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40歳自営業、痔瘻になる #6 退院日 |屈辱のご褒美

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入院中は朝に回診といって、ドクターが病室を訪れて様子を確認し、何か一言二言告げていくという逆回転寿司のようなイベントがある。

「経過も良いので、あとは自宅療養で大丈夫です。明日退院ですね」

と喜びのお声をいただき、退院の手続き準備に入った。
最後の血液検査や、術後経過の説明とともに、患部の療法である。

ナースコールから定期的に聞こえるのは主に3種類
「朝よ。起きてね」
「食事の時間よ。歩ける患者さんは取りに来てね」
「回診の時間よ。ケツを洗って待ってろ」

この回診が終わった時と、食事後、およそ1日3回、患部のガーゼ交換という治療がある。
なんのことはない、ケツ穴の手術創に軟膏塗ったガーゼを当ててそれをテープで止めるという簡単なお仕事なのだが、これをナースにやってもらっていたのを退院後は自分でやれよという話だ。

この手順

当然、拝み倒してワイフにやってもらうつもりではあるのだが、出張等もあるのである程度自分でもできるようにならないといけない。

処置室に行き、いつもはベッドに横になってケツを開くのだが今日は違う。
「まずははきものを脱いで、持ち物は全部こちらに」
スリッパを脱ぐ。
ナースが手鏡を持ってきた。何かと思っていると
「下を脱いでください」
まぁそりゃそうだ。
「このガーゼにクリームをすっかり塗ってください」
手術創に当てる化膿止め軟膏のことだな。
鏡をおもむろに床に置き、こう言ってカーテン越しに消えた。
「患部を確認しながら、それを当てるようにしてください」

いやちょっとグロ患部見るのキツいんですけどっていうかこの流れ聞いたことあるぞ

クリームをよく塗りましたか?

あんまり見ないようにして、手探りでこの辺かな、と当ててナースを呼ぶ。
「うーん、ちょっと当たってないですね、もう1回試してみてもらえますか」
にべもなく去っていく。

それでもやっぱりうまくいかない。
ナースは痺れを切らしたようだ。

「うーん、難しいですもんね、じゃ一緒にやりましょう」

何を?

「床にしゃがんでください」

ワイは下半身丸出しのまま鏡の上にウンチ座りをした。すぐ横にナースも屈みこむ。
当然ワイの尻穴は双方に丸見えだし、手術創も見えている。
「ここです、ここ」
ガーゼをかぶせたワイの手を患部に誘い、先端をチョンとつける
「アッー!」
「ちょっと痛いですよね、ごめんなさいね、でも痛いところが患部です、ここ」

オプションかよ

完全にプレイである。
ナースがなまじ若くて美人だからなおタチが悪い。
しかしカテーテル後遺症の息子は無言を貫いている。
そういえば地元円山公園で生まれた子象を見るために駐車場が1時間待ち越えとかニュースでやっていたなぁとか思いながら、必死にこの屈辱なのかご褒美なのかわからない瞬間を耐えた。

退院日、回診も何事もなく終え、会計は10万でおつりがちょっとでるくらい。
ワイフとともに帰宅し、お昼ご飯はオムライスであった。
ご丁寧に気遣いまで。

肛門付近を再現ってアホか

そうして、晩御飯は念願叶ったシーフードカレーにありついたのだった。

バーモント甘口

半分以上自宅に戻らなかった長い9月はいつの間にか終わっていた。
苫小牧でひろゆき氏を招致したファンクションから始まり、青年会議所の北海道地区大会、家族旅行、根室弾丸からの入院。
Tシャツとハーフパンツで外を歩いている人はめっきり減り、スーパーには焼き芋と柿が並ぶ。

直近で控えている業務は東京の北海道物産展関連だ。
なおこれと某JC全国大会で東京行きますつったら医者にもナースにもえらく呆れられた。常識的に考えれば間違っているのはどうみてもワイのほうである。

半年内で2回という入院はなかなかに落ち着かず、まだ尻も痛いが、40にもなるとあちこちガタがくる。健康診断の大切さを思い知るとともに、人体ってもんはギリギリまで音を上げず、いつの間にか蝕まれていることを痛感した。

健康はカネで買えない。その代わり、日々のちょっとした生活習慣の見直しでだいたい何とかなる。生活習慣病なんていう所以である。
座りっぱなしの仕事、現場を走り回る仕事、マグロのように動き回っていることに自己満足を得ても、そのうち限度は来る。
よく働き、よく休む。バランスよく順番に。
その中で、やることはやる、やるときはやる、やれるだけやる。出身校の校訓を噛み締めて、より良く生きることを誓おう。

珍しい五角形の柿

そういや見舞いでもらった柿を食おうとしたら、「次郎柿」って狙ってたんかい


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