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「東京2020オリパラ能楽祭」より『道成寺』など

東京2020オリンピックとパラリンピックを記念した能楽祭が開催されています。オリンピック期間中には5公演が行われ、すでに終了。パラリンピック期間に2公演が行われる予定です(2021年8月18日現在)。日本を代表する(ということは世界を代表する)能楽師(狂言方や囃子方を含む)の皆様がお集まりの、超豪華プログラム! 曲目もメジャータイトルばかりで、外国のお客様がいらしたら、さぞ驚いただろう……と、残念すぎる思いです。

私は8月3日、オリンピック期間中の最終公演を見てきました。狂言は月1回くらい見ているけれど、お能はえいやっと気合を入れて年1、2回というペース。名作『道成寺』も初めてですが、今回の経験でお能の楽しみ方が、ちょっとわかってきたかも?

そんな手応えを勝手に感じた理由の一つ。それは、こんな素晴らしい本を見つけてしまったから。

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「対訳でたのしむ」シリーズ(檜書店)。中を見てみると・・・。

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セリフそのものとその現代語、シーンのイラストまで! めちゃくちゃわかりやすいんです。これでたったの550円。買わなきゃ損。

狂言はお能に比べたら言葉がわかりやすいし、メリハリがあって展開がわかりやすい。それに比べてお能は外国語のオペラとかと同じで、一度わかんなくなっちゃうとそこで脱落、という感じでした。でも、これがあれば直前かけこみ予習もできる。すごく心強い本を見つけてしまいました。

さて、本の力を借りての「道成寺」。狂言方(この日は野村万作先生家)の皆さんがえっちらおっちら鐘を担いで入場し、舞台に座って準備していた人が天井に引っ張り上げるという意外なシーンから始まりました。事前に準備してから開幕じゃないんですね。しかも、鐘を運んでいらしたのが野村萬斎さんと野村太一郎さん。メディアでよくお見かけする2人がアシスタント的な役割をなさる、それがしきたりなんだ、といきなり驚きました。

鐘が天井近くまで引っ張り上げられると、おもむろに物語が始まります。
お坊さんが寺男(=狂言方)に「道成寺というお寺には、昔色々あってずっと鐘がなかったけれど、このたび鐘を鋳させた。その供養をするが事情があって女人禁制にするから気をつけるように」と言い聞かせます。寺男は「畏まりました」というところに白拍子が登場。ご供養の舞を奉納するから入れてくれ、と言われて、わりとあっさり通してしまいます。

春の風景を歌いながらの白拍子の舞、きれいでした。一言一句、聞きもらすとわからない・・・と身構えなくてよかったので、肩の力を抜いて楽しめたと思います。聞かなきゃ、覚えなきゃと勝手に緊張するのは私のクセなのですが、本のおかげで呪縛が解けた感じでした。

舞の終盤、緊張感が高まったところで白拍子がジャンプすると同時に鐘が落ちてくる。噂に聞いていた「道成寺」の見せ場はこれか! 見られて(=寝ていなくて)よかった!

鐘の音に驚いてかけつけた皆さんに、狂言方の二人が「お前言えよ」と押し付けあいながら、「女性を入れちゃいました」と白状し、叱られます。こんな風に、狂言方が活躍する柔かいシーンもちゃんとあるんですね。以前見た「烏帽子折」が珍しいのかと思ったら、意外とそうでもないのかも。

そして、住職がこの寺に鐘がなかった理由、女人禁制の理由について説明し(その間に鐘の中で白拍子が鬼女に変身しているわけですね)、「みんなの祈りの力で鐘を元に戻そう」と祈り始めたところで、鐘が持ち上がって鬼女が登場。祈りの力 VS 鬼の力対決が繰り広げられます。

今回は、ストーリーをちゃんと全部追えただけだったけど、かなり満足。今度はもう少し微妙な味わい、舞の美しさなどを見られるようになりたいと思いました。地謡のみなさんは揃って黒い覆面、つまりマスクをしていたのが印象的だったけれど、そういうのナシで観劇できる日が戻ることを楽しみに。

そして『道成寺』の前には狂言『舟渡聟』が上演されました。つい先日、世田谷パブリックシアターで見たのと同じ、船頭さんは野村万作先生、聟は野村裕基さんの組み合わせ。裕基さん、今回はネイビー系の着物できりっと真面目さが際立つお聟さんのように感じました。万作先生は闊達で、お酒大好きっぷりがストレートに伝わるおおらかな船頭さん。船頭の妻はベテラン、石田幸雄さんが演じられましたが、「あんたのやることはお見通しよ!」という古女房感が出ていて、いい感じ。

同じ演目を繰り返して見て、やっぱりいいなと思えるのが古典の魅力かも。

さて今月は他にも狂言とお能を観に行く予定。また「対訳」買いたいなぁ。

新聞にも紹介されてました!

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