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その時々の気分の綴り。
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宇宙スケールの10年

今朝の通勤でも『天体観測』を聴いていて、そういえばもうこれを10年も聴き続けているのだよなぁとふと思う。僕は天邪鬼だから、有名でトレードマーク過ぎるこの曲に特別な思い入れはないのだけれど、ライブでも必ず聴くし、やっぱり聴くたび真夜中に出かけるみたいにドキドキする。

「背が伸びるにつれて伝えたいことも増えてった 宛名のない手紙も崩れるほど重なった 僕は元気でいるよ 心配事も少ないよ た

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僕の父はさみしがり

‪「雨がひどいから車で駅まで送ろうか?」と珍しいことをけさ父が言ったので怪訝な顔をしたら「まあ君もぼちぼち行ってしまうから……」ともごもご言って、ああこの人はさみしいのだな、と思った。僕が父と血が繋がっていることを自覚する数少ない瞬間だ。

父はあまり喋らない方だ。寡黙というよりも口下手なのだと思う。あるいは人との距離の取り方がよく分からないのか。体育会系だが陸上部出身で、趣味にはスキー、釣り、音

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君の精神状態は。

今、京都から奈良の家に帰る近鉄電車の中だ。ついさっき、向かいの席に座っていた女性が降りた。僕が最初に付き合った女の子に、とてもよく似ていた。ファッションは全く違ったし、よく見ると顔立ちも記憶の元恋人の方がすこし丸かったように思うから、まず別人なのはわかった。ただ、それでもその人が電車を降りるまで、うつむきがちなその顔に意識が向かってしまうというのは、抗いがたいものだった。いま乗っているのが、当時彼

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赤い夜が続いてる

「夏の前日」という漫画が好きなのですが、この作品、実は「たま」という昔のバンドの曲から題がとられていまして、ふと思い立ってこれを聴いてみたわけなのです。ベストアルバムを買って。これがびっくり、「平成狸合戦ぽんぽこ」みたいな、とぼけた感じでちょっとふざけた曲調なのですが、すごいグルーヴ感があるんですね。よく聴いていると丁寧な音楽性がある。この曲はサビが最後に来るという珍しくって面白い構成なんですけど

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ケルン・コンサート

久しぶりに何かを書きたくなって、ただ書くのにちょうどいいものが見あらない。だから、ちょうどいまウォークマンで聴いているキース・ジャレットのケルン・コンサートについて書いてみることにする。

キース・ジャレットというのは、即興演奏に定評のあるジャズのピアニストだ。そしてケルン・コンサートというのはその即興演奏を収録したアルバムということになる。
キースの名前を初めて聞いた(読んだ)のは、大崎善生の小

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映画を撮ろう。

どうにも今晩は気分が落ち着かない、少しだけ胸がざわざわする。きっと胸のうちに様々な心配事が折り重なってとげとげしているからだろうと思う。近頃は書き物をしていなかった。

何を書こうか考えて、そういえば今やっている活動のことをきちんと公表していなかったなと思い出す。

というわけで、自主製作映画を撮っています。芸術の道と恋の道とを同時に前にした、二十歳の画家志望の男の子の話です。映画といっても、ほん

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僕って「先生」?

僕って「先生」?

 ふと考えたことが思いのほか大切な気がしたので、備忘録としてここに記しておきたくなった。

 要はするに、僕はどんな「先生」になりたいのか、という話だ。正直に言ってちっともわからないし、考えれば考えるほど自分は「先生」なんて大それた職業は向いていないのではと思えてくる。向いていないは言い過ぎでも、誰が見ても「先生」というような姿がちっとも将来の自分として描けないのだ。そもそもがあまり深く考えずにそ

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さっきの。

 今しがた小説をUPしました。「Sometimes I feel blue」という作品です。大学の文学サークルも、もうじき卒業ということで、同期と内輪向けに作る本に寄稿するものを、せっかくなので公開します。いろんな意味で、自分の総括みたいな作品にしたいと思って、こうなりました。たくさんのオマージュを入れてみました。とても個人的な作品だし、誰にもわかってもらえないかもしれないけれど、まあそれでもいい

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恵文社一乗寺店にいってきた。

恵文社一乗寺店にいってきた。

恵文社は、京都の本好き界隈で知らない人はいないくらい有名な本屋さんだ。なぜそんなに有名なのかと言うと、とにかく本棚が美しいからのひとことに尽きる。

恵文社は「本にまつわるあれこれのセレクトショップ」です。「とにかく新しい本」を紹介するのではなく、一冊一冊スタッフが納得いくものを紹介したい。ただ機能的に本を棚に並べるのではなく、思わぬ出合いにぶつかるような提案をしたい。表紙の美しい本はきれいに

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2014年。

2014年。

年越しまで、あとわずか。

今年はこういう振り返りの文章は書かないつもりだった。というのは、2014年は僕にとって素晴らしい年だとはあまり言えなかったから。

夏が終わる頃までに僕の身に起こったことといえば、ゼミの解体、失恋、後輩からのいわれなき反抗、就活の挫折etc……。それらの体験はどれもそれなり以上の威力を持って、僕から何かを削り去っていった。そしてその僕を損なったダメージは、ごく最

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三週間の教育実習を終えた。

三週間の教育実習を終えた。

表題の通り。8月最終週から三週間、母校でもある地元の公立高校に教育実習に行っていた。控えめにいってかなり大変だったけれど、そのぶん密度の濃く長い、しかし思い返せばあっという間な、いい三週間になったと思う。実習当初と終わった今とでは、少し違った人間になったような気分だ。

壁を、越えた実感がある。

今はまだ、実習で何が起きたかを落ち着いて言語化できる段階にはないと思う。だから代わりに、最後に受け持

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金沢21世紀美術館と、室生犀星

金沢21世紀美術館と、室生犀星

盂蘭盆、生駒の親戚宅に行った。日帰りで仏壇に挨拶して帰るつもりだったのだけど、そこで従姉にいきなり「そうだ、金沢行こう」と短絡的な誘いを受け、そのまま何故か新大阪からサンダーバードへ飛び乗った。いつものように巻き込まれたカタチで、それでも楽しめたのも、いつもの通りという気がする。旅費もぜんぶ従姉が出してくれた。持つべきものは社会人の従姉だ。とはいえ、夜7時に到着した途端の大雨、翌日は警報まで出た。

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BUMP OF CHICKENと僕

BUMP OF CHICKENと僕

うっかり眠れなくなってしまったのは、BUMPの四人のせいだろう。今日、BUMP OF CHICKENが初となる地上波ライブをした。中学生の僕に「BUMPがMステに出ることになるよ」なんて言っても信じないだろう。「疑いたいのもわかる、君だからわかる」なんてね。

もちろん、ちゃんとライブで見た。見て、やはりあの場にいたかったと心底思った。客席に映っているのはいずれもBUMPが大好きな人たちだって、ブ

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河童忌

河童忌

僕にとって過去の記憶は過去の自分の主観でしかない。これは本当にその人それぞれだとは思うのだけど、僕に関しては過去の自分を対称化して客観的に見たりはできなくて、どこまでいってもそれは「過去の自分」そのもので、それは主観からしか過去を見れないということであり、ひたすらに地続きなのだ。

あるいは、それは未だ生々しい傷跡のようなものなのかもしれない。刻み込まれていて、忘れることが難しいものだ。だからこそ

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