鹿の王 上橋菜穂子 角川書店


 上橋さんの本屋大賞受賞作。

 強大な帝国・東乎瑠に対して、戦略的な捨て駒となるべく壮絶な戦いを挑んだ戦士団“独角”、その頭であったヴァン。ただ一人生き残った彼は、岩塩鉱に囚われていた。一群の不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。囚われていた奴隷たちは、一人残らず死んでいったがただ一人ヴァンのみ生き残る。塩岩鉱から脱出した彼は、誰一人生き残っていないことに気がつくが、一歳くらいの幼い女の子だけが生き残っていた。

 一方、東乎瑠が勢力を伸ばすはるか昔、この地を治めた帝国の末裔たちがいた。彼らはかの帝国の技術を伝えていたがその中でも医療技術を伝えるものたちがいた。その筆頭である医術師ホッサルは岩塩鉱で起こった疫病が自らの帝国を滅ぼした伝説の疫病であると気がついていた・・・

 二人の主人公がもつれる如く、ストーリーを構成していく。上橋さんのお話は人物描写が魅力的でもある。若い医師・ホッサルの真っ直ぐな志と、諦観した境地のヴァンの苦悩。その二人の傍らにいるミラルとサエという女性の存在も物語に厚みを加える。

 この疫病の謎解きとともに、東乎瑠に吸収された辺境の少数民族の駆け引きもこの物語の重要なパーツである。少数民族への東乎瑠の対応、少数民族の捉え方・考え方をもうひとつの物語の柱として描くことで、リアルな物語としての背景を構築していく。民族学者でもある上橋さんだからこそ描ける大河ファンタジー。総計1100ページを超える大作だが読み始めると止まらない。一気読みでした。

 なお、一番魅力的な登場人物は、なんといってもユナちゃんでした。可愛すぎ (^^;

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当時、連続して本屋大賞は上下二冊のハードカバーの大作でした。今年は、短編連作の山。これぞ!!っていう本が無かった2021年本屋大賞でした。上橋さんの次の新作はいつか、待ち遠しい限り。再び、本屋大賞候補作に食い込んでほしいものです。


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