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小説・「塔とパイン」 #23

18歳になるころ、僕は進路として「製菓」の道に進むことを決めた。実家が「製菓店である」という一点で、興味があったし、手伝いもしてたから、すんなり決めた。

学校生活はどうだったかというとあまり覚えていない。勉強はそれほどできたほうでもなかったし、興味も持てなかった。スポーツはと言えばこれも大したことはなく、クラスの中では「苦手もなければ、得意もない」微妙な位置にいた。


18歳までの学校生活、振り返ってみれば学校の中での順位・位置づけは本当に平凡で。友達もそこそこいて、バカなこともやったりした。それでも波風立てずに青春時代を終えられれた。


唯一、学生生活の中で評価を受けたと感じたのは「美術」の授業だった。絵を描く学内コンテストで1度銀賞を取ったこともある。他にも工作作品も美術の先生に褒められたことが、何度かある。


先生の評価に偏りがあったか、なかったか。当時はわからなかったけれど、今振り返れば偏りはあったと思う。「褒めて伸ばす」言うは易く行うは難しだが、担当の先生はうまくやっていたように思う。


評価してくれたのはうれしかったけど、芸術の道に進みたくなったわけじゃない。芸術にはさほど興味が持てなかったから。


「4月から、東京の製菓学校に行きます」


担任に宣言したのは夏休みが終わった9月。先生は僕の決断に対して何も言わず「そうか。頑張れよ」ただ一言だった。あとは受験勉強に入るわけだけど、勉強よりも実家の手伝いに精を出した。


3月に「合格」通知をもらった。
春から一人暮らしをしながら、製菓学校に通う。


長年住んだ実家とも、お別れだ。学校でしっかり学んで、職人として独り立ちしたら、いつか帰ってくるかもしれない。心の中でぼんやりそう思って、東京行きのチケットを握りしめて、電車に乗り込んだ。

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