複雑性PTSD/複雑性トラウマの本紹介

最近、よく売れている本だそうで、Amazonでおすすめとして表示されたので読んでみました。情報がわかりやすく整理されていて、読みやすい本だと思ったので、ご紹介します。紙の本ではなく、kindleで読めます。

著者の方は、元々ご自身も複雑性トラウマのことで悩んだ経験があり、現在は、カウンセラーをされているそうです。

箇条書きで、内容の一部をご紹介します。

  • 複雑性PTSDの定義は、2019年にWHO(国連の世界保健機関)が承認、2022年に正式発行。

  • トラウマ的な出来事を一度だけではなく、何度も繰り返し体験することが「複雑性PTSD」の特徴。予期せぬ事故や自然災害など、一度だけ経験して発症する可能性があるのは「PTSD(単純性PTSD)」

  • 複雑性PTSDと単純性PTSDは、発症原因や発症後の症状に明確な違いがある。

  • 単純性PTSDは、有効な治療法があり、複雑性PTSDよりも治療しやすい。

  • 複雑性PTSDは、治癒が可能だが、時間がかかる。症状や発症までの経緯が人により異なり、治療法がまだ確立されていない。

  • 複雑性PTSDは、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、適応障害、不安障害などと誤診されることがある。

  • 複雑性PTSDは、心身への外傷的(トラウマ的)な経験を、逃れることが難しい状況のなかで、日常的に繰り返し体験することが原因。外的要因/環境要因により発症する。子供の頃に、なんらかのトラウマ的な虐待を日常的に繰り返し体験していたことにより発症するケースが多い。

  • 具体例として、家庭内での身体的虐待、性的虐待や児童虐待、いじめ、マインドコントロールなど。幼少期などに繰り返し受けた、家庭内での虐待的体験に起因することが多い。そのような出来事は、一般的に経験されないことであり、異常な体験といえる。

  • 家庭内での養育者による虐待は、暴力行為や性的虐待だけでなく、両親の不和や喧嘩を目にする、子どもへの暴言や侮辱、子どもが両親の板挟み状態になる、子どもの前で家族やパートナーの悪口を言う、親の世話を子どもにさせる、過保護や過干渉、ネグレクトや無関心なども含まれる。

  • 「無条件の無償の愛情を感じられない」「子どもが子どもであることを許されない状態」「家庭内が安全かつ安心で好きだと感じられない」などを日常的に体験すると複雑性PTSDを発症する可能性がある。その根幹には、理不尽や無理解への怒りや悲しみ、閉鎖と秘密による孤独感がある。

  • PTSDの診断基準は、①自分が死ぬかもしれない状態に直面したか目撃した。②その時に強い恐怖・無力感があった。
    複雑性PTSDは複数回、単純性PTSDは1回または短期間の体験群。

  • PTSDの3大症状として、①トラウマの再体験、フラッシュバック、②それを回避するために通常であれば感じるはずの感覚を感じなくする「解離、麻痺」、③持続的な過覚醒状態、脅威感、入眠や睡眠困難、慢性的なイライラ感、怒りの爆発、集中困難、過度の警戒心、過剰な驚愕反応など。

  • 複雑性PTSDは、上記の3大症状に加えて、3つの症状がある。症状は生活の中で頻繁に現れ、症状が出ていないように見えても何等かの形で常に影響がある。元からの性格の問題と思われることも多いが、後天的な症状。
    1)感情の調節障害、感情のコントロールが困難
    2)否定的な自己概念、恥の感情、自己卑下や敗北感、自分は無価値であるという感覚
    3)対人関係の障害、他者と親密さを感じることが難しい、関心自体が持てない

  • 「解離」とは、人間や動物に備わっている自己防衛機能で、過度に苦痛な感覚から逃れるために、無感覚状態になることで、不快で苦痛な感覚や体験から身を守る。

  • フラッシュバックの時だけ解離すればいいのだが、人間はそこまで器用に神経系の状態を切り替えられないので、時が経つにつれ、麻痺や解離が平常の状態となり、人生に深刻な影響を及ぼす。

  • 回復のために、カウンセリングやセラピーが勧められるが、セルフケアも大切。セルフケアとは、ネガティブな気持ちになったり、つらい状態になった時、自分自身をいたわり、落ちつかせたり、励まして健全に乗り越えるスキル。

  • 治療目標のひとつは、「特別な意識をせずに、適度にリラックスした状態で他者との交流を楽しめるようになること」

  • 複雑性PTSDは、人との関係性のなかで治していく。そのために、自分自身の中に安全基地(安心感や自己肯定感など)を作ることが必要。自分に自然な肯定感を感じたり、いつでも一定の安心感を感じられることで、他者とも安心して関わることができる。

  • 安全基地の機能は、生まれた時から身についているものではなく、人との健全な関係性のなかで少しずつ育まれていくもの。

  • 子どもにとっての安全基地は養育者。自分の中に安全基地があると、少しくらい失敗したり傷ついたり他人から拒否されても、「自分は大丈夫だ」という安心の感覚を持つことができる。そうして成長した子どもは大人になっても、自分の中に「無条件の自己肯定感や自信がある感覚」や「安全の感覚」を持ち続ける。安全基地の機能は、社会や学校などで他者と関わって生きていくうえで重要なもの。

  • 複雑性PTSDになるような虐待を繰り返し受けて育った人は、安全基地の獲得に必要な「無条件の愛情、存在の無条件の肯定」を養育者から受け取っていないため、自分の中に安全基地が作れていない。安全の感覚や自信をもつことができないことが、複雑性PTSDの症状に深く関係している。

  • 複雑性PTSDの症状を治すことは、幼い頃に獲得できなかった安全基地を自分の中に作りあげること。安全基地は他者との関係性を通して構築されていく。

  • 複雑性PTSDを根本からしっかり治すためには、心理・身体の両方からのアプローチ(療法)が重要。万能な治療法はないが、効果のある治療法はいくつかある。

------------------------------------
この本を読みながら、本当にそうだなと納得することが多く、また分かりやすい言葉で書かれているだけに、心に刺さるようなことも多い。

著者も書いているけれど、自分が複雑性PTSDかもしれない、自分の問題の本当の原因はそこにあるのかもしれない、と気づくことが大事で、そこに至るまでに回り道をすることがあると思います。私自身もそうだったので。そもそも複雑性PTSDの定義が、日本ではまだあまり認知されていないこともあるから。(そのことが、著者がこの本を書く動機にもなったようです)

複雑性PTSDの程度や症状は、人それぞれだし、複雑性PTSDに至った経緯も皆さまざまだから(人生経験がひとそれぞれ異なり、人の資質も皆ちがっていることを考えたら当然)治療や回復といっても、その取り組みは、大まかなところでは一致していても、細かいところ、最終的なところは、本当に個別の世界になると思います。それがとても難しいところだし、人間が生きることそのもの、人生そのもの、という気もします。

「他者との関わりの中で回復していく」というようにこの本には書かれていましたが、私はそれに少し加えて「他者との関わりの中で、自分をみつめながら回復していく」というように考えます。他者の存在は、自分に貴重な気づきを与えてくれるきっかけになります。その他者は、セラピーやカウンセリングかもしれませんが、日常で関わる人々、周囲の人々かもしれない。究極には、自分が過去に関わってきた人々、虐待を与えてきた人々も含めて。

最終的には、他者を超えて、個人の中に回復の道のりがあると思うし、私が受けたソマティック・エクスペリエンシング(SE)のセラピーでも、自分自身の身体と向き合う、つまり本来の自分自身と向き合うことで回復をめざしていくものでした。

自分の内面に向き合う手法として「パーツ心理学」「内的家族システム療法(IFS)」があります。人には様々な側面(パーツ)があって、それぞれが役割をもっていて、悪いパーツというのはなく、全てが自分を守る目的がある、という考え方をします。そして、さまざまなパーツを統合する「セルフ」という本来の自分自身、真の自己というような存在があると考えます。内的家族システム療法(IFS)は、自分の内面へのアプローチとして、とても繊細な世界だと思います。

幸福な関係性の中にも、ちょっとした心の不穏は起こると思います。そこに注目していく、あくまでもそれを感じる自分の感情に注目していく。また、幸福な関係性でないのなら、そのこと自体に注目していくことで、自分自身が学び、より深く幸福の方へ進んでいくことができるように思います。

生育家庭が完全に幸福なものだったと感じられなくても、「総じて幸せだった」と感じられるかどうか、ということなのだと思います。そして何かにとても深く傷ついていないこと。それが健全な成育環境なのでしょう。

「愛するものからしか学べない」とある人が言っていたのですが、私も本当にそう思います。愛する人、もの、何でもいいと思います。人間でも動物でも趣味や何か好きなもの、とにかく何でも、愛するものであればこそ、深く学ぶことができると思います。愛していないものがうまくいかなくても、原因を深く探ることや、自分を深く見つめ直すこともせず、やり過ごすこともできるでしょう。けれど、深く愛すれば愛するほど、なぜうまくいかないのだろう、どうしたらいいのだろう、と自分を深く見つめることになると思います。そしてこの学びにきっと終わりなんてなくて、それは死ぬまで続いていくような気がします。