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感覚で理解する確率 ~日本シリーズは何試合で決着するのか?~

プロ野球の日本シリーズが盛り上がっていますね。勝っても負けても続くペナントレースと違い、4勝あるいは4敗すれば終了する日本シリーズは、1戦1戦、見ごたえがあります。

先日、友人に、「『日本シリーズで、チームの実力が互角なら、4勝2敗で決着する確率と、4勝3敗で決着する確率は等しい』と聞いたけど、本当?感覚的には4勝3敗の方が多そうだけど?」と、質問されました。

確かに力が互角だったら、4勝2敗と差がつくよりも、4勝3敗で僅差になりそうに感じるかもしれません。しかし、4勝2敗で決着する確率と、4勝3敗で決着する確率は、等しいです。

確率を理解して、活用するにはいい題材だと感じたので、この解き方、考え方を、いくつか書いてみました。目次の中から、自分の志向にあうものだけでも、ご覧ください。


力づくでいいのでとにかく求めたい

むずかしいことは考えず、とにかく考えられる組み合わせを書き出してみましょう。AチームとBチームが戦っているとして、各試合で、Aが勝つ場合とBが勝つ場合があるので、分岐しながら、書いていきます。
第1戦は、Aが勝つ場合とBが勝つ場合の2種類。第2戦目までだと、4種類(AA, AB, BA, BB)となります。

どちらかが4勝したら、その時点で書くのをやめます。第4戦で終了した場合、$${\frac{1}{2}\times\frac{1}{2}\times\frac{1}{2}\times\frac{1}{2}=\frac{1}{16}}$$となります。このパターンは、AAAAとBBBBのみなので、Aが4連勝する確率は$${1\times\frac{1}{16}=\frac{1}{16}}$$、Bが4連勝も同じく$${\frac{1}{16}}$$です。4勝0敗で決着する(第4戦で終了する)確率は、$${2\times\frac{1}{16}=\frac{1}{8}}$$となります。

第5戦で終了する場合の確率は、1つ1つの組み合わせについては、$${\frac{1}{2}\times\frac{1}{2}\times\frac{1}{2}\times\frac{1}{2}\times\frac{1}{2}=\frac{1}{32}}$$で、Aが4勝1敗の組み合わせは4通り、どちらかが4勝1敗で第5戦で終わる組み合わせは8通りなので、$${8\times\frac{1}{32}=\frac{1}{4}}$$となります。

同じ要領で、愚直に書き出し、間違えずに数えれば、第6戦で終わる(4勝2敗で決着する)確率は$${\frac{5}{16}}$$、第7戦にもつれこむ(4勝3敗で決着する)確率も同じく$${\frac{5}{16}}$$であることがわかります。

全組み合わせを書き出す場合→字が小さくなりすぎるので、第1戦にAが勝った場合の第5戦までの例です。

力づくの部分はPCにやらせたい

上のやり方で紙やExcelに書いていくのは時間がかかりすぎ、間違えるという方は、数学の試験でなければ、コンピュータの力を借りるのもありです。数学は忘れたが、プログラミングは慣れているという方向けになります。

例えば、Excel VBAだと、以下のようなコードで、第n戦で終了する確率が計算できます。(上でやった方法を、そのまま、プログラムに変換したつもりなので、スマートではありません。かえってわかりにくかったら、ご容赦ください。)

Function kakuritsu(n)
    '第n戦で決着がつく確率
    
    Dim win As String   '第1戦以降の勝利チーム 例) "ABBABB"
    Dim final(4 To 7) As Integer    '第n戦で決着がつく組み合わせの数
    
    For i = 4 To 7
        final(i) = 0
    Next i
        
    For Each win1 In Array("A", "B")    '第1戦でAが勝つ場合とBが勝つ場合
            
        For Each win2 In Array("A", "B")    '第2戦でAが勝つ場合とBが勝つ場合
            
            For Each win3 In Array("A", "B")    '第3戦でAが勝つ場合とBが勝つ場合
                
                For Each win4 In Array("A", "B")    '第4戦でAが勝つ場合とBが勝つ場合
                    win = win1 & win2 & win3 & win4
                    If Len(win) - Len(Replace(win, win4, "")) = 4 Then
                        final(4) = final(4) + 1
                        GoTo continue4
                    End If
                    
                    For Each win5 In Array("A", "B")    '第5戦でAが勝つ場合とBが勝つ場合
                        win = win1 & win2 & win3 & win4 & win5
                        If Len(win) - Len(Replace(win, win5, "")) = 4 Then
                            final(5) = final(5) + 1
                            GoTo continue5
                        End If
                        
                        For Each win6 In Array("A", "B")    '第6戦でAが勝つ場合とBが勝つ場合
                            win = win1 & win2 & win3 & win4 & win5 & win6
                            If Len(win) - Len(Replace(win, win6, "")) = 4 Then
                                final(6) = final(6) + 1
                                GoTo continue6
                            End If
                            
                            For Each win7 In Array("A", "B")    '第7戦でAが勝つ場合とBが勝つ場合
                                win = win1 & win2 & win3 & win4 & win5 & win6 & win7
                                If Len(win) - Len(Replace(win, win7, "")) = 4 Then
                                    final(7) = final(7) + 1
                                    GoTo continue7
                                End If
continue7:
                            Next win7
continue6:
                        Next win6
continue5:
                    Next win5
continue4:
                Next win4
            Next win3
        Next win2
    Next win1
    
    kakuritsu = final(n) * (1 / 2) ^ n
End Function

プログラがエレガントでないせいもあり、この程度であれば、力づくと大差ありませんが、きれいな式を導出しなくても、今なら、コンピュータに計算してもらえば、求めることはできます。

数学的にエレガントに計算したい

もし、試験で解答するなら、この方法になります。この解法は、高校の確率を前提として説明するので、学校の数学から離れて長い方や勉強した記憶のない方は、眺める程度で読み飛ばしていただいても構いません。

Aが4勝2敗で決着する組み合わせは、"AAABBA","AABABA"などがあります。第6戦はAが勝つ場合になります。(第6戦でAが負けて4勝2敗となる場合は、第5戦終了時点で4勝1敗となり、第6戦は行われていないことに注意。)第1戦~第5戦を、Aが3勝2敗で求める組み合わせの数を考えれば良いことがわかります。

Aが4勝2敗で決着する場合の数の考え方

したがって、Aが4勝2敗となる確率は、

$$
_5\mathrm{C}_3\left(\frac{1}{2}\right)^6 =\frac{5!}{3!2!}\left(\frac{1}{2}\right)^6=10\times\frac{1}{64}=\frac{5}{32}
$$

となります。Bも同じ確率なので、第6戦で終わる(4勝2敗で決着する)確率は、$${2\times\frac{5}{32}=\frac{5}{16}}$$となります。

同様に、第7戦にもつれ込む(4勝3敗で決着する)確率は、

$$
2\times_6\mathrm{C}_3\left(\frac{1}{2}\right)^7=2\times\frac{6!}{3!3!}\left(\frac{1}{2}\right)^7=2\times20\times\frac{1}{128}=\frac{5}{16}
$$

となり、4勝2敗で決着する確率と、4勝3敗で決着する確率が同じことが確認できました。

感覚的に理解したい

4勝2敗で決着する状況を、改めて考えてみます。Aチームが4勝2敗で決着する場合、当然ですが、第6戦はAチームが勝ちます。そうすると、これも当然かもしれませんが、第5戦終了時点では、Aチームの3勝2敗となっています。Bチームが4勝2敗で決着する場合も、同様に第5戦終了時点ではBチームが3勝2敗となっており、これ以外のパターンはありません。

次に4勝3敗で決着する状況を考えます。どちらが勝つにせよ、第6戦終了時点では3勝3敗になっています。そうすると、第5戦終了時点では、どちらがリードしているかはともかく、必ず3勝2敗になっています。これ以外のパターンはありません。

逆に、第5戦終了時点で、どちらかが3勝2敗だった場合を考えます。この場合、4勝2敗で決着する場合と、どちらが優勝するかはともかく第7戦にもつれ込む場合しかありません。

以上より、第6戦で決着と第7戦で決着の確率を比較する場合、第5戦終了時点で3勝2敗の場合だけを考えておけば良いことがわかります。

第6戦か第7戦で決着がつく場合の状態遷移図

もし、3勝している方が第6戦で勝てば第6戦で終了、2勝している方が勝てば(どちらが優勝するかはともかく)第7戦にもつれ込みます。両チームの力が互角であれば、どちらの確率も$${\frac{1}{2}}$$です。したがって、第6戦で決着がつく確率と、第7戦で決着がつく確率が等しいことが、面倒な計算抜きで確認できました。

いかがだったでしょうか?私は数学的思考を身につけるという意味で、1番最後の方法で理解することをお勧めします。(受験生の方には、数学的にきちんと計算する方法が必要ですが。)

学校の試験と違い、面倒な計算は、コンピュータ(Excelレベル)を使えばできます。AIに質問すれば、答えだけでなく、途中の計算式まで教えてくれる時代です。

これから重要なのは、「それって感覚的に正しいか、おかしくないか?」をかぎ分ける力です。AIが答えを出しても、自分の考えていることと前提条件が違っているかもしれません。答えを聞いた時に、うのみにするのではなく、感覚的に判断できるようになることが重要です。

今回の例だと、4勝2敗で決着した時、かなり実力差があったと感じてしまいますが、実はそこまでではないことがわかります。ただの感覚ではなく、数学的思考力にもとづいた感覚は、判断を見誤ることを少なくできます。

確率の問題は、視点を少し変えることで、簡単に解けることや、感覚で理解できることがあり、絶好の数学的思考トレーニングになると思います。確率は、身近にあふれているので、いろいろな視点で考えるとおもしろくて役に立ちます。

最後に、各勝敗で決着する場合の確率を載せておきます。

日本シリーズで決着する勝敗の確率


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