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どうする家康 第18話 銭取婆も出番なし 我が心の三方ヶ原


大河ドラマで回想に効果はあるのか?

改めて言うまでもないが、大河ドラマは日本の歴史を題材としたドラマである。ということは結末は見えている。家康は天寿をまっとうするので三方ヶ原では死なない。したがって、前回の終わりに映された遺体は家康の身代わりである。誰が身代わりとなったかも分かっている。

なので、わざわざ時間を戻す演出をしても効果は薄い。もし、これが現代劇ならば、

第1段
「えっ!家康死んじゃったのか!?」

第2段
「ええっ!あの名前を間違えられた人が身代わりになったのか!」

第3段
「家康が名前を間違える理由はこうだったのか!」

と驚愕の真実が明らかにされたであろう。

しかし、これは大河ドラマであるから真相は分かっている。第1段と第2段は無きに等しい。武田軍が徳川軍を粉砕したように第1段と第2段の想定など軽く突破である。最後の本丸である第3段も無理矢理感がありすぎた。

織田家へ人質に

本ドラマの設定だと、夏目広次は幼い家康が今川家へ人質に行くときの付き添いの役目を務めていた模様。しかし、織田の急襲に遭い家康を織田にとられてしまう失態を犯してしまう。

おいおいおい!

なんで一人だけ生き残ってるねん。夏目以外は皆死んでるやん。それも弓矢でやられたのに夏目だけ無傷。そのくせ夏目は不思議と気絶。白兵戦なら頭部に打撃を受け気絶するのも分かるけど。

この設定は必要だったのか。ただ幼い家康にトラウマを植え付け、吉信という名前を家康の記憶から消すためだけの無理矢理な設定にしか過ぎない。

それに夏目が気絶している間に家康は拐われているので、後のトラウマとなるような家康と夏目の悲劇的な別れも無し。

人質描写の一例

通説では戸田康光が裏切り、東の今川へ向かうはずの舟を西の織田へ向けたわけで、その時に悲劇の別れとした方が自然だったのではないか。

「戸田殿、舟の向きが違うではござらぬか!」
夏目の言葉に戸田は竹千代を抱きかかえ短刀を抜いた。
「吉信ーっ」
竹千代が叫ぶ
「御乱心召さるな!」
戸田に向かって叫んだ夏目も刀を抜こうとするが竹千代が人質になっているので躊躇した。
「わしは織田へつく。さらばじゃ夏目」
戸田はそう言うと夏目の背後へ目配せをした。夏目は背後から帯を取られ海へ放り投げられた。
「竹千代さまーっ」
「吉信ーっ」
波をかぶり薄れていく夏目の意識。しかし、その目には泣き叫ぶ竹千代の姿をとらえていた。

筆者作

…こういう感じで良かったのではないだろうか。幼い家康の脳裏に吉信という名前が強烈に植付けられると同時に、目の前で吉信が溺れていく姿を見せられ封じ込めたい記憶というトラウマとなるだろうに。

岡崎に戻った夏目は家康の父である松平広忠に「腹を召してお詫び…云々」と言ったが広忠は夏目を許す。生きづらいのなら名を変えよ、とまで言って。

これが夏目吉信から夏目広次へと名前が変わり、家康の記憶が混乱する原因となったみたい。

まず「腹を召して」ってNHKなら自分に対して敬語を使わせてはいけない。「召す」って敬語だと思う。目上の者が切腹するときに「殿はお腹を召されて」とか使うと思うのだが。この場合、単純に「腹を切って」でよかったと思う。

で、家康が家臣の中で夏目の名前だけを間違える原因が判明したわけだが、だから何としか思えなかった。ドラマの本筋とは関係のない枝葉の枝葉を伏線のごとく扱うってどうなんだろう。

三河一向一揆の裏切り

その後、夏目は三河一向一揆で家康に反旗を翻すがこれも許される。

このドラマの夏目からしたら2度も家康の命を危うくしたという負い目を感じていたようだ。

いやいやいや。

それなら一向一揆で家康を裏切るな!

どんな辛いことがあっても幼い家康を守れなかったと反省しているなら、一向一揆の時は裏切るな。実際、苦しくとも家康を裏切ることなく付いていった家臣も大勢いるんだしね。

「殿は、きっと大丈夫」

と夏目は言ったが、どの口が言うねんとしか思えなかった。家康の身代わりになったのも、家康のためというより自分の気持ちを納得させるためのように感じた。

嵐の曲に「きっと大丈夫」というのがあるけど、それにも引っ掛けたセリフだったのだろうか?

結局、人質のエピソードをぶち込んだので夏目の人間性が曖昧になったと思う。

普通に時系列に沿って描いていって、夏目の身代わりも一向一揆の時の裏切りを許された事実だけを理由とした方がスッキリしたのではないかな。

もう一つのケース(一例として)

家康の鎧兜を身にまとった夏目はヒラリと馬に飛び乗った。夏目は手綱を引くと馬はその場でくるりと回った。見事な輪乗りであった。
夏目は言った。
「殿、三十六計逃げるに如かず、でござる。この戦、殿が逃げのびれば殿の勝ち、信玄の負けと言えましょうぞ」
「吉信!お前はあのときの吉信であろう」
夏目はそれには答えず爽やかな笑顔を見せた。
「一向一揆の時の御恩返しでござる。殿、必ず逃げのび信玄に勝ちなされよ!」
夏目はそう言い残すと馬に鞭をあて敵方へ走り去った。
「吉信ーっ」
「殿、夏目殿が時を稼いでいる間にこの馬で!」
「分かった!必ず勝ちを拾ってやる!」
家康は差し出されたもう一頭の馬に飛び乗り、夏目とは逆の方向へ馬頭を向け鞭を打った。走り去る家康の耳に遠くから敵兵の声が届いた。夏目が走り去った方角からであった。

「敵の大将がいたぞ!」
「あれが家康ぞ!」

その声を振り切るかのように家康は再び鞭をいれた。

筆者作

時間軸の通りに

武田が浜松城を通り過ぎる→三方ヶ原へ→その先は隘路→追い打ちのチャンス→徳川出撃→三方ヶ原で武田が万全の布陣→徳川退却→武田追撃→徳川勢は家康を守るために次々と盾になっていく(本多忠真など)→家康疲れる→夏目登場で身代わりに等。

と、別に時間を戻すこともなく普通に描けば緊張感も継続し、迫りくる武田の恐怖と家康を守り抜く徳川勢の奮闘などがより強く印象に残ったと思う。

この夏目パートに時間を費やしたので、エピソードの宝庫である三方ヶ原の戦いがちっぽけなものになってしまった。つまり、夏目エピソードを描くことが主題となり三方ヶ原の戦い自体はサブテーマとなってしまったと思う。うーん、残念。

私の好きな本多平八郎の無傷のエピソードもギャグ扱いされてるし…

これが「真」だとは…

これでは夏目をはじめ家康を逃がすために死んでいったものたちも浮かばれないし、食い逃げした家康を追いかけるために待機していたはず?の銭取婆も逆に肩すかしを食らったであろう。地元の銘菓「銭取」は一度食べてみたいものです。

信玄や勝頼などの武田勢が格好良く描写されていただけに残念としか言いようがない回となってしまった。

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