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【たわぶれに】 物語としての砕片:2

「からかってるんじゃないってこと、最初に言っておこうと思います」
「なんですか、いきなり改まったりして。まあ、いいや。
どうぞ、うかがいますよ」
目前から、立ち昇る好奇心の熱を感じた。緊張のために唇に指先を当てる。失礼なことを言うとは知っている。けれど訴えたかった。それはエゴに他ならない。わたしには珍しいことだ。そしてエゴイズムを喚起させるこのひとは、そうとうわたしの心を囚えていた。

一呼吸置いて、瞳は見られないまま声を吐き出した。
「あの、とってもきれいな人だなあ、って前から思っていました」
「誰がですか。藪から棒に」
「あなたがです」
「はあ。きれい、ですか」

面食らったように、大きな瞳がさらに見開かれた。コミックなら頭上にはてなマークが浮かんだだろうという、なんとも明瞭な絵面。
「そうです。よく言うじゃないですか、写真や映像の中で見るより、実物はずっとすごいって。お会いしたら、すごいなんてものじゃなかったです。あなたは、光そのものみたいでした」
「そんなふうに言われると、どっち向いていいかわからなくなりますね」
どちらともなく、冷め始めたコーヒーをそれぞれ、啜った。
「でもね、あなたが、もしも私に光を感じているとしたらね、それは」

否定の言葉が次に飛び出してくるのを恐れた。心がきゅうっと縮こまる音を聞いた。
自分から発せられる物事を否定されるのは、とてもつらい。
今でもなお、慣れることはない。異常だと、おかしいと、わたし自身やわたしが大切にするものがどんなに否定され続けてきてもなお、しがみつくように自身を肯定する要素を捜してしまう。

おずおずと、おどおどと、眉根にしわを寄せて、オウム返しに言葉を反芻した。
「わたしがあなたに、光を、感じているとしたら?」
「それはね。あなたの中におなじ光があるから、なんですよ」

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