中外製薬のビジネスモデル
上記のツイートについて、より詳細に解説します。
図1の通り、現在の国内の製薬企業において、飛び抜けた営業利益率を上げているのは中外製薬・塩野義製薬・小野薬品となります。
三社の営業利益は30%を超え、中外製薬に至ってはほぼ40%と、いかに利益率の高い製薬ビジネスとはいえ、国内の企業の中では図抜けた成績を収めています。
中外製薬はこの素晴らしい業績により、売り上げは国内5位にも関わらず、時価総額は国内製薬企業トップです。
ですが、好調に見えるこの3社も、実はそのコスト構造は大きく異なります。図1からも分かる通り、中外製薬は実は原価に関してはトップ10の中で最も高く(≒悪く)、一方で販管費率はトップ10の中でもダントツで低く(≒良く)なっており、他2社とは様相が異なります。
これは、中外製薬が国内製薬企業の中でも極めてオリジナリティの高い経営戦略を取っていることが要因です。
上記の通り、中外製薬は2002年からグローバルメガファーマであるロシュ社と戦略的に提携しております。そのため、中外製薬には以下の3つのビジネスモデルが存在します。
革新的新薬を創出し、ロシュ社を通じてグローバルに提供
革新的新薬を創出し、自社で国内に提供
ロシュ社の新薬を自社が国内に提供
さて、ここで問題です。
中外製薬の画期的な業績の源である販管費率を低減しているのは上記のどれでしょうか?
一方で、中外製薬の原価率を高めているのは上記のどれでしょうか?
正解を以下に記載します。
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正解は、「販管費率を下げているのが1、原価率を上げているのが3」です!
1は塩野義製薬や小野薬品とも共通しますが、研究開発費の中でも最も規模が大きい海外における臨床開発をグローバルメガファーマに委託することで、販管費の中でも割合の大きい研究開発費を圧縮することが出来ています。逆に言うと、研究開発費の中でも開発費を節約出来るために、研究費に大きく投下することが出来る、それによって革新的な新薬を継続に創出出来る、それがこのビジネスモデルの極めて大きなメリットとなります。
一方で、3は、ある種の卸ビジネスに近しいため、自社開発品と比較すると、どうしても原価率が高くなり、ここに起因して全社的な原価率が上がっている、ということになります。ただし、これは必ずしも3が足を引っ張っているという意味ではなく、むしろ、ロシュのような強力なメガファーマの日本法人の立ち位置を確立していることで、利益率こそ低くても安定した収入源となっており、仮に自社品の数が低下しても、ロシュ品によって売上規模は維持することが出来る(即ち製造業の命綱である固定費を回収することが出来る)素晴らしいモデルです。
ある意味で、中外製薬は、攻めのビジネスモデルの1と、守りのビジネスモデルの3を両立させることで、安定して優れた業績を創出していると考えることが出来ます。
いかがだったでしょうか。製薬企業のIRをざっと眺めて、「国内だと営業利益率では中外製薬、塩野義製薬、小野薬品が優れているな」だけでは、深くビジネスを理解することは出来ません。さらに深掘り、数値の差分を読み解くことで、各社がどのようなビジネスモデルを用いることで、この激戦の業界を生き残ろうとしているかを把握することが出来ます。
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