タイタニック

言わずと知れたロマンスの大傑作「タイタニック」だが、映画ファンとしてお恥ずかしながら昨日ようやく履修した。
絶対に面白い、見て損はしない、そう分かってはいるものの――やはり長いので少し心の準備が要る。
これがさほど気になるワケでもないタイトルならば分割して視聴したりするようになったのだが(これも慣れるまでは罪悪感があったが)、やはり名作中の名作と言うからにはどっしり構えて履修したい。
更にはその長さ故に再上映や地上波放送もあまり行われていなかったという背景もあり、「アマプラで見放題に入った」「履修作品をnote記事にするようになってインプットのモチベが高い」「休みだが外用も無ければ作業も気分が乗らない」と幾つかの後押しがあり、ついに視聴したワケだ。

題にもなっているタイタニック号とその沈没事故は史実で、この映画以前にも何度も取り上げられている。
その中で「タイタニック」といえばこの作品と言われるまでになったのは、まずはその撮影のスケールだろう。
実物大のセットに多くのエキストラはもちろんのこと、沈没した実物のタイタニック号の調査までして資料を作り込んだというのだから、一周回って恐ろしい。
1997年公開であるから、映画の撮影技術の進歩こそ大きく進化している頃とはいえ、平成は勿論、令和の映画ですらこんな大掛かりな撮影はそうはない。
むしろVFXに頼れない分、「本物」の迫力が感じられる。

とはいえ、ロマンス映画であるからにして、前半部分はそのダイナミックさは薄く、端役や小物のきめ細やかさにしかその凄さは映らない。
これはロマンスあるあるなのだが、そんなポンと恋に落ちて深く愛を語る間柄になれるのかね?というお決まりがつづくのだけど、「ローマの休日」同様に身分の違いが新鮮に写って魅力になるのかもしれないし、客船という閉じられた空間にできた居場所には特別さがあるのかもしれないし、何より僕に覚えが無いだけで恋に「落ちる」というぐらいなのだから、唐突かつ不可抗力的にストンと行くのかもしれない。

氷山と接触し、船内に水が入り込むシーンから緊張が走る。
「ふしぎの海のナディア」では苦渋の決断で隔壁を落とすシーンがあり、そこにドラマも挟まるのだが、「タイタニック」には一切そんなものはなく、容赦なく切るところで切られており、誰もそこに意見しないのが印象的だった。
この規模の乗員になると全体利益の価値が格段に上がっているのだろうという発見もあるが、切る側・切られる側の双方が元よりそういう覚悟を持って船に乗っているとも思えるし、兎にも角にもその非情さが僕の目にはリアルに写った。

浸水する船内をネズミと走るシーンにはなんというか御国柄を感じたが、ここからの弦楽団のカッコ良さには全僕が痺れた。
人々の不安と恐怖を少しでもという気概は勿論のこと、その演奏をそのままBGMとして使う演出は素晴らしい。
美しい音色と裏腹に船と人の死が描写されるこのシーンは圧巻である。
アニメにはなるが、「エヴァンゲリオン新劇場版」もそうだし、「HELLSING」にもそんなシーンがあったかと思うが、美しい音楽と惨劇を対比させる演出がそもそも僕は好きで、おぞましいBGMではないことによる演出の不協和音がより恐怖を駆り立てる。
これはスイカに塩をふる原理みたいなものなのだろうか。
スイカに塩をかけたことはないのだけれど。

クライマックスも素晴らしい。
現代に還りローザの語りに静まり返る一同の迫真の演技は、こちらまでその場に居合わせるかのように引き込まれ、目頭が熱くなる。
そしてその思い出を今この時まで一人で抱えてきた「女性の強さ」に強い尊敬の念を覚えるのだ。
胸の思いを晒したと共に、当時のように、されど晴れやかに、船体から身を乗り出し、これまたずっと隠し続けていたのであろうブルーダイヤモンドを投げ捨てる。
なんと純粋で華麗なことか……有名な船首で後ろから抱擁するシーンなんかより、僕にはずっと印象深い。

夢の中でタイタニック号に想いを馳せつつ、叶わなかった祝福の中で手を取る2人、そしてスタッフロールに収束する。
もう何も言うことはあるまい。
最高の映画作品の1つであることをここで宣言したようなエンディングだ。

主題歌「My Heart Will Go On」はもちろん聴いたことがあったが、このエンディングから入る同曲はあまりの高潔さがあり、思わず「神がかっている」と柄にもない評価をTwitterでしてしまった。
曲は元より素晴らしい名曲なのだが、作品を理解し、この曲を理解したこの最後に聴くと、もはや言葉では言い表せなくなってしまい、それを表すにはこちらも音楽が始まってしまうしかなくなるのだ。

ロマンス映画はありふれ過ぎており、テーマも大凡普遍的であるから、あまり名前が残らない印象がある。
この手の名前だけはみんな知ってる映画、というくくりで僕の中では「ローマの休日」と「タイタニック」が2大巨塔かなという思うが、どちらも身分違いと儚いひと時のオペラであり、しかしハーレクインとは逆の構図というのは面白いなと思っている。

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