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タスマニアでワイン作り〜ワインメーカーとワインクリエーターの違い〜

ワインクリエーターと呼ばれる人々

前日ブドウの収穫時期について議論していた時、 “ワインクリエイター”という言葉を耳にしました。普通は、ワインの作り手はワインメーカーと呼んでいるので、なんだろうと思って質問してみたところ、収穫後の醸造過程で様々なテクノロジーを駆使してワインの品質をできるだけコントロールしようとする作り手のことだそう。

多くのワイナリーでは、理想とする味わいや品質を実現するため、多少なりとも醸造過程で必要なものを添加したり、異なる品種や畑からなるワインをブレンドしたり、色々と人の手が加わります。それを極端にしたのがワインクリエーターのワインで、若干揶揄したニュアンスを含んでいます。

ある日、こんな話がありました。

“あのワイナリーは、他のワイナリーが収穫を始めるより6週間も前に、全ての品種の全ての区画のブドウを同時に収穫したらしい。”

ブドウは品種によって果実が熟すタイミングも違いますし、畑の区画によっても微妙に日照時間、風通し、土壌などによって収穫に適した時期が異なってきます。また作りたいワインのスタイルによって欲しい酸度、糖度が違います。そのため、ヴィンテージとよばれる約2ヶ月間の収穫期の中で、同じ畑でも、数回、数十回に分けて異なるタイミングで収穫をしていくのが一般的です。

収穫したての、シラー

そんな中、他のワイナリーより6週間も前に全てのブドウを収穫するメリットは何でしょう。

主には、収量を最大化できることです。収穫時期を遅らすと、天候や鳥獣被害など、色々なリスクが高まって、収穫できる量が減る可能性があります。
実際、私がお手伝いしているワイナリーでも、ブドウが熟れるにつれ、Silvereyeという小さな鳥がブドウを食い荒らす被害が深刻になり、赤ワインの品種(ピノノワール、シラー)で若干収穫を早める決断をしました。

Silvereye。手のひらサイズで可愛い見た目でも、ブドウを食い荒らす犯人。ネットをかけて対策しても、小さな隙間から入ってしまいます。

早期に収穫するデメリットは、ブドウが熟しきらず、酸度が高すぎたり、糖度が低すぎたりすることです。果実の風味も発達せず、単調なワインになる恐れがあります。
ただ、ワインクリエーターと呼ばれる人たちは、早摘みのブドウであっても、テクノロジーを駆使し、高品質のワインをつくることができると言うのです。実際、彼らのワインは美味しいそうです。

テクノロジーの力で、高品質なワインを、沢山作ること。これ自体は全く悪いことではありません。むしろ、ブドウや醸造技術について深く理解していないと出来ないことで、素晴らしいことだと思います。

ワインクリエーターは、高品質で、毎年同じ味わいのワインを作ることができます。ただ、それは同時に、他の作り手も同じようなワインを作ることができると言う意味でもあり、オリジナリティに欠けるワインになる可能性があります。 

酒屋さんにあるワインたち

Let the grape do the work.

他方、私が働いているようなブティックワイナリーと呼ばれているようなところは、「ブドウにワインを作らせる」という考え方が主流です。余計なものを入れない。できるだけ介入しない。“Let the grape do the work” は、今回のワイン作りで、何度も耳にしたフレーズです。ワイン醸造自体は、収穫後、短ければ10日程度で終了してしまいます。味作りで重要なのは、その前の10ヶ月。畑を手入れし、雑草を抜き、栄養を与え、害虫対策をし、剪定をする。日々、丁寧に畑と向き合ってきたからこそ、美味しいワインができる。

ワイン作り自体は、驚くほどシンプル。彼らからすると、良いブドウを作れば、特別なことをする必要がないのです。

これは、ブルゴーニュなどで畑に等級がついていることを思い出せば、当たり前の話なのかもしれません。私は頭のどこかで、醸造の過程で何か素晴らしいマジックが起きているのではないか、と思っていたので、改めて良いワインは良いブドウからしか作られない、と言うことを痛感しました。

手作業で、一つ一つのブドウ房を収穫します

当然、ヴィンテージによって、味わいにバラつきがでます。同じように作っていても、天候や色々な条件が違うので、毎年同じ品質のブドウができないからです。これは、卸売業者を通じて酒屋などで販売するワイナリーにとっては許されないことなのかもしれませんが、小規模のブティックワイナリーでは、むしろプラスに働きます。

なぜなら、彼らはセラードアでワインを直接お客さんに販売しているからです。毎日、手間暇かけながら作ったブドウから作るワインは、まさに我が子のようなもの。年度ごとにどんな気候だったか、どんなストーリーがあったかを、伝えることができます。セラードアにテイスティングに訪れる人たちは、こうしたストーリーに魅力を感じて、作り手に共感し、ワインを買っていくのです。こうしたワインを飲む時は、そのストーリーをまた誰かに語りたくなるもの。

効率的に、スマートに作られたものよりも、シンプルで泥臭い方に魅力を感じる。ワインとは面白い物だと思います。

ピノノワール2019
Westella Vinyard。ピノノワールしか作っておらず、vintageごとの違いがテイスティングできます。
美しいセラードア
ヴィンヤード


最後に、ワイン作りを始めた時にワイナリーで冗談混じりに言われたこと。

People say that wine is glamorous and part of a lifestyle, but winemaking is not. Winemaking is about getting your hands dirty!

ワインは華やかでライフスタイルの一部だと言われるが、ワイン造りはそうではない。ワイン造りは手を汚すこと!

ワイナリーで働いていると、驚くほど労働集約的な作業が多いし、とにかく、クリーニングの作業が多くて毎日ブドウ液と水で全身濡れながら作業しています(笑) 優雅なワインとはかけ離れた世界です。

でも、瑞々しいブドウの房を手に取った時の感触、毎日発酵中のブドウ液をお世話(パンチングダウン)して、徐々にブドウ液からワインに変わっていく経過を香りで感じ取れること。色々なところで、ワイン作りに関われて幸せだ、と思います。

発酵中のシラー。美しい紫色。


読んでいただいて、ありがとうございました✨


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