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<my story>「好き」を仕事にするまでに

京都の観光名所の一つ、清水寺。その近くにある五重塔に続く道に、「うつわとcafebar mokumoku」さんがあります。出町柳に店舗をもつ「タルティーヌとコーヒー はんな」さんと、オンライン通販で活動中の「きのこの時間」さんとの、月に一度のコラボブランチの日。素材を活かした品々を堪能し、それぞれのオーナーさんに、三者三様のライフストーリーをうかがいました。
インタビュアー・編集は、𣆶葉が担当いたします。私は現役大学生、現在実習生として、「京都ではたらくわたしのライフストーリー」メディア作りに参加しています。大学生の今だからこそ気になることもお聞きしました。ぜひご覧ください。

インタビュイー紹介

田中愛子さん…「うつわとcafebar mokumoku」オーナー
宮川瑞枝さん…「タルティーヌとコーヒー はんな」オーナー
谷口千佐代さん…通販サイト「きのこの時間」経営者

――学生のときの将来像と、卒業後の進路は?


田中さん(以下、田中):自分の体験したことを文章にして伝えるのが好きで、大学時代に新聞部にいた経験もあって、記者とか編集者を目指して就活してました。なんとか小さい広告代理店に入り、旅行パンフレットや企業広報誌のデザインに関わりました。大学時代に、何かの足しになればと思ってDTPデザインの専門学校に行っていたのが活きた感じですね。デザインも楽しかったのですが、なんか違うなーと思いながら働いているうちに、3年目で身体を壊してしまったので辞めました。

宮川さん(以下、宮川):2つあって、まずは、普通に会社に就職するというもの。影の夢としては、自分のお店を経営したいっていうのがずっとあって、その二本柱で生きていました。
私は商業の高校に行っていて、卒業後の進路は学校が斡旋してくれたんです。私の第一目標は、名前の通った会社だったんですが、先生が、私の挙げた会社よりこっちのほうがいいって勧めてくれた出版社に就職しました。編集部で、原価計算とか部長秘書みたいな仕事をしていました。その会社には6年いました。入社当初は3年ぐらいって思っていたんですけど、とてもいい会社だったということと、後釜を育ててから辞めてくれと言われていたことがあって、6年間勤めました。働きながらもやっぱり飲食店がやりたいっていう夢は消えなくて。5年目に辞めるって決めたので、働きながら、調理師の通信講座を受けたり本を読んだりして、飲食の道へ進むことにしました。

谷口さん(以下、谷口):好きなことが仕事だったらいいなと思って、雑貨屋さんを目指してたんです。でも、入社した会社では、希望の雑貨事業部ではなくて、ご年配の方向けの婦人服のほうに配属になり、辞めてしまいました。そのまま卒業旅行で海外に行ってしまって、卒業と共に無職に(笑)。
それから、地域の雑誌に求人が出ていた住宅設備関連会社に就職しました。某ガス会社さんの代理店なんですけど、現場に行って、大工さんとお話ししたり、はしごで2階に上がったり、ハードなものでした。でも最初にしんどいことをしておいたほうがいいこともありますよね。4年間そのお仕事をして、一旦退職してから、派遣という形で、そのガス会社さんのショールームレディーになりました。

――今の生き方に変化したきっかけは?


田中:広告代理店を辞めてから、派遣社員として編集アシスタントを経て、フリーで雑誌やWEBライティングなどに細々と関わってました。暇な時間も多かったので友達とフリーペーパーを作ったり。その頃絵を描く人や作家さんと知り合う機会が増えて、アートや工芸にも興味を持ち始めました。
その後、結婚相手の地元京都へ移住。子育てを経て、現在のお店を開きました。きっかけは、自宅玄関のリフォーム。清水寺への観光客の方々が行き来する通りに面しており、リフォームに合わせて自分たちでお店をやってみようかと。
通りに面する部分は、夫婦ともに好きだった民藝の器を並べるギャラリーにする、という構想はあったので、その器を使ったカフェもしようって話になりました。きっかけはリフォームで、カフェは後づけです(笑)
器は自分たちで、作家さんから直接仕入れています。はじめはそれに淹れたコーヒーを出して、ぐらいに思っていたのですが、素材にこだわってランチやお菓子を提供したり、みなさんとイベントを企画したりして、今やこんな感じに(笑)。

素材にこだわった、「mokumoku」の手作りドーナツ

宮川:退職後は、2年ぐらいのスパンで、色々な飲食店でアルバイトしました。色々なところで学ぶのがベストだと思ったので。ジャンルは洋食が多くて、最終的に、カフェがやりたいなって思うようになりました。
最後にバイトしたカフェが、私が独立するきっかけになりました。一番勉強になったのは、メニュー開発ですね。そのカフェは母体がアパレルで、月に1度プレゼンがあり、本社から社長かマネージャーが見に来られ、新メニューを決めるという感じだったんです。自分たちで作りださないといけなくて、それをやらせてもらっていました。もちろん新メニューを通すには原価計算もできないといけないので、アルバイトのうちからその経験をできたっていうのが、めちゃめちゃ大きかったですね。自分の店をもつスキルをどんどん積んでいきました。
カフェをやりたいと思ったのは、ジャンルにとらわれず、何を出してもいいから。アルバイトの期間の後、東京に引っ越して、4年間カフェを営みました。今日はこれを作ろう、みたいに、思いついたものを作るのが好きなタイプだったので、週替わりごはん、月替わりデザート、現在の製法のパンなどを出していました。
今の製法のパンを追求するようになったきっかけは、パンの講師をしていた頃に東京で出会ったパン屋さんで「なんて美味しいんや!!」って思ったこと。何年も料理のスクールに通っている、達人のような生徒さんから「先生におすすめのパン屋さんがあるよ」と教えていただいたんです。大都会の中で、端と端くらい離れた1軒で「これだ!」と感じました。この生徒さんとの出会いに、今でも感謝しています。それで、今の製法のパンを作るようになりました。
人生において、商業の高校を出て、会社に勤めて、アルバイトをして、その全てで培ったスキルが全部今につながっていると思っています。写真を撮るのが好きで、自然に恵まれたところに住み、たくさんの写真を撮った経験も、今の(お店のことを)Instagramで発信することに活きているし、人生には無駄なことがないなって思います。

谷口:白髪染めについて色々調べたり、食生活を見直したりした時期があり、そのときにオーガニックに興味をもちました。きのこってオーガニックの究極みたいなものだし、それがきっかけの一つかな。
それから、息子の一人が一時期引きこもっていて、学校の代わりに通わせた英会話スクールで、岐阜県できのこの会社を経営されている方と知り合ったんです。それをお手伝いして、息子も一緒になって販売していく中で、先日彼も独立してくれました。野性味あふれるきのこの元気さが、彼にも伝わったのかなって思ったりもしています。
地味なイメージのきのこを、クッキーみたいにお土産にできるような立ち位置にしようと活動中なんですけど、本当に楽しくて……だから、息子もきっかけではありますが、私がすごく楽しいと思ったことが始まりですね。

まさに手土産にできそうな、「きのこの時間」の商品。介護食にもなる、ジェル状のパウチも

――選択するときに軸にしているものは?


田中:今までは、自分のしたいことを優先させていたんですが、子ども、特に下の子ができてからは、子ども優先に軸が変わり始めています。子ども優先じゃなかったときは、こっちはこっち、あっちはあっちで大変だったんですが、お店でも子ども向けのワークショップとかをやるようになると、子どもも喜んでくれて、自然とお店と家族がつながって……そうか、時には家族も巻き込みながらお店作りをすればいいんだって思いました。
手伝いに来てくれるスタッフさんにもお子さんがいらっしゃるので、子育てと仕事が無理なく、共存できたらいいなと思います。
それから、お店としては、経済優先じゃなくて、何も犠牲にせずに、人が自然と心地よく共存していく方法を模索しています。自然の恩恵を器や工芸品に変えていく生き方や、無農薬で野菜を育てていらっしゃる方々のことをみなさんに伝えていくことを大切に、店づくりしていきたいです。

宮川:そもそも飲食店をもちたいと思った理由は大変難しいのですが、根本には、「食べることが好き・美味しいが好き」っていうのがあると思います。

「タルティーヌとコーヒー」のパン。下は学生に大人気の「クレームブリュレ」

谷口:自分が好きかどうか、楽しいかどうかっていうことを大事にしています。スパークジョイですね(笑)そればっかりじゃなくても、嫌で嫌でしょうがないっていうことに、大切な時間とお金と命を懸けるのは、非常にもったいない。ベースには楽しいことがないと!

――憧れの存在や、理想像などは?


田中:田舎暮らし……でなくとも、地に足のついた生活をしたいな、と思っています。
具体的に憧れている人は、丹波焼の清水俊彦さんです。開店して最初に仕入れのお願いをした窯元さんで、兵庫県の工房に行くと、いつでも同じ場所で仕事をなさっています。「作る」ことが暮らしの中心という感じで、定番の器を何十年もこつこつ作り続けておられる安定感が半端ないです。寡黙なようで笑顔がチャーミング。仕事には厳しく、周りの人には温かく……そんなお人柄が、器に全部表れている気がします。
淡々と仕事と暮らしを営んで、周りの人を幸せにする、そんな生き方に憧れます。

宮川:ゆっくり旅行に行ったりする老後に憧れていますが、今の店をしているとなかなか難しいので、店が軌道に乗れば、年に2回程度でも、どこかで「パンのブランチ」を提供しながら旅をすることに憧れています。

谷口:オードリー・ヘップバーンの、「魅力的な唇であるためには、美しい言葉を使いなさい。愛らしい瞳であるためには、他人の美点を探しなさい」って言葉とか、デヴィ夫人の、あのご年齢で活動的なところと、美しさを保っておられるところに憧れます。そんなスーパースターじゃなくても、年を重ねたときに充実している人でありたいです。
自分大好き!自分最高!って、日本人はそういう人少ないと思いますが、そんな精神でいってもいいんじゃないかと思います。

(左から)宮川さん、田中さん、谷口さん。「mokumoku」の店内にて

編集後記

お話をうかがって、人生で得たものは、必ず何かの形で活きてくるものなんだと感じました。「好き」を仕事にされている方でも、その「好き」が大学時代以降に形成されたものであることもある、ということにも気づきました。これからの就職活動だけでなく、人生において忘れずにいたい、貴重なお話の数々、ありがとうございました。

うつわとcafebar mokumoku
 _   https://utsuwamokumoku.com/

タルティーヌとコーヒー  はんな
 
 https://instagram.com/pan_coffee_hanna?igshid=MzRlODBiNWFlZA==

きのこの時間
 
 https://instagram.com/kinokotimes?igshid=MzRlODBiNWFlZA==

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