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レアル・マドリードがチャンピオンズリーグに強い理由を一から勉強

 日本でもサッカーは人気スポーツの1つとして数えられていますが、ヨーロッパでは日本以上にサッカーの文化が根付き、100年以上の歴史があるクラブも数多く存在します。それだけの歴史になると、多くのクラブがどこかで低迷期に直面します。現在はイングランドの強豪に君臨しているマンチェスター・シティも長い歴史の中では低迷期のほうが遥かに長く、ファーガソン監督の下で多くのタイトルを獲得したマンチェスター・ユナイテッドは2012-13シーズン以来、プレミアリーグの優勝から遠ざかっています。そんな中、ヨーロッパのクラブの中で長きに渡り、最も強さを維持しているクラブはレアル・マドリードだと私は思います

 レアルの強さはスペイン国内以上にヨーロッパの舞台で発揮されます。ヨーロッパNo.1クラブを決めるUEFAチャンピオンズリーグの優勝回数は2021-22シーズンまでに14回(全身のUEFAチャンピオンズカップを含みます)を誇ります。2位のACミランの優勝回数が7回のため、レアル・マドリードのヨーロッパでの強さは際立っています。現在イングランドプレミアリーグで無類の強さを見せているマンチェスター・シティのチャンピオンズリーグ制覇がまだ1度もないことを考えれば、レアルのヨーロッパでの強さは群を抜いています。今回はなぜレアルがチャンピオンズリーグに強いのかを一から勉強して考えてみました。

1.圧倒的強さを見せたチャンピオンズカップ初期

 まずはチャンピオンズリーグの歴史から見ていきます。チャンピオンズリーグの前身となる大会、チャンピオンズカップの第1回大会は1955年-56年シーズンに開催されました。レアル・マドリードは第1回大会から5連覇を達成しており、この時からヨーロッパの舞台で強さを発揮していました。しかし、当時のチャンピオンズカップは現在のチャンピオンズリーグとはフォーマットが大きく異なりました。

 現在では多くのクラブが参加しているチャンピオンズリーグですが、チャンピオンズカップ時代は1つの国から出場できるのが前シーズンの国内リーグを制覇した1クラブのみで、現在よりも出場するのが非常に難しい大会でした。逆に当時は出場クラブが少なかったこと、その中でヨーロッパ王者になれるポテンシャルを持ったクラブは限られていたため、レアルのような強豪クラブは優勝できる可能性が高かったのだと思います。

 さらに、これはおそらくですが、前シーズンにチャンピオンズカップを制したクラブは翌シーズンのチャンピオンズカップ出場の権利を与えられていたようです。そのため、レアルはチャンピオンズカップに出場した回数自体が多かったため、それも大会5連覇に繋がった要因だと思います。もちろん、5連覇したことが凄いのは間違いないのですが。

2.チャンピオンズリーグ移行後に8度の優勝

 レアルは1965-66年シーズンの優勝を最後にチャンピオンズカップの優勝から遠ざかりますが、大会フォーマットが変更されて、参加クラブが増えた1992年-93年以降のチャンピオンズリーグで2021-22シーズンまでに8度の優勝を達成しています。この8大会からレアルのヨーロッパでの強さの秘訣を考えていきます。

◯1997-98・1999-00・2001-02シーズン

 注目したいのがこの3シーズン全てでレアルは国内リーグ優勝を達成できていないことです。このことから、当時のレアルはヨーロッパの中で圧倒的な強さを誇っていたわけでないということが分かります。

 レアルは1992-93シーズン以降、チャンピオンズリーグ出場を果たしたシーズンは必ずグループリーグを突破しています。逆に2004-05シーズンからは6シーズン連続でベスト16で大会を終えているため、レアルにとっては決勝トーナメントが越えるべき壁であり、そこを乗り越えて決勝まで辿り着くことができれば、大会を制覇することができています。

 チャンピオンズリーグの決勝トーナメントはホーム&アウェイ方式で行われ(決勝は一発勝負)、2試合の合計スコアで勝ち上がりを決定します。1997-98・1999-00・2001-02のチャンピオンズリーグでのレアルの準々決勝と準決勝のホームとアウェイの勝敗はホームで4勝2分、アウェイで2勝2分2敗となっています(当時はラウンド16がありませんでした)。ホームの試合に強く、アウェイでは負けない戦い、負けるとしても2試合の合計スコアで勝てる得失点差で試合を終えていることが分かります

◯2013-14・2021-22シーズン

 時期は異なりますが、この2シーズンはカルロ・アンチェロッティがレアルの監督を務めていました。レアルに限ったことではないのですが、ヨーロッパの強豪クラブは監督人事に困ったらアンチェロッティに頼るケースが多いようで、レアルもこの2シーズンの前年度はどちらも無冠でシーズンを終えていました。

 アンチェロッティの下でチャンピオンズリーグを制覇した2シーズンのレアルは例年通り、グループリーグを1位で突破。しかし、レアルは2001-02シーズンを最後にチャンピオンズリーグ制覇から遠ざかっており、2004-05シーズンからは6シーズン連続ベスト16での敗退を喫していたため、レアルがチャンピオンズリーグに強いのはすっかり過去の出来事になっていました。

 レアルにとって幸運だったのはアンチェロッティがACミランで監督を務めていた時に2度のチャンピオンズリーグ制覇、1度の準優勝を経験していたことです。準優勝に終わったのはリバプールに3点差を追いつかれ、PK戦の末に敗れた2004-05シーズンです。しかし、その2シーズン後の2006-07シーズンでは同じリバプールと決勝で対戦して、リベンジを果たしました。アンチェロッティはミランとレアルで計4度のチャンピオンズリーグ制覇を達成しているため、チャンピオンズリーグに強い監督だといえます。

 アンチェロッティの下でチャンピオンズリーグを制した2シーズンも決勝トーナメントに注目していきます。この2シーズンはグループリーグを突破してから決勝に進出するまで、ラウンド16・準々決勝・準決勝をホーム&アウェイ方式で戦っているため、グループリーグを突破してから決勝に進出するまでに1シーズンで合計6試合を戦っています。2013-14は決勝トーナメントを5勝1敗、6試合の合計スコアは17対4のスコアでドイツの3クラブを圧倒して、決勝へ駒を進めました。準々決勝のドルトムント戦のみ2試合の合計スコアが3対2と接戦になりましたが、ホームの初戦で3対0で勝っていたため、特に問題にはならなかったと思います。

 2021-22シーズンのレアルの前評判は高くなく、さすがに今回の優勝はないだろうという空気感が流れていました。この大会もレアルはグループリーグを例年通り1位通過しましたが、決勝に至るまでの道のりが最も過酷なシーズンだったと思います。ラウンド16・準々決勝・準決勝の全てで1度は相手にリードを奪われる展開となり、これまでチャンピオンズリーグを制覇した時とは状況が違いました。しかし、この時にはジダンが監督を務めている間に成し遂げたチャンピオンズリーグ3連覇を経験した後だったため、どんな逆境でも自分たちは負けないという強い思いがクラブ全体にあったのだと思います。

◯2015-16・2016-17・2017-18シーズン

 大会が現行のフォーマットになって以降、チャンピオンズリーグで3連覇を果たしたのは、2023年現在でこの時のレアルのみです。レアルはこの3連覇をジダン監督の下で達成したのですが、ジダンがレアルの監督に就任したのは、2015-16シーズンの途中からでした。このシーズンのレアルは監督が途中で交代になるレベルの苦戦を強いられていました。その状況からレアルをチャンピオンズリーグ3連覇へ導いたため、就任当時は指導者としての経験不足を懸念されたジダンの監督としての評価は一気に上がりました。

 この3シーズンの中で2016-17・2017-18シーズンはグループリーグで1位を逃したものの、余裕を持って決勝トーナメントへ進出しました。この3シーズンも決勝へ進出するまでの決勝トーナメントの勝敗に注目していきます。この3シーズンの決勝トーナメントはホームが合計で6勝1分2敗、アウェイも合計で6勝1分2敗、ホームで勝てない試合が他の優勝したシーズンよりも増えていますが、逆にアウェイで強さを発揮しています。ジダンが率いたこの3シーズンのレアルはとにかく試合巧者だったと思います。

 例えば、2016-17シーズンの準決勝のセカンドレグ、アトレティコ・マドリードとアウェイで対戦して、1対2で敗戦をしていますが、レアルはホームでファーストレグを3対0で勝利、セカンドレグの開始20分で2点を先制されて、アトレティコに流れが来ていましたが、前半の内に1点を奪い、このまま試合を終えて、決勝進出を決めました。

 一方で2015-16シーズンの準々決勝のファーストレグ、ヴォルフスブルクとアウェイで対戦して0対2で敗れますが、ホームでのセカンドレグではリスクを承知で攻めて、3対0で勝利、2試合の合計スコアで逆転をして、準決勝へ進出を決めています。この時期のレアルはセカンドレグで引き分けや敗戦でも次のラウンドへ進める場合は上手く試合をまとめ、逆転が必要な試合ではリスクを背負って点を取りにいく試合運びが上手だったのだと思います。

 一方でレアルが6シーズン連続でチャンピオンズリーグベスト16で終わった時期は選手の顔ぶれは豪華ですが、試合をコントロールするよりも選手各自が自分のパフォーマンスを出すことに専念しており、選手の調子が良くなかったり、相手の戦術がハマった時はあっさり負けることも多かった印象があります。選手が豪華だったのは2000年代のレアルなのでしょうが、試合運びが上手かったのはチャンピオンズリーグを3連覇した時のレアルだと思います。

3.レアルがチャンピオンズリーグ決勝に強い理由

ここまでレアルがチャンピオンズリーグを制した時の決勝トーナメントに注目しましたが、レアルが決勝に強い理由を最後に考えていきます。

 チャンピオンズリーグの決勝トーナメントはホーム&アウェイ方式で2試合を戦い、合計スコアで勝ち上がるクラブを決めるのですが、決勝は1回勝負で開催地は事前に決められており、中立地での試合になることが多いです。チャンピオンズリーグでレアルが決勝に進出した際の対戦相手と開催地は以下の通りです。

・1997-98 VSユヴェントス 開催地 オランダ
・1999-00 VSバレンシア 開催地 フランス
・2001-02 VSバイヤル・レバークーゼン 開催地 スコットランド
・2013-14 VSアトレティコ・マドリード 開催地 ポルトガル
・2015-16 VSアトレティコ・マドリード 開催地 イタリア
・2016-17 VSユヴェントス 開催地 ウェールズ
・2017-18 VSリヴァプール 開催地 ウクライナ
・2021-22 VSリヴァプール 開催地 フランス

 ヨーロッパサッカーは国内のカップ戦では中立地で決勝戦を戦うことはありますが、それは多くの国で共通していることのため、特別なことではありません。しかし、クラブチームが自国以外の中立地で優勝を掛けて戦うというのは、ほとんど機会がありません。

 レアルがチャンピオンズリーグの決勝戦に強いのは、クラブとしてチャンピオンズリーグの決勝を戦うメソッドが浸透しているのだと思います。それは単に試合の90分だけでなく、決勝に至るまでの選手のターンオーバー、開催地までの移動、宿泊するホテルや食事の調整や準備など、しなければいけないことはたくさんあります。それを何度もクラブとして経験して、その経験が脈々と受け継がれているのがレアルの最大の強みなのだと思います。

 長々と説明をしましたが、最後にレアルがチャンピオンズリーグで強い理由を3つにまとめます。

①ホームゲームでの強さ

②リードをしている際の試合運びやビハインドの際にリスクを背負って攻撃に出る戦い方の上手さ

③決勝を戦うメソッドがクラブに浸透している

 日本時間の2023年5月17日(水)の28時00分、レアル・マドリードはマンチェスター・シティとチャンピオンズリーグ準決勝セカンドレグをアウェイで戦います。ファーストレグは引き分けているため、セカンドレグの勝者が決勝へ進出します。2022-23シーズンのレアルのヨーロッパでの戦いがどのような結末を迎えるのか、とても楽しみです。


◯出典
・Champions League Official 2023年5月15日
https://www.uefa.com/uefachampionsleague/

・Wikipedia UEFAチャンピオンズリーグ 2023年5月15日
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/UEFA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B0

・Wikipedia レアル・マドリード 2023年5月15日
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89

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