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西武グループ 再編〜西武ホールディングス上場

 西武の土地開発・鉄道のグループは元々、コクドが中心的な役割を担い、西武鉄道とプリンスホテルはコクドの土地開発の一部という表現が正しかったと私は思っています。しかし、コクドは非上場企業だったため、財務状況を開示する義務がありませんでした。コクドの財務状況は不透明なものになり、問題がどんどん明るみになっていきました。特に株主からの信頼を大きく失ったのが、コクド管理株の発生(仮名取引)についてです。ここまでの流れは以前の記事で紹介したことですので、今回は西武がどのように再編の道を歩んでいったのかについて、まとめていきます。

◯西武の組織再編の大まかな流れ

①再編前はコクドが土地開発・鉄道グループのトップで、西武鉄道とプリンスホテルを実質的に支配。事件の影響もあり、西武鉄道は2004年12月に上場廃止。2005年3月に堤義明氏は証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載とインサイダー取引)によって逮捕。

②株式会社NWコーポレーションを設立。西武の創業家である堤家が持っていたコクドの株をNWコーポレーションに移す(NWコーポレーションは堤家が持っていたコクドの株を移すための持株会社として設立された)。

③第三者割当増資を実施。今回のケースでは新株を第三者に割り当てて増資を行い、堤家の影響力を低下させることがいちばん目的でした。米国の投資ファンドであるサーベラス・キャピタル・マネジメントが出資したことで堤家の影響力が低下、西武はサーベラスの出資によって資金調達もできたため、これで再建の目処が立ったことになります。

④プリンスホテルがコクドを吸収合併、これによりコクドは消滅。

⑤西武ホールディングスを設立、西武鉄道とプリンスホテルは西武ホールディングスの完全子会社となり、これによりグループ再編が完了する。

◯西武とサーベラスの関係はどうなったのか

 西武再編の際、筆頭株主になり、出資をすることで西武を助けてくれたのがサーベラスでした。しかし、サーベラス側もボランティアで西武に出資をしたわけではなく、西武の価値がいちばん下がったタイミングで出資をして、西武の価値が最も上がったタイミングで株を売却することで、サーベラス側も利益を得る狙いがありました。これが投資ファンドがビジネスとして成立する理由ですし、出資を受ける側も倒産という最悪の状況を免れることができます。しかし、2012年頃から西武ホールディングスとサーベラスの関係悪化についてメディアで取り上げられることが増えました。

 当時、西武ホールディングスの筆頭株主だったサーベラスは西武ホールディングスに経営の改善策を提示したのですが、これが西武ホールディングス側にとっては受け入れがたいものだったため、双方の関係が悪化しました。サーベラス側から示されたとされる経営改善策は以下の通りです。

・西武鉄道の路線である国分寺線、西武秩父線、多摩川線、多摩湖線、山口線の廃線

・埼玉西武ライオンズの売却

 サーベラスが廃線を求めた5路線の概要は以下の通りです。

・国分寺線
 国分寺駅から東村山駅の5駅、7.8キロを結ぶ。

・西武秩父線
 吾野駅から西武秩父駅の6駅、19キロを結ぶが、池袋駅から飯能線を結ぶ池袋線の事実上の延伸路線。

・多摩川線
 武蔵境駅から是政駅の6駅、8キロを結ぶ。

・多摩湖線
 国分寺駅から多摩湖駅の7駅、9.2キロを結ぶ。

・山口線
 多摩湖駅から西武球場前駅の3駅、2.8キロを結ぶ。

 1つひとつの路線を見れば、確かに距離は長くないものが多いですし、利用者が少ないものもあると思います。しかし、西武秩父駅からは特急を使えば池袋まで乗り換えなしで行けるなど、その路線単体だけを見れば利益が少ないとしても、その路線があることで他の西武鉄道の路線や駅の価値が上がるなど、路線の利益だけでは判断できない部分もあります。そもそも鉄道路線は生活インフラとして定着しているため、簡単に廃線にすることはできません。

 ライオンズの売却にしても、2011年からはライオンズ単体で単年度の黒字を出せるようになっており、西武ホールディングスにとって、受け入れられる提示ではありませんでした。

 しかし、当時は西武ホールディングスが再上場に向けて動いていた時期であり、サーベラスとしても西武ホールディングスの価値を最大限上げてから株を売却して利益を上げたいという事情もありました。

 サーベラスは敵対的TOBによって、西武ホールディングスの買収に乗り出しますが、これは失敗に終わり、西武ホールディングス側が支持されるという状態になりました。しかし、その後、西武ホールディングスとサーベラスのトップ同士で話し合いの場が持たれたようで、互いの関係は修復されていきました。最終的には西武鉄道5路線の廃線、ライオンズの売却はされず、2014年に西武ホールディングスは東証一部上場を果たすことができました。その後、サーベラスは徐々に西武ホールディングスの株を売却していき、2017年に西武ホールディングスの全ての株を売却。サーベラスは西武に対して約1000億円の初期投資を実施しましたが、最終的にこれを上回る売却益(1063億円〜1100億円程度)を上げることができたとされており、結果的に西武ホールディングス、サーベラスの両方にとって良い結果で関係を終わらせることができました。

◯最後に

 現在の西武ホールディングスについては他の記事で取り上げたため、西武の歴史に関する記事は一旦これで終わりにします。読んでくださった皆さん、ありがとうございました。


◯出典
・西武ホールディングス 2023年11月30日
https://www.seibuholdings.co.jp/

・西武ホールディングス 有価証券報告書・四半期報告書 2023年11月30日
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9024/ir_material_for_fiscal_ym8/137708/00.pdf

・西武ホールディングス-Wikipedia 2023年11月30日
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E6%AD%A6%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B9

・東洋経済オンライン 西武秩父線は本当に収益力がないのか 配信 2013年4月4日
https://toyokeizai.net/articles/-/13557

・西武鉄道Webサイト 2023年11月30日
https://www.seiburailway.jp/

・西武鉄道-Wikipedia 2023年11月30日
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E6%AD%A6%E9%89%84%E9%81%93

・東洋経済オンライン 米サーベラス、西武HD株売却へ 配信 2015年5月21日
https://toyokeizai.net/articles/-/70572


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