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手を繋ぐ

高校以来の友人がいる。お互い実家から離れたところに落ち着いたので会うのは数年に一度だが、とても信頼している。

10代の恋愛中心時代から、20代のガリガリ仕事時代、30代で家族ができたころなどを、近況報告したり悩み相談したりしながら過ごして来たので、お互いの家族や伴侶のことはよく知ってるし、同じように大切に思っている。

友人の配偶者は韓国籍なのだが、日本に暮らしてもう20年だ。仕事もあり、友人もいて、日本での暮らしが気に入っているようすだったが、たまたま出張で近くに行くので会いに立ち寄ると、「来月から韓国へ帰る」ということだった。友人も来年には日本での暮らしを整理して韓国へ移住するという。
何かあったのかと訊ねると、それなりに理由はあり、そうすることが良いように思えた。寂しくなるけど近いし遊びに行くよ、と返すと、

会って、会って、会って、会わないといけない。
手をつないで、触れて、話をして、話を聞かないといけない。
もう僕らの人生、20年30年よ。
仕事も、大事だけど、そんなことないよ。

と、じっと目を見て言われた。
彼は実は目の病気を患っており、徐々に見えなくなりつつある。だから、私の顔はあまり見えてないはず。でも、きっと私がウワってなったのはわかったと思う。そう、本当に時間はどんどん過ぎていく。

目が見えなくなってよかったのは、街歩きをする時に、私の友人が手をつ繋いでくれることだという。

日本人は照れ屋なのかわからないけど、なかなか手を繋いでくれないからね。最近はすぐに手を繋いでくれるから、僕は嬉しいんだ。エスねえは手を繋いでる?

繋がないなぁ!

繋ぐといいよ、手を繋ぐのはいいことだよ。

うん。
そうだね。

いつでも会えると思っていた友人が、近いとはいえ外国に行ってしまう。寂しいことだけど、それぞれに大切なものがあり、一つひとつ選択して進んでいくということだ。

帰りは新幹線の改札まで送ってもらった。ゲラゲラと笑いながら、繁華街を、3人で手を繋いで歩いた。

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