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親ガチャは存在するー精神科医解説まとめ

明日の対談に備えた、益田全然のyoutube予習noteとなります。当日はぜひたくさん質問お待ちしております♪

親ガチャとは

「親ガチャ」子は親や境遇を選べず、運次第で人生が変わることを指す。当たり前に存在する事象だが、「けしからん」と言われたり、世間で今ちょっと話題のキーワードだ。様々なご意見があるだろうが、この言葉をいったん受け入れ飲み込み、
①世の中には運で決まることもある
②本人の努力ではどうしようもないこともある
③うつは甘えではない
共有することで追い込まれる人も減るのではないだろうか?精神科の問題というのは脳の問題だが、脳というのは基本的に遺伝で決まることが多い。

■  怒る理由に、3つ社会的・文化的背景がある
「親は一生懸命育てているから、子供がそんなことを言ってはいけない」
「一生懸命あなたのことを育てている親に対して失礼だと思わないのか」
「お金よりも、愛情がすべて」とのご意見が代表的だろうが、この発言の裏には3つの背景がある。

① 現代のタブー「運、才能、努力、お金」
現代は能力主義社会:我々は格差はあるかもしれないが、チャンスは与えられている、というのが現代社会の定説。「成功は努力の結果」と信じ込ませることで、今の自分の貧乏生活や不遇さを我慢させるという社会だが、
実際は、本人の努力だけではなく、才能や遺伝子で決まっていることもたくさんある。

② 儒教文化
儒教は東アジアで強い影響力を持つ、孔子を始祖とする思想・信仰の体系で、その思想の中に、「」という「愛すること、敬うこと」を意味する言葉があり、儒教文化は支配する側にとって非常に都合がいい文化だ。
上の人には徳があり、下の人たちに対して思いやる心がある。そして、下の人たちは上の人を敬うという形。互いに敬えば、愛によって社会は維持されるということだが、これは階級が固定され、年下で才能のある人が上の人の養分になってしまう。

③ 高齢化社会・文化
今は年上の人が多すぎるから、カルチャーも年寄り向けのカルチャーになっている。年上の人に合わせた方が賞賛される。

そう、親ガチャは基本的には叩かれるという構図になっているのだ。批判を恐れずに言えば、親ガチャというものはあるし、精神科医的には親ガチャに失敗している人はたくさんいる。

子供は親を恨めないようにインプットされて生まれてくるので、基本的には親を恨めない。虐待されていても。言葉では恨むと言っていても、腹の底から恨んだり憎んだりはできない。逆に、親の方が子供を憎むという事は意外とある。

■ 親ガチャ失敗例
・年収<資産
お金はできるだけあったほうが望ましいが、お金持ちすぎると、自己肯定感が育ちにくい。ほどよく高めが良い。

・夫婦仲(結構あるパターン)
両親が仲が悪いと子供は強いストレスを感じる。良い将来像をイメージしにくいということもある。実際、大人になったときに両親の仲が悪いと、会社で適応障害になり実家に帰ることができない。
両親の仲が良ければ、実家に帰って仕事のアドバイスをもらったり将来設計について相談したりできるのにそれができません。

・教育への関心
教育に関心がある親ならば適切な教育を、関心がなければ不適切になる。
過干渉な親は、虐待に近いような詰め込みもある。子供は親の期待に沿うことができず、双方不幸になるパターンも多くある。親がスポーツ選手でその子供もぴったりとはまり、超一流のスポーツ選手になることもあるが、大体はうまくいかない。親の趣向が子供にはまることは少ない。

・理解、成熟度
親が自分や他人のこと、社会に対しての理解が乏しかったり未熟だったりすると子供は辛い。仕事で潰れてしまった時も、社会理解がないと「もっと頑張れ」と逆に追い込むことがある。「精神科に行っているから甘ったれたことになるんだ、もう二度と行くな」というようなことを言う親も結構いる。

・土地(境遇ガチャ)
地方や田舎:教育機会が少ない。
都市部:教育機会はあるかもしれないが、なかなか自由に遊べない。幼い頃から競争がありすぎて困ることも。

・両親の忙しさ
両親が忙しいと子供は相談する機会がなかなかない。お金だけ渡されて親との意見交流が少なく、子が未熟に育ってしまうパターンがある。

・知的能力、誠実さ(遺伝の問題)
親のIQが高い方が子供のIQも高く生まれやすい
親の運動神経が良い方が子供の運動神経も良い
親が誠実であった方が子供も誠実になりやすい
親が嘘をつく人だと子供も「嘘をついて良いのかな」と思いながら育つことに。遺伝的に嘘をつきやすい人もいる。

精神科の問題というのは脳の問題だが、脳というのは基本的に遺伝で決まることが多い。だから、遺伝的な問題は親ガチャの失敗として出てくる。このように、何でもかんでも本人の努力ではカバーできるものではない。
カバーできないから精神科に来るのだ。
「親ガチャ」という言葉は不謹慎な部分もあるが、この言葉を怒るのではなく一度飲み込んで、世の中には運で決まることもある、本人の努力ではどうしようもないこともある、うつは甘えではない、ということを共有してもらえればと思う。そうすれば追い込まれる人も減るのではないだろうか。



親ガチャ=「家族病理」
結論としては、「完璧な家族、育て方はない」ということ。どんな人にも家族に対する不満、育て方に対する不満は大なり小なりある。患者の家族背景を知ることで、その人がどのような人格になったのか、人格形成に家族がどのような影響を与えたのかを理解し、それをどのように治療的に活かしているか。精神疾患や性格の問題は、家族や育て方だけで説明はできない。ただ、人格形成に大きく作用していることは事実で、家族病理ということも十分検討している。

■ 自己理解に役立つ
母親から暴力を受けて育った娘はどうなるか?
すごくマゾヒスティックな感じになりDV男性に近づくこともあれば、逆に自分自身が暴力的になり、母親にされたことを自分の子供にしてしまうこともある。どちらかだけという事はなく、どちらもあったり、なかったりする。難しいが、治療上は「お母さんからこのような影響を受けたから、今こうなっているんだね」という結びつけと解釈が非常に役立つ。

「このような母親だからこのような子供になる」という科学的な予測、
再現性の見立てにはあまり関与しないかもしれないが、
患者さん自身が、自分はどういう人間なのか、どういうことが起きたのか、
どうして自分はこうなのかということを理解しようとしたときに、
このような家族病理から理解するというのはとても重要。
腑に落ちて治療が進むことはよくある。

■転移・投影  家族理解において重要な概念、「転移」と「投影」。
◆転移:「人物を転移させる」
例えば、母親が教育熱心な人だった場合その時の記憶が残り、会社の上司に対して「教育的な人、指導的な人、少し言葉がキツめな人」を求めに行ったり、逆に避けてしまうことがある。求めに行くことを「反復強迫」という。逆に主治医側が、自分の弱さや人物的なものを患者さんに重ねてしまい、患者さんの治療をしているつもりなのに、自分が過去に受けた嫌な思いを患者さんに転移させていることを「逆転移」と言う。
ex. 上司から嫌な思いを受けていたとき、年上の患者さんが来た場合、その人に対してついつい冷たい態度を取ってしまう

◆投影:「内なる感情」
自分が怒ってる時→「相手も怒っているのではないか」
自分が悲しい時→「相手も悲しいと思っているのではないか」「相手は笑って馬鹿にしてるのではないか」
自信がない時→「相手は馬鹿にしているのではないか」と感じてしまう

◆投影同一視:自分の嫌な思いや暴力的なものを相手に投影し、相手がさも暴力の化身のように感じること。より病的なもの。
ex. 境界性人格障害の人で、自分が一番自分のことを嫌っていて馬鹿にしてるのに、目の前にいる主治医こそ私のことを理解しないし馬鹿にしているのだと思う。そしてそれが診察室を出た時にも残っていて怒りを感じる

診察室という空間では真実を話すとは限らない。
真実は加工されている。
と考えているので、親のことを酷く言っても、投影されて加工された親の像を語っていたりする。上司のことを話していても、投影してかつ転移もされている、と判断しながら聞いたりしている。100%患者さんの言うことが正しいとは思っていない。ただ、このように言うと主治医側に都合の良い解釈になったりするのでややこしい。
「客観的な事実はなく、患者さんがそう言っているだけだ」と言うと、患者さんの真摯な訴えを無視していることにもなる。
投影や転移の解釈は、絶妙なバランスの中で行われている。

投影・転移を理解するために家族の話をきちんと聞いておくと、自分の都合の良い解釈ではなく「こういうことだったからなのかな」と正確にわかるのではないかと思う。

家族病理はすべての人にある。「主治医側には理解できない」というのは、コメントにもあったが、そうと言えばそうだと思う。ただ、医師にも想像力はあるので、想像力の範囲で相手のことを理解してどう治療に活かすのかということを僕ら精神科医は日々考えていると思う。

11/8 21:00 親ガチャ生存戦略🔥
ゲスト #精神科医 #益田祐介


親ガチャ、毒親 からどう生き残る?どんな環境でも切り抜ける方法はあるはず。一緒に探りましょう!

心を理解する基本。投影と転移について
https://youtu.be/AnG4p2tkCYA

早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介

プロフィール 防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年都内で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。
趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。2020年6月5日より断酒継続中。

【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/
カプラン 臨床精神医学テキスト第3版

#親ガチャ #家族病理 #親子関係 #転移 #投影


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