」に軸足を置く中本さんは、今回のプロジェクトをこのように振り返ります。

中本さんの半福半Xは、施設と地域をつなぐ「シェアファーム」

中本:私はもともと、自分の感情ややりたいことをあまり表現できないタイプなので、昔の自分が、今こうして半福半Xのプランを掲げる「わたし」を見たら、きっと驚くと思います。
 
4月から恵の園で働きはじめ、日々、個性あふれる利用者のみなさんと向き合っています。私は、目の前の人を支えることを通じて、あなたのこだわりは何かという問いを、常に利用者のみなさんから投げかけてもらっていたんですよね。そのおかげで、自分のやりたいことはこれかもしれないと気づき、今回の発表につながりました。

伊豆大島、そして福祉の現場に飛び込んだ中本さん

中本:また、大島に移住して他者との関わりが増えたことも、今の自分に大きく影響していると思います。私のことを気にかけてくださる方が多く、「隣に住んでいるおばあちゃんが、牛乳なくなりそうと言っていたから、ついでに買っていこう」と私も誰かを気にかけることが多くなりました。誰かの力になりたいという思いも、アクションを起こす動機になっています。
 
今後、シェアファームを通じて、もっと施設と地域のつながりを深めていけたらいいなと思いますし、私を豊かにしてくれた島の人たちに恩返しできるように頑張っていきたいです。

人や土地に根ざして働くことは、自分のあり方が問われる環境に常に身をおけることでもある。中本さんの言葉を聞いて、ハッとしました。働き方をアップデートしなければならなかったのは、医療や福祉は、移動や自由が制限されると決めつけていた私の考え方だったのかもしれないと。

実際、中本さんは、千葉さんをはじめ、大島で活動するプレーヤーのみなさんに「シェアファーム構想」を伝え、プロジェクトの実現に向けて走り出しています。移動が制限されるどころか、恵の園と地域を自由に行き来し、多様な地域と福祉の架け橋となる「半福半X」のあり方を体現していたのです。

伊豆大島ツアーで行われたワークショップの様子(中央が中本さん)

さまざまな人との関わりのなかで、自分らしさを見つけ、仲間と一緒に夢を叶えていく。「半福半X」は、自分らしさを模索する人、地域や福祉を目指す人たちにとっての希望となる。そんな新しい可能性を感じたイベントでした。


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