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40歳自営業、痔瘻になる #3 手術日の夜 |ナスコパニック

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手術が終わり、食事を取って休むところまでが前回までのあらすじである。

痛みの始まり

夜が来る。
お尻には深い鈍い違和感で、それは痛覚ではない。粘性の高い蠢きが尻穴周りを覆っていて、それがガラスよりもゆっくりと動いているようなそんな気持ち悪さ。
仰向けは特に尻に挟まれているガーゼと薬剤の膨らみが気になるから横を向きたい。でもそうすると、カテーテルの管に身体が干渉する。

もしカテーテルの管を自重で潰してしまっていたら、行き場のない尿はどこにいくのか?逆流するのか?

いやそもこのカテーテルはどこまで入っているから尿が出てくるのか?
尿道、膀胱まで?そんな距離を?この20cmを超える言い過ぎたビビり散らしてせいぜい5cmくらいになってる挙句に怖がって被り物の中から絶対に出てこないであろう状態なのは間違いないのに?
どうやってつけて、どうやって入っているのか。もう何も分からないし、わかろうとする努力も放棄してしまおうか。

もしここでエロ動画とか見てあまつさえ元気になってしまったらこれいったいどうなっちゃうんだろうとか、無駄知識ではあるけど男性の身体仕様として射精と放尿を同時に行うことができないのでその場合尿道が閉まって射精管が開くことになるけどカテーテルはどんな立ち位置になるのだろうとか、想像するだけで結局自分が痛くなることしか描けないため元気になんてなるわけもなく、せめて何事もないように、それは絶対無いからできるだけ痛くないように、と祈り続けることにした。

そうして、徐々にやってきた。
気づいた時にはもう遅い。今までの違和感は、疼きを被った痛みであったことであり、それはずっと前からそこにいて、痛みのサインを発していたのだ。腰椎に叩き込まれた麻酔が、そのサインをシャットアウトしていただけ。侵蝕された下半身は助けを求め続けていた。そう、Constant Moderato(控えめではあれど、繰り返し繰り返し)

鳴らない、コール

ナースコールといえば枕元に何かラインが伸びていて、それをなんか引っ張るなり押すなりアクションを加えることでナースステーションへ直通連絡が飛ぶというものであり、その仕組み自体は数十年変化していないはずだ。

始まった痛みの胎動にナースコールを決意した。同部屋の老人からは寝息が聞こえてくる。起こしてしまっては悪いがこちらも生死を賭けた戦いの真っ最中なのだ。だがなるべく穏便に済ませたい。でも痛い。今この一瞬が耐えられないわけではないが、それが延々と続くのはもうわかっている。一時を耐えられないわけではないがそのまま眠れるほど鈍感ではない。痛み止めの追加を、今すぐオーダーだ!アパム!薬、薬持ってこーい!アパーム!!

そうして、ワイは誤って読書灯のスイッチを力強く引っ張った。

蛍光灯が一瞬の戸惑いのち病室と天井を照らす。闇に慣れた目が眩む。肝心のコール音は鳴らない。そして手元には千切れた紐の切れ端。

煌々と点きっぱなしになった明かり、このままでは隣人を起こしてしまう。ケツは痛い。がまずは消さなければ。でもスイッチの紐は千切れた。いやこういうのは根本のワイヤーに紐をひっかけて延長しているだけだからそこを引けばケツ痛い断念した。
仕方ない次はケツ痛いそうだナースコールは引くんじゃなくてコレだボタンか握るケツ痛いやつだ見つけツ痛い

なんでこれと電気の紐間違えたんだろな

ポーン
「ハーイどうしました?」
「痛いですすごい痛い」
「あ、じゃあお薬持っていきますねー」
「シィー」

最後のほうは歯を食いしばってその隙間から息を吐くように「ハイー」といったつもりだったがおそらく定食屋で爪楊枝をいじるオッサンにしかなっていない。

薬が届くまでは口を開けて呼吸したほうが良いのか噛んで呼吸したほうが良いのか試していた。痛みは紛れるのか。FaceBookに一文だけ投稿してみたりもした。背中を丸めたほうが痛くないのか。そのためには筋肉操作が必要で、それに付随した全身運動はケツの痛みに影響するのではないかあぁやっぱりした痛い辛い。

楽しいことを思い浮かべよう。
愛する家族、Jの仲間たち、古き友、受注中の取引先。みんな揃ってワイに温かい言葉をかけてくれた。

「お尻頑張ってね」と。

あァッ!!やっぱりそれでもお尻に帰結するゥッ!!

ナースが来る頃には脂汗を流していた。ケトン臭い汗が病衣から漂っているのがわかる。明日ファブリーズしよう。いや明日は病衣取り換えの日だ。
ナースが頓服薬をくれる。

「30分もすれば効いてきますから」

今すぐ効いてよ!!!!!!!!!!!!!!!!!

もちろん知っている。理解している。30分のタイマーと同時に効果が発動するわけではなく、個人差はあれどおよそこのくらいの時間をかけて徐々に効いてくる、すなわち痛みを感じるサインを再び黙殺するのだ。

必死の訴えを黙殺する脳

こりゃあいつか身体と精神がケンカしてもおかしくない。時々バランスが崩れたりすると心に風邪を引いたりしてしまうんだろう。

ともあれ、ナースは頓服の飲み終わりを確認したら早々に去り、
枕元の読書灯は翌日に事務局に修繕されるまで点き続け、
噛んで息をしながら遂に力尽きた枕元には涎の地図が出来、
朝の5時を迎えることはできた。

これを書いているのはこれらの現象から36時間が経過している頃だが、どう思い返してもここが最大の山場であったことは間違いない。

明けない夜は無く、ちゃんと朝はまた来たのだ。

早朝5時の血液検査と朝回診でカテーテルも抜かれた。
ドッキドキの瞬間ではあったが、目を閉じて深呼吸をしながら全力で意識を天井のシミに集中した。目を閉じているのに天井のシミは見えるものだ。望遠鏡を覗きこむよりもずっとイメージが沸いた。
抜かれる瞬間は、何かずっとおしっこが漏れ続けているような感覚で、事前によく聞かされる痛みとかそういったものは無かった。それがほぼ唯一の救いである。

身体的負担はそれほど無かったものの、精神的な負担が半端じゃないので、今後二度と経験したくもない被医療行為の筆頭格に堂々ランクインした。

次回予告です。

  • 痛いよ!ウォシュレット傷跡直撃

  • ひどいよ!僕だけカレーくれない

  • 高いよ!フルーツバスケット

以上、今回も読んでくれてありがとうございました。
またたぶん明日かそのあたりに。

ついでに悪名高い青年会議所のワイインタビューが上がってるので偏見を持ってる人こそどうぞ。

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