ショーシャンクの空に

好きな映画は?と問われたらまず最初に「ショーシャンクの空に」を挙げるだろう。
スティーブン=キング原作のヒューマンドラマの傑作で、モーガン=フリーマン氏の演技で最も好きなタイトルだ。

妻殺しの冤罪で刑務所行きとなった元銀行員のアンディーの物語ではあるが、彼の心身の傷や自由を掴み取るドラマよりも、懲役刑の重さを垣間見るのが何より心に重くのしかかる。
噂に聞く派閥や上下関係に性暴力の描写は勿論のことなのだが、長く服役していた図書係の爺さんが仮釈放後に外の世界に馴染めず命を絶ってしまう――というのが最も残酷でやるせない。
僕は中学を卒業して親元を離れて以降テレビの無い生活を送っているのだが、テレビを見ていないだけで旬の芸能人も流行りのドラマも分からず、周りの人と見えている世界の様子が違うことに衝撃を受けることがある。
そんな生活よりも外の情報が乏しく長い期間離れていたのならば、文字通り浦島太郎になってしまうことだろう。
加えて刑務所という独特の人間関係が構築される世界なのだから、適応力の落ちる年齢にこの仮釈放は果たして良かったのか?という倫理的難題が突きつけられている気がする。

逆に、僕自身にプラスの発見や学びのあったシーンもある。
主人公・アンディーは元銀行員としての知識と頭脳を活かし、基本的に対立関係にあるはずの看守と協力体制を取り、あまつさえ看守の悪事を盾に懐柔する。
「芸は身を助ける」と言うが、それは決してエンタメとしての芸ではなく、win-winの関係を結ぶための武器ということに気付いたのは「ショーシャンクの空に」を観たからに他ならない。
そして銀行の中で銀行員の知見はその価値を持たないが、場所が変われば代えの効かない大きな価値になるということもだ。
これは転職を始め、僕自身が周りのコミュニティーに属する際に真っ先に考えるようになった。
勿論僕からの価値だけでなく、相手からの価値も考えている。
そう考えるようになって初めてwin-winの関係とは結構難しいとに気付いた。
ちょっとやそっとの経験や知識や技術ではいくらでも代わりがいるのである。
常日頃から自分を客観的に見つめ、研鑽を欠かさぬようこれからも気を引き締めたい。

アンディーが自由を手にするシーンは、曲がりなりにも「ロック」という音楽をやっている者として少なからずシンパシーと快感を覚える。
そこに至るまでの厳しい積み重ねこそがロックの精神だと僕は思っていて、言いたいことやりたいことをただ喚いて騒ぐのは決してロックではない。

モーガン=フリーマン演じるレッドが相棒とも呼べる関係だったアンディーに取り残されたシーン、そこから行き場のない気持ちと浮いたままの心、そしてアンディーを追いかけて再開を果たすまでのシーンがとても柔らかくて、優しくて、モーガン=フリーマン氏の魅力やキャラクターの良さがとてもマッチしている。
レッド役ほどモーガン=フリーマン氏が選ばれて良かったと思うキャスティングは簡単には思い浮かばない。

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