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ウエクミ対談シリーズ:唐津絵理【後編】これはオペラじゃない?

【前編】キャストを探す直感

愛知公演で変わる部分はありますか?

上田:動きを変えようとは思ってないですね。こっちが変えようとしなくても、もっとこうしたらどうかなっていうのが、本人たちの中から出てくるような気はするんですけど。『田舎騎士道』も『道化師』も、ダンサーとはいっても 普段はご自身で振付したり演出するような、自分で創れるメンバーばかりなのが非常に有効で。どの方も、もしかしたら愛知で何かさらなる変化があり得るかもしれないと思ってます。

左から宮河愛一郎(日野役)、髙原伸子(葉子役)、唐津絵理、上田久美子、三東瑠璃(聖子役)、柳本雅寛(護男役):2023年1月稽古場にて

唐津:ケイさんの存在も、いろんな人から感想を聞いたけど、やっぱり彼女の存在感はすごい別次元のものがあったと思います。

上田:神聖な感じですよね。稽古場では引き算の美学とでもいうか、「いる」だけっていうのがめっちゃかっこよかったです。そこから、あの大ホールの空間に行って、オケの大音響が加わり、だったらこれぐらいっていうふうに対応された気もします。環境をキャッチして少し踊りを大きくしてくださったような。稽古場でのスーっとしたストイックなあり方が、あの大きな空間でどう見えるかわからないけども、あえてそこを愛知でもう一回狙っていただけたら面白いかもしれないと思っています。

唐津:なるほどなるほど。

『田舎騎士道』よりケイタケイ(光江役)、森山京子(ルチア役) ©2/FaithCompany

上田:私なんかがケイさんに提案というのもおこがましいようですが、ほんと拓かれた方だから、こんなダンスのことをわかってない人間でも受け入れてくださって。

唐津:彼女は1960年代からニューヨークでずっと活躍してて、日本ではそんなに知られてないんですけど、向こう行くとすべて満席になるくらいの日本を代表するポスト・モダンダンスのレジェンドなんですよ。自分以外の振り付けをこれまでやったことがないっていう。だから人が振付される作品に初めて出られたんですよ。

上田:自分の作品でしかやってないのに、人の作品に出て言われたことをやるってことを初めてやってくださるなんて、本当にありがたいと思ってます。

唐津:あと川村さんとやまださんの存在感もすごかったですね。路上生活者。あの2人の名前が挙がってきた時に、上田さんが2つの作品を横断する路上生活者という役柄に当てはめたのはすごいなと思いました。ほんとにそういうタイプのダンサーさんなので、ある意味個性が強くて、お二人ともほんと最後まで役柄になりきってホワイエまでね…

上田:やっぱり普通のダンサーさんだと「やろう」としちゃうと思うけど、もっと踊ってもいいですって言っても、いやなんか違う気がするとか言って踊ってくれない(笑)。淡々と「いる」だけなんですけど。

唐津:もっと踊ればいいのにねって言ってたんだけど、ちょっと違うのかも。

上田:彼らの中での何かその場に立ってみて感じることでやってらっしゃって。最後だけは激しく。

唐津:最後だけ。でも最後にスパークする感じがすごい良かったですね。

『道化師』より やまだしげき、川村美紀子 ©2/FaithCompany

上田:稲妻的な感じですよね。いや本当にすごいダンサーなんですよ。なのにその一瞬しかやらないっていう(笑)。アルフィオ祭りと呼んでいる、宮河さんと三戸さんの激しい場面があるんですが。ちょっと私も欲を出して、「川村さん、アルフィオ祭りを馬鹿にして、おしりぺんぺん的な感じで踊ってみては?」って言ったんですけど、川村さんは「あぁ」って考えて、最近やってるのは倒立…倒立を花道でやっているっていう(笑)。ずっと倒立しているだけで、馬鹿にするっていうのは彼女の中でそういうことになったらしくって。踊りじゃなかった!やっぱり踊ってない!みたいな(笑)お二人には、こっちからこうしてくださいって細かく言うより、どういうことしたくなりますかとか聞いて、なんかこんなこと思いついちゃいましたっていうコラボレーションで。際どいことを思いついちゃうんですよ(笑)。

唐津:はい。こちらの想像のはるか上の提案をしてきてくださることもあるから、嬉しい反面「それはできません…」と言わざるを得ないこともありますね(笑)

上田:『道化師』の冒頭の人形劇とかも川村さんがセリフを覚えてくれて、自分でセリフを小さく言いながら動かしてるんですよ。最初はちっちゃい声じゃなくて普通に言ってたんですけど、その時の話し方と人形の動かし方が、これだけを延々と見ていたいくらいすごい引き込まれるものでした。人間って、たぶん大人になるにつれ、子どもの時の話し方でしゃべれなくなると思うんですよ。いろんなルールとか身に付いて何かのマナーとかでもって作りあげた自分流演技術の中でしゃべったりしてる。心と声は分断されていて。でも何かあの人はすーっと声と心とがつながってしゃべってるから、その声で「今回はイタリアを日本に置き換えるねん」みたいに言うと、めちゃくちゃ頭に入ってくるんですよ。すごい人でした。オペラに関係ない情報でした(笑)。

『道化師』より ©2/FaithCompany

唐津:今、色々話しながら思ったのは、オペラ歌手が、ある意味自分はこういう役を演じなきゃいけないとか、こういう歌い方をしなきゃいけないみたいなことだったり、当たり前だと思っていること、オペラとはこういうものだみたいなことへの、問い直しみたいなことが今回大きくあるのかなと思いました。

上田:オペラでは、短い稽古期間で早く良いところまで行くためにはこうするみたいな、作法というか手順みたいなものがあるようなんですが、それを私が知らなかったのも、そうなった理由かもしれません。

唐津:オペラじゃないって言う人もいるかもしれないし、いろんな感想を持つ人がいて当たり前だと思うし、今の時代に「オペラとは」というような、そういう議論を生み出すということ自体が、今回の公演の価値だと思います。

上田:うーん。でもやっぱりあの音楽をオーケストラが演奏して歌手が歌ったら、それがオペラなんじゃないかな…。こうじゃなきゃいけないってなってきた要素は、柔らかい表面がだんだん硬くなって作られた「殻」みたいな…オペラでなくてもあらゆる芸術のジャンルで、そんな感触のすることがあります。


公演情報

愛知公演【3月3日/3月5日】

東京公演は全公演終了いたしました。ご来場ありがとうございました。