介護をしている全ての人へ#30 ~ 認知症進行
この頃から、父の認知症が一段進んだと感じるようになった。よちよち歩きになったり、他者に不快感を抱かせる行動が目立つようになった。母も同じ感じを持っていた。
2019年1月30日(水) 母の日記
夫をデイサービスに送り出そうとするも、用便が間に合わずトイレで粗相。迎えの車をずいぶん待たせてしまった。
咳が続いている。おかげで背筋と腹筋が痛むし、のどの粘膜から出血して唾液や痰に血が混じる。熱は37℃代で落ち着いてきた。
掃除も洗濯もできなかった。
朝ごはんはヨーグルトとはちみつのトーストを別々に食べた。昼は食べず。夜は作り置きの筑前煮とかきたま汁をまた別々に食べた。
夫の行動について、デイサービスの担当者から連絡があった。
よちよち歩き、別の施設利用者のお茶の中に入れ歯を放り込む、粗相、トイレからレクリエーションルームまで戻れないなど……。認知症や老化の症状が急に進行したのか。
私のがんもゆっくりだが確実に進行していくだろう。最悪の老々介護の風景が目に浮かぶ。涙がじわっとでてきた。
不安になって息子たちに電話。次男は同居を勧めてくれた。新婚のお嫁さんにとっては迷惑そのものに違いない。
長男は、新幹線の定期券を準備してくれている。できる限り家にいてくれると言っているが、高給取りとはいいがたい長男にとっては大きな負担になるだろう。
やさしい息子たちの言葉で少し落ち着く。やさしい息子たちに感謝。
眠れない、導眠剤15mg頓服。
2019年1月30日(水) わたしの日記
出勤手停止中。どこにも出かけず、本を読む以外なにもしないで過ごした。今日は沢木耕太郎の代表著作『深夜特急』を一気に読見返した。
高校生のころ、田舎町に嫌気がさして、広い世界を想像しながら、夢中になってこの本を読んだのを思い出す。見知らぬ国の見知らぬ街を旅の手段(バスでロンドンを目指す)そのものを目的として放浪する主人公に茫漠とした憧れを感じていた。
いま、大した稼ぎも期待できない仕事やちっぽけな柵を捨てさえすれば、どこにでも行くことができるだけの知恵と当時の沢木耕太郎氏が用意した路銀よりも多くの資金を準備できる今でも、冒険に旅立つことができない理由を探しながら上手に自分を納得させているもう一人の自分がいることに気づいた。
これから先も、いつかは沢木耕太郎氏のような旅をしてみたいと思い、そして決してそんな旅には出ることはない自分を憐れみ、慈しみながら生きていこうと思う。小さな稼ぎも柵も大切な自分の人生なのだ。
深夜、母から電話があった。父のこと、母自身のこと、そして我々兄弟のこと、不安が募って眠れないという。今は、年老いて死病と闘っている母のそばにいて、生きている限りたくさん楽しい思いをさせてあげようと思った。きっとそう長い時間ではない。
もしかしたら今自分がしている経験は、親が命を削って贈ってくれるギフトなのかもしれない。
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