【雑談】アニポケが描けるもの・描けないもの
暖冬だろうがサムイ日はサムイ雑談⛄
DLC番外編の盛り上がりが落ち着いてきた今日この頃、巷ではSteamで発売された「パルワールド」が話題になっている。概要は以下の記事を参照。
どうして話題になっているのかといえば、「ポケモンのような生き物が銃を撃ったり、強制労働させられたりするゲーム」(引用記事より)として認知されているからだという。
著作権云々の話をここで掘り下げるつもりはない。デザインについての専門的な知識もないし、そもそも権利者が判断することだ。25日に株ポケから声明も出ているので気になる人は確認してみてほしい。
さて、「パルワールド」が話題になった背景には「ポケモン」がやれなかったことをやっているからという側面があるらしい。これは技術的な問題以上に「ポケモン」が背負っているブランドによるものが大きそうだ。
言うまでもなく「ポケモン」は全年齢向けのゲームとして開発・発売されてきた。ブランドを管理する株式会社ポケモンは次のような企業理念を掲げている。
これがポケモンコンテンツ全体に通底している理念とすると、本編だけでなく派生作品やアニポケ、ポケミクなどのコラボにも同様のブランディングが施されているとみることができる。
実際にはこのような抽象的な理念だけではなく、具体的な表現によってコンテンツは構成される。さらにポケモンはマルチメディア展開である為、メディアごとに適切なブランディングをする必要がある。本編、アニメ、漫画それぞれで匙加減は変わるだろう。
時代性・地域性も考慮すべき因数だ。現代の日本では当たり前に受け入れられていても、他の時代・地域ではどうか分からない。
多くの人にとってポケモンは長年親しんできたコンテンツである為、ポケモンの表現の範囲について思いを巡らせる機会は中々ない。そして、急にそれを問われる状況に戸惑っている人も多いのではないだろうか。
客観的な正解などありはしないけれども、親しんだコンテンツにどうやって向き合うのかを考える意味では良い契機なのかもしれない。
私はポケモンコンテンツの中でもアニポケに関心があるのでここでは「アニポケが描けるもの・描けないもの」について考えてみよう。ただし、表現の問題はファジー(曖昧)な領域を含むため、個人的かつ暫定的な意見として聞いていただきたい。
最初にアニポケが表現できる幅についてざっくりと分けてみよう。本記事ではセーフ・グレー・アウトの三つの基準を設けて考える。
セーフ:アニポケで描くのに問題ないと判断されるテーマ・表現
グレー:アニポケで描くことは可能だが、扱い方に注意が必要なテーマ・表現
アウト:アニポケでは描けないテーマ・表現
ただし、これらの基準は一視聴者視点で推察するレベルのものであり、実際の基準とは乖離している可能性があることには注意してほしい。また、くっきりと分かれているものではなくグラデーションのゾーン(領域)イメージであることを付言しておく。
セーフゾーン
セーフゾーンはアニポケとしては特に問題にしない領域だ。基本的なことで言えばポケモンが存在する世界を描くこと、そしてそれらをゲットしてバトルさせる状況を描くことを指す。
何を当たり前のこと…と言われるかもしれないが、これらがセーフゾーンなのはポケモンと共に育った現代日本人の常識に過ぎない。例えばサウジアラビアではポケモンが反イスラムであるとの宗教令が出されているのは有名な話だ。
ここまで極端でなくとも、日本では問題なかったのに海外では放送が見送られた回なども存在する。例えば黒人差別を連想させるとして「ルージュラのクリスマス」がアメリカおよび他の西洋諸国では欠番になっている(現在日本で見られるサービスではルージュラの体色は黒から紫へと変更)。
「ルージュラのクリスマス」はグローバル的に見たらグレーないしはアウトにあたるが、制作としては全くその意図はなかったはずだ。ルージュラというポケモンが存在する世界を描く、という至ってセーフティな意識だったと考えられる。
とはいえ、このような事情があるにせよアニポケの一義的なターゲットは日本の子どもたちのはずだ。アニポケの提供に関わるShoProは現在放映されている「ポケットモンスター」のターゲットは「幼児 / 小学生低学年 / 小学生高学年」としている。アニポケにおける表現の幅はこのターゲットを軸に調整していると推察するのが無難だろう。
アウトゾーン
話の都合、間のグレーは後に回して次はアウトゾーンについて考えてみよう。先にも述べたようにここでは日本におけるターゲット層に対する影響を中心に考える。
分かりやすい指標として民放連の放送基準(2022年5月26日改正 2023年4月1日施行)3章「児童及び青少年への配慮」を引用する。
上記の基準には子ども向け番組であるという理由で特定の描写を禁止する…とまでは言及されていないが「社会通念」に則り、子どもたちへの影響を考える必要があるとしている。
アンダーグラウンド文化を表すのによく使われる「エログロナンセンス」などはわかりやすく「アウト」な領域だろう。ただし、これらの要素が完全に排除されているかといえばそうではない。問題になるのはそれらの表現が過度ではないか、あるいは「露骨」でないかということだ。
これらの程度の基準はメディアによっても変わってくる。例えば「きんのたまおじさん」はポケモン本編における有名な下ネタキャラだが、アニポケではほとんど存在感がない(一応SM73話などで端役として登場はしている)。
他にも「ポケットモンスターSPECIAL シリーズ」や「電撃!ピカチュウ」などの漫画メディアは暴力表現や性的表現が比較的強いと評されている。
また、他の「子ども向け」作品(某嵐を呼ぶ園児のアニメや某妖怪アニメなど)と比較しても下ネタや直接的な暴力シーンは控え目な印象を受ける。
アニポケはポケモンコンテンツの中でもクリーンな色が強い。単に「子ども向け」というだけでなく、ある種ポケモンの「顔」としての役割を担っているからかもしれない。昔から今まで一番アクセスしやすいポケモンコンテンツとして前線を張ってきたと考えると、軽々に基準を揺るがせられないと想像できる。
グレーゾーン
最後にセーフとアウトの間、境界的な領域であるグレーゾーンについて考えてみよう。先に引用した民放連の放送基準3章「児童及び青少年への配慮」の記述をみて分かるように、子ども向け番組において「暴力・残忍・陰惨」などのテーマを扱う場合には「配慮」する必要がある。
アニポケで「暴力」に最も近づく瞬間はポケモンバトルだろう。分かりやすい「配慮」といえばバトルによってポケモンの体力がゼロになったことを本編では「瀕死」とするところをアニポケでは「戦闘不能」と表現することなどが挙げられる。
しかしながら、アニポケならではのギリギリを攻めるテーマもなくはない。トレーナーによるポケモンに対する過度な特訓、同意を得ずに逃がす行為などは複数回描かれており視聴者に強烈な印象を残している。
ポケモンというコンテンツの性質上、ポケモンが「暴力」に近いせいかポケモンと人間ではポケモンに対する「配慮」の方が比較的薄く感じる。
近年ではSM21話に代表されるような身近なポケモンの死についての表現も増えてきたが、主人公の目の前で人間が亡くなるような表現はアニポケでは極めて珍しい(XYZのフラダリなどが匂わされているがはっきりとはわからない)。
露骨な表現は抑えられる傾向にあるが、テーマ選びについてはシリーズごとに変容することもある。先にも触れた「ポケモンの死」などは匂わされることはあってもそれをはっきり描くようになったのは近年になってからのことだ。
特に現在放送されているHZシリーズはこれまでと比較してシリアスな展開も多い。サトシ編では描けなかったものを描こうとする意図も恐らくあるだろう。今後、例えば主要メンバーの長期的な闇落ちなどもあり得るかもしれない。
さて、「パルワールド」から随分話が膨らんでしまった。アニポケは様々な制約や配慮などのハードルを越えて制作されている。縛りがない創作というのは世の中にほとんど存在しないと思われるが、その中でもアニポケはキツイ縛りがあるのは想像に難くない。
ただし、露骨な表現を除けばたとえ「子ども向け」番組であっても扱えないテーマというのはそこまで多くはないはずだ。そして、まだアニポケが掘り下げてこなかった領域もきっとあるだろう。
アニポケは新たな時代を迎えている。これまででは描けなかったものが描かれる可能性はかつてなく高まっている。一人のアニポケファンとして新たな物語が紡がれる瞬間が楽しみだ…To Be Continued
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