無職転生~異世界行ったら本気だす~

これは、スゴい作品である。
今や異世界転生モノなど掃いて捨てるほど存在するワケだが、このブームを引き起こした作品と聞いている。
それだけでも日本のサブカルチャー界では重要なタイトルで文句ナシだが、僕が評価するのはそんな星の数ほどある異世界転生モノの頂点に輝いているからである。

スナックコンテンツとしての男性向けの異世界転生モノは、大方現実世界で不慮の死を遂げ、場合によっては神様みたいな奴と関わったりした後、ファンタジーの世界へ転生する。
転生といいつつも産まれ直すワケでもなく、「魔界戦記ディスガイア」の転生みたいにヒョッコリ現れるのである。
加えて、大体の場合は超常的なチカラを持ち(スナックたちは異世界といいつつ何故かゲームの設定を出したがるので、大体は「スキル」と言われる)、ハーレムを築きながら楽しく暮らしていく。

僕がこの手の雑な異世界転生モノ(以下、「スナック転生モノ」)を毛嫌いする理由はただの一点で、「作品のリアリティーがない」ことだ。
オイオイ創作物にリアリティーなんて言うんじゃないよフィクションとして楽しめよ、と言われるだろうが、そういう意味でのリアリティーではない。

これまでにも何度も言っている通り、フィクションに作られた世界にはその世界の「リアル」が存在するし、その世界に流れる時空の中からドラマの起きた部分を切り取ったモノが「物語」だと僕は考えている。
つまり、主人公が異世界転生する前の世界には主人公が生まれる前にも歴史が流れ、その世界からいなくなった後にも世界はあるし、主人公が転生してやってきた世界には主人公が来る前の歴史と来たあとの歴史が続いている。
ファンタジーにはファンタジーの成り立ちと歴史があり、法則や科学が存在し、そしてそこに生きる人々(人以外も)にはその成り立ちと歴史と法則や科学に則った常識と生活がある。
これらをゴッソリと設定していないから、取ってつけたようなキャラクターと物語の内容になるのだ。
そしてそんな神様(物語上のキャラクターではなく作品の創造主)が雑に作った世界が良い世界であるハズもなく、創作の歴史に名前が残るタイトルにはなり得ないのである。
ちょっと過激な意見だが、実際に旬を過ぎても名前が残っているタイトルはどれも「リアル」だ。

話を戻すが、「無職転生~異世界行ったら本気だす~」(以下、「無職転生」)はそのあたりの作り込みがとても細かい。
リアリティーがあるのだ。
文字通りの転生として両親が居て、特別な才能こそあれど教育と鍛錬があり、キャラクターにも物語の前後を感じさせる。
一度奴隷市場のシーンで人権云々で炎上したと思うが、現実で奴隷制度をモデルにしていなかったとしても、あの世界には奴隷制度があるだけの理由にリアリティーがある。
様々な種族がいて、魔力や剣術が教育として生きている以上は暴力は一つのステータスであるし、無詠唱を使える方が先手が取れて有利だから無詠唱の方が価値があるというように、競争社会が存在する。
王族がいるから貧富の差・身分の差は当然に出るし、ともなれば上流階級は下の労働力を雇うビジネスモデルを取り入れるだろうし、それを売ることをビジネスにする者もすべからく現れる。

種族の特徴だったり、魔術における理論があったり、実はノリで適当に作った設定も中にはあるだろうが、その細かい積み重ねがアチラコチラで垣間見えるからこそ、リアリティーを感じるのだと思う。

こうしたリアリティーが細部に宿った作品を見てから自分の創作した世界を振り返ってみると、まだまだリアリティーの足りない部分に気が付き、こうして偉そうに講釈を垂れているのが恥ずかしくなる。
はい、恥ずかしいので終わりです。

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