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医学生は何を学んでる?⑤卒業試験〜国家試験

  医学生は、ある意味通常通りの大学生活を1-4年生で過ごし、CBTという試験で「はじめて」本気で勉強し、4~5年生からの臨床実習で意識を高めつつ自主的な学習を始める。そんな流れを説明してきました。

 前回記事はこちらです。

「大学のあり方」自体を見直す必要があるのは医学部も同じ

 「CBT通過→臨床実習→国家試験通過」だけで医者になって良いんじゃないの?と思うほど、基本的には「中身のない授業」であることは、普通の大学と変わらないなぁと思っています。

6年生のイメージ

 医学部6年生といえば、4-6月くらいまでは臨床実習の続きをしています。それが終わると、そこから卒業に向けて「卒業試験ラッシュ」が待ち構えています。
 いわゆる、「循環器」「消化器」などのジャンル別に、大学教員が作成した試験問題を日々、解いて、解いて、合格し続けるという一つの試練です。数ヶ月くらいこの生活が続き、延々と勉強し続けなければいけないツラさがあります。そして、それが終わるとあとは国家試験まっしぐらです。つまり、ひたすら勉強です。

卒業試験 〜結局過去問丸暗記のツラく不毛な数ヶ月〜

 さて、ここで卒業試験の問題点があります。それが「医師国家試験のレベルを大きく逸脱していること」です。大学としては卒業生が医師国家試験を突破してくれること(大学の医師国家試験合格率が大学の評価につながります)が目的と思われますが、実態は「医師国家試験を意識しているようでまったく意識できていない」質の低い問題がたくさん出題されます。

 この試験を突破するのに最も良い方法はなんでしょうか?結局、医学部の必殺技「カコモン(過去問)」です。過去問と同じ問題が出題されることがほとんどなので(教員も、いちいち問題を作っているほど暇じゃないわけです)、過去問を丸暗記したほうが試験に通るのは「ラク」なのです。

 本来であれば、例えば血液内科の卒業試験を合格したければ、国家試験の血液分野をマスターするほどしっかり勉強すれば良さそうですよね?
 ですが、まずそこまでの時間的余裕がありません。その上、「10時間かけて国家試験レベルの基礎を固めた人」よりも「5時間かけて過去問2年分を解いて暗記した人」の方が確実に試験の合格率は高いです。これはここまで医学部で過ごしたすべての学生が体感で分かっていることでもあります。

 ということは、数ヶ月かけて、この「過去問丸暗記→テスト」の地獄が繰り返されます。しかも、それは「ほとんど医師国家試験対策に役立たない」という地獄です。もちろん、医学部では「落としても良い単位」がないのが基本なので、一つでも試験に落ちたら終わりです。たしかに、今思い出しても、医学部を「卒業」するのは難しいことだったなと、感じます。

最終関門「医師国家試験」 

 卒業試験を終え、晴れて卒業が決まれば、あとは数カ月間、ほぼ授業はありません。各自、医師国家試験対策をひたすら行う期間です。もちろん大学も「医師国家試験に合格してもらいたい」わけですからサポートも厚いです(サポートの仕方を間違えているなと感じるところは多々ありますが)。

 90%近い合格率の医師国家試験です。が、それは「簡単だから90%が受かる」のとはまったく意味が違います。たしかに、「何点以上(何割以上)なら合格というラインがある試験」ならそのとおり「簡単」かもしれません。

 しかし医師国家試験は残念ながら相対評価です。「せっかく卒業が決まった全国の医学部6年生全体のうち、下位約10%が必ず落とされる」という試験なのです。意味で試練だと思います。この下位10%にならないためにみんな必死で勉強するため、結局医師国家試験というのは年々激しさを増しているのではないかと思います。

求められるのは、「正答率の高い問題」を落とさないこと

 で、医師国家試験で大切なことは「みんなが正解する問題」で失点しないことに徹することになります。これはある意味で医師になってから大事なことでもあります。「奇抜な解答」や「クリエイティブな解答」、「ある分野で難解な問題を解ける能力」は要らないのです。

 「医師であれば常識だよね・常識的に知っているよね」ということをきちんともらさず自分も常識にできているか?そこが問題です。だから、「周りの人と一緒に勉強する。周りの人と同じ教材を使って勉強する」ことも非常に大事です。好きな分野だけでリードできるほど医師国家試験の出題範囲は狭くないです。消化器と産婦人科が好きで、2科目で満点がとれても、他の科目で常識的な知識がなければ確実に落ちます。満遍なく勉強することが求められます。

なんだかんだで臨床ですぐ役に立たない知識ばかり

 残念ながら、医師国家試験の知識は現場で即戦力にならない知識ばかりなのは事実だと思います。「国家試験レベルではよく出る」疾患も、いざ市中病院などで研修を始めたら「出会うこと自体が珍しい病気」であることも多々あります。

 「医師になってからこの知識が役に立つんだ」「優秀な研修医になるために頑張るんだ」というモチベーションは素晴らしいのですが、「国家試験対策」という意味ではそのモチベーションだけでは心が折れてしまうかもしれません。

 臨床でのアプローチは、試験でのアプローチの「まったく異なる」ため、試験でいい成績をおさめたからといって優秀な研修医になれるとも限りません。

 僕から受験生の皆さんに言える一言は、「試験と割り切って、まわりのみんなが勉強しているのと同じ内容・知識をひとつずつ丁寧に潰していきましょう」ということです。だからこそ、試験の合間にリラックスしたり、友達と問題の出し合いをするなどが大切です。

 そして、卒業旅行のプランを、しっかり立てましょう。卒業旅行を「ご褒美」に頑張りましょう!

 「卒業旅行」の思い出はみなさんの医師人生で大きな、大きな支えになりますよ!


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