クローガーとアルバートソンズの買収アービトラージ

1年以上前、食品スーパー最大手のクローガー社がアルバートソンズ社の買収を発表しました。業界大手同士がくっつくということで、総額246億ドルという巨大なディールです(34.10ドル/株、買収完了までに得られる配当を考慮すると27.25ドル/株の現金がアルバートソンズの株主の手にわたる)。クローガーの買収の目的の一つはコスト削減であり、買収完了後、4年間で約40億ドルのコスト削減を見込んでいるようです。日本でも物価上昇が目に見えて進んでいますが、それは米国も同様のようで、インフレにより買い控えの懸念から商品の価格を抑えたい(値下げしたい)という意向があるそうです¹。
しかしながら、アルバートソンズの株価は買収価格よりも低く、22~23ドルで推移しています。なぜ、買収価格と同程度まで株価は収斂しないのでしょうか。原因としては、FTCは両社がくっつことによって独占状態に近づくと懸念しており、買収の承認を認めない可能性があるからだと考えられます。現在の株価と買収価格の差というのは、この買収の不確実性を如実に表しているということでしょうか。もし、FTCが買収を承認すれば、株価は買収価格に近づくこととなり、20%程度のリターンを得られる可能性があります。
今回、私はアルバートソンズの株式を購入しました。買収が成功するかはまだわからないところではありますが、4つのポイントを絞って考えたいと思います。


①買収不成立の現実性

5,6年ほど前にウォルグリーンがライトエイド(こちらは最近倒産しましたが)を買収しようとしましたが、今回の件はその事例とちょっと被るなと個人的に思い、少し気が引けていました。私の記憶が正しければ、この件に関してもFTCが介入してきました。ウォルグリーンはライトエイドを買収するために、今回と同様に店舗の一部を第三者に売却したりするなど(後述します)、2年近くも色々と頑張っていましたが、結局は上手くいかずに最終的には買収を取りやめました。今回のような食品小売市場を営む企業の買収は一般消費者の生活に直結するため、FTCはそのような市場の独占状態に特に敏感な気がします。バイアスもかかってますが、前回の件もあってか、今回の買収アービトラージはちょっと入りづらかった面があります。また、両社ともに米国の食品小売市場ではTOP3、4に入るのでFTCに承認を貰うのはハードルがなかなかに高い可能性もあります。そのため、感覚的ですが、いつもよりちょっと厳しめにこのディールを見守りたいと考えています。

②買収者の買収の入れ具合

冒頭で買収の目的について触れましたが、もちろん買収の目的は他にもあるようです。記事によると¹、食品小売市場のシェアはウォルマートが首位で25%と圧倒的です。仮に今回の合併が成立すれば、新会社のシェアが13%(クローガーが8%、アルバートソンズが5%)になります。まだまだウォルマートを脅かすほどではないでしょうが、どうにか食いついて行こうという感じでしょうか。小売業は規模の経済が効きやすいので、シェアを増やすことは重要だと思います。
また、クローガーはEC事業にも力を入れていますが、赤字なようです。記事によると、クローガーは英国のネットスーパーであるオカドグループと提携し、EC専用の大型物流センターの建設を全米各地で進めているようで、アルバートソンズを取り込めれば、顧客が増えて投資回収が早まることを期待しているようです。
このように、買収の目的はいくつもあるので、クローガーがアルバートソンズを買収することは一理あるかなと考えられます。
さらに、被買収者のアルバートソンズは、FTCとの交渉の難航を予見して、新会社を設立して、数百店舗を新会社の売却する案を発表しています。2社の保有店舗は5000店舗にも昇るため、一部の店舗を第三者に売却することによって、競争を促す姿勢を示し、FTCの懸念を緩和させようという狙いを買収発表直後から示しました。両社の本気が伺える一幕だと感じています²。

③両社の買収成立のための方策

アルバートソンズが示した上記の方策の他に、最近、他の方策も打ち出しています。報道によると³、9月にクローガーとアルバートソンズ・カンパニーズは、400余りの店舗をC&Sホールセール・グローサーズに約20億ドルで売却する方針を打ち立てました。両社合わせて5000店舗ありますので、400店舗(全体の20%くらい)を他社への売却を進めることで、こちらも業界の競争状況を維持・促進させて、FTCの懸念を緩和することが狙いです。
ただ、注意点がありまして、2015年にアルバートソンズとセイフウェイの合併の際も同様の方策を打ち出しましたが、売却先の企業が倒産したため、売却した店舗の9割が閉鎖されてリストラを敢行する羽目になっています²。このような過去の失敗例を指摘する人もいて、先にウォルグリーンはライトエイドの事例にも触れましたが、この方策は必ずしもプラスに働くわけではなさそうです。

④失敗した場合の想定損失額

一昨年の10月に買収合意後、株価は上昇しませんでした(むしろ下落方向)。合意の直後からFTCの承認が得られるかどうか懸念されており、おそらく市場も同様の懸念を抱いており、買収価格である27.25ドル/株よりも低い株価で推移しているのが現状です。買収合意前の株価は20ドル後半~30ドル半ば台あたりをウロウロしていたので、買収が万一破談になったとしても大きく下落することはない可能性があります(通常、株価は上昇するので、破断した場合は合意前の株価に戻ると考えられることが多々あるようです)。もし下がったとしても、株式を上場した2020年台の10ドル後半をイメージしました(20%くらいの下落?)。そのため、仮に買収成功の確率が50%程度であったとしても、期待値的にはトントンかなと考えました。

定性的な分析が主になりましたが、この買収に関しての私の意見はこのような感じになります。この買収の顛末を見守りたいと思います。


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