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王子のお山のかみさま。

神戸は山と海に囲まれた街です。
そして、王子動物園のうしろには、山が控えています。
大きな山ではありませんが、そこに住む人びと達を見守っています。
『今日はどうだい?』
『寒くないかい?』
『急がなくても大丈夫だよ』
人びとには聞こえない声で、語りかけています。
そして、動物園に住む動物たちも。
『おはよう』
園舎から出ていた象に、山のかみさまは挨拶をします。
『おはよう、山のかみさま』
返事をするように象は鼻を高く上げ、いななきます。
『今日も寒いよ、身体には気をつけて』
『ありがとう、かみさまもね』
他の動物たちにも、かみさまは挨拶にいきます。
『おはよう』
『おはようございます、かみさま』
外にいる動物たちも、中にいる子たちも挨拶をし、
かみさまに話しはじめます。
『昨日、お客さんがさ』
『飼育員さんに、新しいおもちゃをもらったよ』
動物たちの話を、かみさまは、ふんふんと聞きます。
中には、愚痴や文句だってあります。
それでも、かみさまは、動物たちみんなの話を聞くのが好きなのです。
さびしさを口にする子もいます。
『みゆおばちゃんがいなくなって、さびしいの』
ゆめは、鼻を鳴らします。
かみさまは、ゆめにやさしく触れます。
まるで、みゆきが触れるように。
『でもね、かみさま。ゆめ、おばちゃんのこと好き。見えなくても大好きよ』
『それでいいんだよ、みゆきも君が好きだって言ってる』
かみさまは、ゆめを抱きしめました。
そして、かみさまは、フワリと飛び、次の所へ行きます。
『さぁ、次はあそこだ』
朝なのに、コアラ舎の部屋の中で、まだ木の上で眠っている子がいます。
『おーい、いぶき、もう朝だよ』
声をかけても、いぶきは起きません。ぐっすりです。
『あとで、また行くか』
次の場所へと、かみさまは向かいます。
『白黒のあの子はどうしてるかな?』
白い幕に目隠しされたパンダ舎。
お客さんからは見えないけれど、庭ではタンタンが、
お気に入りの場所で、ウトウトしています。
『おーい、タンタン』
黒い耳がピクと動きます。
タンタンは目を開き、空を見上げます。
『・・・かみさま?』
『おはよう。今日はここでひなたぼっこかい?』
『そうよ。昨日、雨だったでしょ?』
『そうだったね』
濡れるのが嫌いな白黒のこの子。
でも、雨が上がった後は必ず散歩する事を、かみさまは
知っています。
鳥の鳴き声、お客さん達の話す声、風のささやき、色んな音がタンタンの耳に入ってきます。
草木のにおい、空気の流れ。ほかのいろんなもの。
幕に隔たれていても、自分と世界がつながっている事を感じています。
『気持ちいいわ』
『よかった』
朝の光が、優しく照らしてきます。
『きじまるさん、どうしてるかしら』
『元気にしてるよ』
そろそろ開園の時間。
かみさまはふわりと浮かびます。
『さぁ、1日がはじまるよ』と。

王子のお山のふもとの動物園の開園です。


2月に入り、王子動物園に行きました。
人混みが苦手な私ですが、
不思議な事に、ここではそんな煩わしさや、騒がしさを
感じませんでした。
ピリピリする事も、全然なかったのです。
家族連れや友達同士、お付き合いしてるだろう男女達。
動物達のにおい、鳴き声。
それが当たり前で、普通で。
ぼーっと、のんびりと園内を回り、動物たちを見て、写真を撮って。
園内で感じたのは、ふわりとした空気。
動物園のうしろにある山からでした。
ここは、山のかみさまが守ってくれている。
お嬢様は、ここにいればだいじょうぶと、思えたのです。
あそこで撮った画像を、家族に見せたら、
空気が澄んでると空が高くて、青いよと言ってました。
(自分が住んでいる所より、空が高く、青かった)
さぁ、今度はいつ行こうかな。

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