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小説・「塔とパイン」 #24

18歳で製菓学校に通うため上京した僕。当時は20世紀末。なんとなく閉塞感がありながらも、周囲の雰囲気を噛みしめながら過ごしていたころだ。


上京して、やっぱりというかなんというか「東京」に圧倒された。見るものすべて、今まで自分が経験したことのない世界がそこに広がっていた。


「うわぁ~」「すげー」


喜びとも、驚きともつかない一言が、口の端から漏れた。東京って言ったら、テレビの中の世界がそうなのかと思っていたし、テレビを覗いて見た東京は、その一部分しか映し出していなかった。


それを「東京」のすべてと思っていた。


あふれる人の波、複雑に入り組んだ電車、見上げると首が痛くなるほどの摩天楼、蒸し暑さ。香り。どれも、今まで生きてきて経験したことないことだった。


東京駅から乗り換えて、これから住むところになるところの最寄りの駅行きの電車に乗りこんで、一息ついた。

数日間生活するための着替えや身の回りの物を詰め込んだボストンバックを膝の上に乗せ「これからどうなるんだろうか?もしかして、とんでもないところに来たんじゃないか・・・」と今更に公開した。


でも自分で決めたことだ。製菓に進むこと、上京して勉強すること、誰かに言われてここに来たわけじゃない。親にも心配をかけられない。


「それよりも・・・」


地元の商店街しか知らない僕は、そのときの恐れよりも好奇心のほうが勝っていた。雑踏が多くて近づきづらいけれども、まるで異世界にきたようで。田舎といえどもRPGはそれなりに遊んできた。


今度は直接RPGになるんだろう。僕はどんなレベルアップをするのだろう。これから始まる製菓学校のカリキュラムそっちのけで、新生活で起こるイベントに期待に胸を膨らませ、最寄り駅の改札を出た。


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