ここは今から倫理です。

倫理って何だろうか。
それを考え続けることが倫理学なのだろうなと思いつつも、だからこそよく分からない学問だと僕は認識していて、少し忌避感がある。
倫理や哲学は正直こじつけのような理論や思想が多いし、それらの有り難い言葉が実生活で役に立ったことなど全く無い。
ところが、この作品で細かく分けられたエピソードを読むと、なるほどその思想や理論を用いるシーンが分かりやすい。
倫理の話をするために作られた物語なのだから、当てはめられるのは当然なのだが。

作品は倫理を担当している高柳先生を中心に、半ばオムニバス形式で受講生徒の物語が綴られる。
中高生はやはり多感な時期であり、悩みも多くとても不安定な年頃である。
そんな一人一人の悩みであったり、中には本人は悩みと思っていないことでも、倫理がそれぞれの成長や思考の助けとなっていく。
それを見て僕も「ああ、あの頃の僕にその言葉があればまた違った道が開けるかもしれない」と思ったりして、今更ながら倫理の講義をもうちょい真面目に聞いとけば良かったなと悔いるのだが、それもまた倫理なのだろう。
そういえば僕に倫理を教えていた先生はちょっと剽軽な人だったが、当時の文字通り黒歴史を歩んでいた僕にも良くしてくれた。
あの先生は元気だろうか。

生きている間に悩むことは多く、大人になっても意外と変わらなかったし、悩みの種類は変わってきたが内容はより複雑で出口がより見えないものになった。
逆に若い頃の悩みが余りにちっぽけで、何でこんな簡単なコトに悩んでるんだと思うものもある。
でもそうなるまでに色々な経験をしてきたからこそ分かるのであって。
僕の中で「倫理」は「ヒント」だ。
人生の中で答えが分からないものにどうアプローチしていくかの助けでしかないが、その壁を通り過ぎたら何の価値もない。
僕の中で「哲学」はその人生の中で答えた自分の「答え」だ。
正解かどうかは知る由もないが、少なくともそれが自分の築き上げてきた知識と経験によるものだ。
それを以て再度この作品を通して倫理について考えた時、この作品に描かれるキャラクターたちがどのような選択をしてどのように人生を歩んでいくのかを想像しては、彼らにとっての「答え」がどのように見つかるのか、遠い記憶を遡るような気持ちで想いを馳せるのである。

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