アンネの日記

マンガや映画・小説・アニメといった作品の思い出し感想を載せていく中で取り上げるべきか迷いはしたが、「赤毛のアン」で名前を出したからには載せるべきと判断した次第である。
尤も、「アンネの日記」にはアンネ女史の創作した短編小説が収録されている(発行元にもよるが)。
アンネ女史の聡明さが伺えるので、合わせて軽く説明できればと思う。

「アンネの日記」といえば、戦火に生きる人々、ヒトラーによるユダヤ人虐殺、その手を逃れんとする少女の日記……といったイメージが一般的なのではないか。
少しスケベな人であれば、実はエロい話がある!なんてウンチクを付け加えるかもしれない。
しかし、その実は大半は本当にただの日記で、「あいつ絶対アタシに気があるわ〜」とか「カーチャンがうるせぇわマジで」とか「近所のババアがマジでムカつく」とか、そういった内容が多い。
ただし、この日記がどうして価値があるのかというと、その書き手であるアンネ女史が聡明だったからに他ならない。

まず、アンネの日記には「キティー」という名前がつけられている。
日記を「自分だけが話せる友達」と人格を定義し、秘密の関係だからこそ思春期の悩みや家族の愚痴、それに対する自分の思考をそこに書き連ねているのである。
日記を友達という人格で仮想する時点で賢さが伺えるが、そこに記しているアンネ女史自らの思考がとても素晴らしいと考えている。
自分の悩みや愚痴や思考を書いた後、それをキティーという仮想の人格を関わらせることで第三者としての視点からその思考を整理したり、時には冷静に見つめ反省している。
こういった自己分析や振り返りは誰もがやろうと思ってできることではなく、日記を友人のキティーと捉えているからこそ出来ているのだ。

現代日本において自己分析ぐらい出来らぁ!という人がいないとは言わないが、彼女はこれを13歳という若さで行っていることを思い出してほしい。
加えて、日記の大半はトイレもマトモにない隠し部屋に引きこもり続けている環境で、時折爆撃音に晒される極限の環境だ。
それだけではない。
彼女はこの2年間の隠れ家生活の中で、3ヶ国語を習得し、多くの著名な書物や偉人の伝記を読み、恋をし、興味を持ったことは徹底的に自ら調べて知識にしている。
前述のエロい話というのも、身体の構造を自らの身体の特徴や変化を観察した、言うなれば「レポート」である。
実はエロい話が!と思春期の男子が浮足立つ気持ちは分からなくもないが、同じ年頃の少女がその「レポート」を書いているのだ。
僕には到底茶化すことはできない。
ただただ感服し、その若い生涯を残念に思うばかりだ。

アンネ女史は物語が好きで、自身でも短編を書いている。
一流文学と比べるのは全くのお門違いであることは前置きした上で、風刺の効いた作品や穏やかでユーモラスな作品が多い。
特に「エヴァの夢」「小熊ブラリーの冒険」あたりがとても彼女らしいと思う。
発行元によっては「アンネの日記」に含まれていない(というか含まれていないものが多いのではなかろうか)ので、アンネ女史が書いた童話集みたいな書籍を別に探して読んで欲しい。

アンネ女史亡き現在も彼女の名前のついた学校がある。
もし彼女が人間のくだらない思想に殺されていなかったならば、より多くの人に叡智と勇気を与えていたことだろう。
彼女の残したものが在る各地に、死ぬ前に一度訪れたいとずっと考えている。

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