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『アネット』にみる、滾り

鬼才レオス・カラックス作品をこれほどすんなり好きとおもえたことに驚く。

もちろん主演のアダム・ドライヴァーとマリオン・コティヤールの魅力が大きく、初期のあまりにフランス的なところの最早ない、ロック・オペラ・ミュージカルは適度にファンキーにダークでたのしい。

挑発的なスタンダップ・コメディアン、ヘンリー(ドライヴァー)は、国際的に有名なオペラ歌手アン(コティヤール)と情熱的な恋に落ち、世間の大いなる注目を集める。やがて2人の間にミステリアスな娘アネットが誕生し、アンとヘンリーの結婚生活も少しずつ狂い始めるのだが―

日本のそれとはまったく違う、スタンダップ・コメディ・シーンの長回しが圧巻。俳優アダム・ドライヴァーの才気溢れる。

歌声はお世辞にも上手いとはいえないけれど、低音ヴォイスから繰り出される心地よいバリトンは『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』ですでに披露されていたことを思い出した。
「Please Mr. Kennedy」あれ、すごくよかった。

大人になれないヘンリーのせいで、アンも生まれた娘アネットも幸福になれない。そのアネットを至極愛らしいパペットにすることで、血の通った人間として愛せない歪さをストレートに演出。
ミュージカルの非現実的な舞台装置と、ダークで幻想的世界に魅了されっぱなし。その手作り感溢れるキッチュさのすべてに惹かれた。

ヘンリーがなにもかもを失った後、初めて生身の人間になったアネットが父親を断罪する、ストレートな演出さえもぜんぶ私好み。

かつて驚嘆した『汚れた血』や『ポンヌフの恋人』も今なら好きになれるだろうか、たしかめてみたくなった。

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