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帰郷 心の旅3 チューリップ「夕陽を追いかけて」

室生犀星むろうさいせいの「小景異情」という詩がある。題名を聞いてもピンとこないかもしれないが、冒頭の句を見れば「あゝ」と思われる方も多いだろう。

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの

この句だけを見ると、犀星が故郷から遠く離れた地でこの詩を詠んだと解釈してしまうが、犀星は故郷の金沢でこの詩を詠んだのである。

つまり、犀星は今いる故郷は自分のいるべき処ではなくて遠くから思いを馳せる処だと詠っている。都の夕暮れを見て故郷を思う心を持って都へ帰ろうという詩。故郷に対して複雑な心境が垣間見える。

よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや

ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて

遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや

どうして犀星の「小景異情」を持ち出したかというと、チューリップの「夕陽を追いかけて」という曲を聴くと、私の中では犀星の「小景異情」が呼応するからである。

室生犀星という詩人と財津和夫というミュージシャンが故郷という地で遠くから故郷を思うという詩を詠っているのは心に響く。

「夕陽を追いかけて」の作詞作曲は財津和夫でボーカルも担当している。

財津和夫というミュージシャンが久しぶりに故郷に帰り、その故郷の変貌に驚き、父母の年老いた様に嘆き悲しむ心情は聴く者の心を揺さぶる。ただ生まれ育った海の情景はあのときのまま。その海の向こうに沈む夕陽の姿をいつまでも心に刻んでおこう、そんな心象風景を感じる。

財津さんにとって故郷の海は忘れがたいものなのであろう。「悲しきレイン·トレイン」でも「夕陽を追いかけて」でも故郷の海が詠われている。

「夕陽を追いかけて」は、1978年6月20日に発売されたチューリップの通算14枚目のシングル。

財津さんにとっては大切な曲だけど地味な曲なので「求められてないなら、歌ってもしょうがない」と思い込み、ステージであまり歌わなくなったらしい。でもTBS系音楽特番「クリスマスの約束」で親友の小田さんがこの曲を歌い、小田さんもこの曲を気にかけていたということで勇気をもらった形となり、財津さんは近年この曲を歌うようになったとのこと。

いい話です。

そう言えば小田さんも「my home town」という故郷を歌っている作品がありましたね。

財津さんにとって「心の旅」は、夕陽が沈む向う岸の彼岸にたどり着くまで続くのでしょうね。それまでは夕陽を追いかけ続けるのでしょう。

「夕陽を追いかけて」

心に残る名曲です。

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