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カレーバイアスから見るお好み焼き定食と焼きそば定食からのアンチテーゼ

「えー!? 大阪の人って焼きそばをオカズに白ご飯食べちゃうんですか?」
 
「せやで、違う県に行ったらお好み焼きをオカズに白ご飯を食べることも驚かれたわ。普通にイケると思うんやけどなぁ? ミカちゃんも食べたことないの?」
 
 定食屋で同僚の田中と一緒にカレーライスを食べている僕は、大阪の特集を組まれている番組を見ていた。まるで大阪人は変人だと言わんばかり、ひどいもんだ。

 カレーライスは美味い。毎週1回は食べたくなる味だ、ダイエット中にも関わらずついつい大盛で食べてしまう。
 
「あれ? カレーライスって本当に健全な組み合わせなのかな……」
 
 ふと、身体に電流が走るような感覚に襲われた。カレーライスという食べ物に対して正常性バイアスがかかっているかのような恐ろしさは一体?
 
「急に何を言っているんだ、カレーライスは正義だろ? 残業のし過ぎで頭がおかしくなってしまったんだな。可哀想に……」

 田中は呆れたように言う。常にカフェインでハイになっているはずの僕になんて言いぐさだ。 

「なあ、カレーライスって焼きそばやお好み焼きと同類じゃ無いか? 僕達は騙されているんだ」
 
「おいおいおいおい、全くの別物じゃ無いか。似ても似つかないカレーライスに何を言っているんだよ? 栄養ドリンクの飲み過ぎで頭が疲れているんだ、落ち着け」
 
 同僚の田中は慌てたように言う。周囲のカレーライスを食べている人間を敵に回し、非国民である罵られるような行為だと思っているのだろうか。
 
「いいか、俺たちはカレーバイアスにかかっているんだ。カレーに白ご飯、カレーにうどん、カレーにパン。言い出したらキリがない」

「ああ、それだけカレーは愛されているんだよ」

 スプーンを指先で遊ばせながら、田中は言った。

「やっぱり僕達は騙されているんだよ」
 
「は?」
 
「カレーはどうやって出来ている? 牛肉、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジンがある。だがよくよく考えてみると、ジャガイモってドイツとかの主食だよな? つまりはドイツ人にとってはカレールーだけで実質カレーライスだよ!」
 
「お前、いつもの教祖プレイをしようとしているだろ」
 
 田中は呆れたように毒づいた。

「カレールーは、有名会社の商品の裏面で原材料を確かめたことがある。共通しているところで、小麦粉が入っていた。実質主食の成分が入っているんだ」

 独り暮らしの味方でもあるカレーライス。10人前でもルーは100円で買える最強の味方なのだ。

「当たり前のことだけども、小麦粉はパンやうどんの原材料であり、そして【焼きそば】や【お好み焼き】に使われているだろ?」

「続けてくれ」
 
「焼きそばやお好み焼きをオカズにすることに反論している連中は、その小麦粉に焦点を当てていないか? 粉物 + 白ご飯ということに対して文句を言っているんだよ」
 
「確かにな、麺で白ご飯食べるんかい! っていう感情で言っているよな」

「よってここで証明する」

 僕は勢い良く立ち上がった。身体には変な興奮が纏っている。

「焼きそばやお好み焼きに対して、オカズと認めない勢力の論点は小麦粉を使用している点である。しかし、彼らはカレーライスを非難することは無い。それは、カレーライスという食べ物が市民権を得てしまったからである」

「おう、やれやれ」

 田中は頬杖を付きながら呆れたように見上げていた。

「全国で食べられているだろうが、粉物は大阪のイメージがある。その思い込みによって、大阪の人間が特殊に見えてしまうのだ。まるで白ご飯に対する足し算に対して全ての罪を背負わせるような行為だ」

「そうだそうだ」

「しかぁぁぁぁし!! カレールーという物は、ドイツ等では主食として取り扱われるジャガイモ。そして麺などに変形する小麦粉という原材料が入っているのだ。これは由々しき事態である!」

 僕の手の中には、空のカレールーの箱があるようだ。

「結論として世間様に申し上げよう! カレーライスを食べる行為と言うのは、焼きそばやお好み焼きをオカズにして白ご飯を食べる行為と変わることは無い! なぜならば、カレールーは焼きそばやお好み焼きと同義だからである」
 
「ツッコミどころはあるんだろうけど、俺達にとっては完璧な論理だ。食休めとしては最高の演説だった」
 
「ご静聴ありがとうございました」
 
 田中が拍手をしながら褒めている。少し演技力の入った大げさな雑談程度の遊びだ。
 
「いいねえ。で、この目の前にあるカレーライスはどうする? 背徳的な食べ物としてお残ししますかい?」
 
「あん? そんなの完食するに決まっているだろう馬鹿野郎。美味い物をただただ食すよ」
 
「そりゃそうだわ。美味いは正義やね」
 
 くだらないことを言いながらふたりでまた食べ始める。上司の愚痴や部下の話をしながら、楽しい時間を過ごした。
 
「おい、お前は次、どれに喧嘩を売るんだ?」
 
「田中、僕は別に喧嘩したいわけじゃないぞ。ただそうだなぁ……」
 
 名案と言うのはすぐに浮かばない。口八丁手八丁で適当に言えばいい。どちらも本気にしていないのだから。
 
「よし決まったぞ。【ポテトサラダは炊き込みご飯と同類か】について喋ろうか?」
 
「またしょうもないことを……まあ結論は美味けりゃ何でも良いってことだろ」
 
「それは違いない。美味いのは正義だからね」
 
 そうしてふたりは会社への帰路へと向かった。


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