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台風19号を受けて ~これからの災害に想定外は通用しない~

10月22日現在で、死者84名を出す甚大な被害が出てしまった台風19号。昨年の西日本豪雨に匹敵するほどの広範囲に及び、東日本各地に深い爪痕を残してしまった。

私個人の話をすると、復興関連のお仕事で2015年から2017年の2年間、福島県(2015年は福島市、2016年は郡山市)に住んでいた。しかも、今回堤防が決壊した阿武隈川から歩いて10~15分ほどのところに住んでいたため、馴染みのある土地が被害を受けたことにショックも大きかった。福島県の現状を映像で見るたびに泣きそうになることも多々あった。

福島もそうだが、宮城や長野など他地域の様子を見たときに、地元住民のインタビューで「ここまで家が浸水するとは思ってなかった」「これほどの雨が降ることは想定外だった」といった声が聞こえた。必ず災害が起きた後に聞こえるのが「想定外」という言葉。もちろん、今の心情を思って発言したことは理解できる。

とはいえ、この「想定外」という言葉を使うことに、防災に関わってきた私としては違和感を感じる。もし、その考えを持っているなら、今回助かったとしても、また次自分の身に災害が襲ってきた場合、自分の命を落とす可能性だってある。「想定外」という言葉は、災害大国日本にとっては通用しない言葉といってもいいと思う。


「想定外」と「想定内」の基準って?

これまで「東北地方で観測初40メートルの津波襲来」「観測史上初北海道で震度7」という見出しをマスコミを通じて目にしてきた。これらの記録は、観測を始めてからの記録なので、その情報が事実なのは確か。

ただし、あくまでも観測史上初なので、観測を取り始める前の年月は、含まれていない。

1つ例を出すと、30年以内に起きる確率が70%と予想される首都直下型地震。振り返ってみると、東京やその近県で地震による被害は2011年の東日本大震災で多少あったが、過去300年でマグニチュード7以上の地震を調べたところ、

・1703年(元禄16) 元禄関東地震 M8.1~8.4
・1855年(安政2) 安政江戸地震 M6.9~7.4
・1894年(明治27) 明治東京地震 M7.0
・1923年(大正12) 関東大震災 M7.8

ここで示した以外にも、マグニチュード6クラスの地震も起きていて、被害を受けた。上記4つの地震は、いずれも死者が多く出た地震。つまり、私たちが生まれる前から、東京をはじめ首都圏は地震による被害を受けてきた。

ほとんどの方は、過去の経験に基づいて、災害が起きる範囲や被害規模を想定するだろうと推測する。

ところが、仮に何年後とかに災害(地震・大雨・台風)が起きても、生きている間に起きた災害を超える被害が出ることは、十分有り得る。結局は、生きている間に過去の経験を上回る災害が起きるか起きないかの違いではないだろうか。想定はあくまでも想定に過ぎず、想定していなかったことが起きるのが、自然災害の恐ろしいところである。


対策と心構えは

では、これからどうしたら大規模災害が起きたときに、困難を乗りきれるかについてだが、発災前からの心構えとしては、予想もしなかった被害が出るかもしれないという点。やはり災害が起きてからでないと、どれだけの範囲で被害が出るか検討がつかない。

普段から災害に備えるときは、有り得ないことが起きる最悪の事態か起きるかもしれないと思いながら備えることが大切だろう。「これだけ備えたのに、大した被害なかったじゃん」と言えるくらいが、心理的負担も軽くて済むはず。

もうひとつの対策として、時間があればぜひ取り組んでいただきたいのが、お住いの地域で過去に起きた災害を調べること。

住んでいる場所で過去に、どういった災害が起きてどの程度の被害を及ぼしたかを知るだけでも、備えに対する意識が高まるかと。特に一番有効活用できるのがハザードマップ。ハザードマップは、過去の災害を踏まえて、土石流や浸水の可能性を表記しているので、一つの目安になるはず。


本当の意味を知る

自分の身に災害が起きていなくても、たった1回の災害で、命を落とすことが十分有り得ることは頭の片隅に入れていただきたい。起きた後に「想定外だった・・・」とやるせない気持ちにならないように、大袈裟なくらいな気持ちで備えることが、災害大国日本で生きるための必要な使命かもしれない。

今後も先月の台風15号、そして今回の台風19号のような強力台風は、発生する可能性は十分にある。そのたびニュースでは「数十年に1度の大雨」「千年に1回の大規模災害」という言葉を耳にすると思う。だが、この言葉に惑わされてはいけない。「千年規模で起きる大規模災害が千年間隔で起きる」のではなく、「千年規模で起きる大規模災害が数年単位で起きる」のが本当の意味であると思う。

ぜひ今回の台風は、他人事とは思わずに、皆さんにも関係することだと意識して、自分の命を守っていただきたい。防災に携わる人間からのメッセージでした。







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