実話ドキュメンタリー「となりの教祖さん」最終話

時は流れ、進は六十歳となり、定年を迎えた
それと同時に、年金の受給を開始した
六十歳からの受給なので、受給金額はたかがしれている
生活を維持する上で、進は仕事を辞めるわけにはいかなかった
また、75歳まで、住宅ローンを抱えていた事情もある
進は不本意ながら、嘱託で会社に残らざるを得なかった
嘱託となった進は、かつての部下である社員達を名前で呼ばず、
「社員さん、社員さん」
と呼んだ
これには一つのニュアンスが含まれている
自分は嘱託で、仕事の責任は負いませんよ、という意味だ
給料は貰うくせに、なんとも無責任な話である
こんな様子だったからか進は、元葬祭部長でありながら、やがて若手社員にバカにされ、軽んじられ、コキ使われるようになった
だが進は、働かねばならぬ
そのしぶとさと今の家族に対する責任感には、若干の敬意を払うべきかもしれない

ある日、進は角刈りを背にして、事務所から窓外を眺めていた
つい先日まで満開だった川沿いの桜の花はすっかり散り、木々はその生命力の強さを誇るかのように、若葉でありながら、その葉をすでに青々と繁らせていた
そして今日も進は呟く
そう、まるで教祖の如く
いつものフレーズを

さあ、皆さんご一緒に!
トントン、トカトン!トカトントン!
ハイ!
ええことないわ〜
ええことないわ〜



※最後までご愛読頂き、ありがとうございました!
作中の名前等は、架空のものです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?