見出し画像

ジョグについて(後編)

前編からの続き。
前編ではジョグ(中でもスロージョグ)の重要性について整理してみた。
今回は、私自身が実際に昨年取り組んだ内容と実感した効果について述べようと思う。


前提(2021年度)

前提として、私は以前(特に2021年度)はどちらかというとポイント練習偏重の練習スタイルだった。
典型的な土日セット練習(土曜:スピード、日曜:距離走)を毎週のように繰り返し、平日のジョグは次のセット練習までに疲労を回復させる、いわば「繋ぐ」という意識を強く持っていた。
ジョグのボリュームは必然的に少なくなり、月間走行距離としては300km前後に落ち着いていた。

当時コロナ禍にあってレースがほぼ無かったことも影響し、土日セット練習の設定は相当高く、レースペース相当もしくはそれに近い強度での練習を繰り返すという内容だった。
そういった内容でも特に失敗だったり外すこともほとんど無く順調に消化できていたため、それなりの自信を持ってレースに臨んでいた。

しかし全くといっていいほど結果が出ず、どのような距離のレースであっても想定していたペースが維持し切れずに完全に自信を失う。
毎回あれほどの練習が出来たのに、、と落ち込んだが、この先同じサイクルで練習を積んでも強くならないと判断し、これを機に今までの練習の考え方・組み立てを全て崩してゼロからやり直すことにしてみた。

年間を通じた練習内容と割合

スロージョグ(8割)

「長い距離を走り切るための身体を、じっくりジョグしながら作る」

基本に立ち返って、まずはこれを何よりも最優先した。
月間走行距離に捕われすぎるのは良くないという意見がある一方、距離を軽視して身体の基礎作りを疎かにするのはそれ以上に良くない。
私としては、距離の積み上げが足りないのであればいっそポイント練習はやらないほうがマシという考えの下、このスロージョグを徹底的に繰り返した。
昨年同時期との比較で言うと、ジョグのボリュームは倍近くまで増えたと思う。

とはいえ、日々のジョグのボリュームをどれだけ増やしてもそれだけでレースで力を出せるかはやはり不安だった。
そこで、日々のジョグを中心に据えて次の3つの練習を少し付け加えた。

Eペース上限値付近のロング走(1割)

いわゆるペース走がこれに当たるが、設定は決して無理することはなく自身のEペース上限値(4'00"/km程度)で実施した。
一回の距離で言うと20-30km。
特に秋以降はEペースでの30km走をかなりの頻度で徹底的に繰り返した。
決して出し切らず、あくまでも余裕を持って毎回力を貯めながら終わる感覚を常に意識した。

超高強度練習(1割)

レースペース相当の距離走。
これは練習の場では一切やらず、全てレースを使って実施することにした。
疲労が抜け切れていない普段の練習時に実施すると当然身体への負担も大きく、加えて失敗した時の精神的ダメージもそれなりに大きい。
そのため、練習ではこの強度で実施する必要は一切無いと判断した。
その代わり、出るレースでは全てPBを狙いに行くつもりで最大限の力を発揮することを心掛けた。

インターバル(気分転換程度)

月一回程度、身体にスピードを出すことを思い出させる程度の感覚で実施した。
内容はその時々で異なるが大体400m~1000mを10本前後という、ごく一般的な普通のインターバル。
思い返せばこのようなスピード系の練習に今まで相当依存しており、本来マラソンに必要なスタミナをスピードで補完しようと考えてしまっていた気がする。

実感した効果

8割の向上

マラソンを走る上で最も必要なのが、「8割の力を磨き上げること」だと思う。
私においては、この練習サイクルの積み重ねで8割の出力時におけるスピード域の向上を実感することが出来た。
分かりやすく言うと、今まで粘れなかったペースで、より速く・より長く、しっかり粘り切れるようになった
最大スピードを向上させずとも粘り切れるペースの底上げに繋がるという点は、ロードレースのような長い距離を走る上では非常に大きなメリットだと感じる。

なぜこの練習サイクルでそれが出来るようになったかと言うと、運動生理学的観点ではもっと深く掘り下げる必要がある。
LT値(乳酸性作業閾値)の向上、毛細血管の増強、ランニングエコノミー向上など様々な観点で強化されたと感じるが、一つ一つを掘り下げると長くなるのでここでは割愛する。

疲労回復の早さ

もう一つ実感した大事なポイントとして挙げられるのが、今までよりも明らかに疲労が溜まりにくい身体になったという点だ。
ジョグの積み重ねによる長時間運動への更なる適応においては、細部の筋力、エネルギー代謝能力、乳酸耐性(再利用サイクル)等が向上したのかもしれない。

疲労の抜けが早いというのは言い方を変えると、疲労が溜まりにくい身体になっているとも考えられるだろう。
これは何も練習後の疲労回復速度に限った話ではなく、レース中における乳酸の溜まりにくさ(=LT値の向上)にも寄与している。
結果として、レースである程度出力しながら粘れるペースが底上げされたと感じる。

【まとめ】自分自身を知ることの大切さ

ここまでジョグを中心とした練習による実感効果を記載しておきながら最後に言うのも何だが、最も伝えたいことはこの練習内容そのものではない。

走りにおける課題は十人十色。
そして、目標とするレースの距離やターゲットタイムによって、必要な練習の組み立て方・求められる要素も大きく変わってくる。
私の場合はロードレース、とりわけハーフやフルといった長い距離で最大限の結果を出すことを念頭に練習に取り組んでいる中で、これまでの自身のレース展開を踏まえるとスピードよりも距離に対応するための土台が圧倒的に弱いと感じていた。
そのためジョグ中心の練習スタイルに変更することで結果が出始めたということで、もちろん全ての人にとってこれが最良な方法ではない。
マラソンを走る上で土台となるジョグは大事だが、中には全く異なるアプローチで結果を出している人も当然いる。

最も大事なのは、単純に誰かの真似をするのではなく1回立ち止まって自分自身のこれまでの走りや練習をよく知ることだと思う。

例えば、
・結果が出た場合(出なかった場合)、それはなぜだったのか
・どのような練習を積み重ね、それに対してどのような結果が出たのか
・レース距離やターゲットタイムに対する練習量は適切だったのか
・毎回の練習において本当に適切な強度で実施できていたか
・日々の休息や睡眠、栄養面、レース前のテーパリングは適切だったのか

他にも数えきれないほどのポイントがあると思う。
あまり考えず昨年と同じことを何となく繰り返していたり、この人がこういう練習をやっているから私も同じことを、、というアプローチでは伸び悩む可能性が高い。
(もちろん、偶然上手くいく可能性も無いわけではない。)

ただ何となく走っていても一定のレベルまでは無条件で走力が向上するが、いずれ頭打ちになっていく。
今後伸び悩みを感じた時は、今一度自身の練習推移とレース結果・走りの特徴などを冷静に振り返り、上手くいった/いかなかった要因を整理してから次シーズンに向けた練習方針を決めてみてはいかがだろうか。

自分で考え抜いて試行錯誤できるのが市民ランナーの最大特権であり、それを正しく実行できる人こそが年齢関係なく進化し続けられると信じている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?