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BNPとの付き合い方

 みなさんは採血でBNPを測定する際、どのような意識で見ておられますか?
 僕は、非常に重視しています。特に慢性心不全患者さんの「具合」が良いか悪いかを判断するのに非常に便利だと思っています。本記事ではBNPについて臨床医の立場からざっくり解説します。

BNPは心臓への負担を表す「バロメーター」

 BNPをざっくり表すと、「心室筋の負担の程度を表すバロメーター」です。
 もちろん入院中に毎日のようにBNPを測定するのは医療費節減の観点からは勧められません(治療がうまくいっているか自信がない場合にのみ測定しましょう)。
 しかし、必ずBNPを測定して欲しいタイミングがあります。それが、退院が見えてきた「安定期」です。患者さんの調子が良くなって退院が見えてきたタイミングでBNP値を測定するのです。
 すると、「この患者さんはBNP400pg/mLくらいで体重49kgくらいが安定期なのだな。」というように、体重と合わせて「調子が良いときの指標」になります。

BNP値の変動には、一喜一憂して良い

 BNPは、アップダウンを「素直に信用して良い」指標です。
 400くらいで退院した患者さんが、外来で350-450くらいで推移していたら安定していそうだな、と考えます。
 逆に、BNPが800くらいになっていると「あれ?調子悪いんじゃないかな」と思います。そして診察室に呼び入れていざ調子を確認してみると、案の定、体重が増えてむくんでいる、というようなイメージです。
 ERに呼吸困難で搬送されたときに、200くらいで安定して退院していた患者さんが600くらいになっていると、やはり心不全が悪くなっているのだろうな、と予想できます。この患者さんは治療がうまくいって調子よく退院する頃には200くらいになっているのだろうな、という予想もできます。

注意:絶対値で評価してはいけない

 絶対値で心不全かどうかを判断しようとしてはいけません。たしかに教科書には数値が「いくつ以上なら心不全らしい、らしくない」みたいな記載はあります。しかし、BNPだけで心不全の有無を判断しようとするのは不適切だと思います。
 BNP以外にも指標はたくさんあります。BNPだけでウンウンいうのは「木を見て森を見ず」です。
 BNPは、あくまでも「ベースライン」との比較においてのみ意味があります。1200pg/mLで外来通院中(代償期)の末期心不全患者さんもいますし、200pg/mLで入院が必要になるほどの肺水腫をきたす患者さんもいます。これは心不全の原因になる病態によってベースラインが大きく異なるためです(もし、このあたりの「感覚」まで教えてほしい、という方はコメント欄でご連絡ください)。
 一つだけ絶対値に意味があるとすれば、BNP値が2桁の呼吸不全では心不全はまずないと考えて良い」くらいでしょう。心不全の関与を完全に否定するのには有用です
 あとは、他にBNPが上昇する原因を知っておく必要もあります。特に、腎不全・心房細動・加齢により、100→200pg/mLくらいに容易に上昇します。

安定(代償)期のBNP値が分かっていると、診療のガイドになる

 以上、BNPに関して、初心者向けに書いてみました。正直、「これだけでOK」と思います。
 低酸素血症の患者さんで「心不全と診断するために使う」のはやめてほしいところですが、心不全患者さんの管理におけるバロメーターとして使うことは積極的にオススメしたいと思います。



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