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雑多なSF設定

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SF設定の小説を集めます ・ケモナーワールド ・ジェリービーンズ ・猫探偵
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記事一覧

SS 【#永久欠番のあなたへ】#青ブラ文学部(550文字くらい)

 書類仕事がたまり疲れていた時にピコンとPCが鳴る。 「ん? メールか?」 【永久欠番のあなたへ】と書かれたメールが来た。イタズラじゃないようだ。メールに添付されたファイルを解凍するとドキュメントが表示される。 「業務連絡です、あなたは永久欠番になりました、ただちに社内から退社してください」 (……退職の強要か? 意味がわからん)  メールを印刷して上司に見せた。 「ああ、永久欠番制度が始まったんだよ」 「なんすかそれ?」 「国民の一定数が、永久欠番扱いになり国外

SS 新しい体【トラネキサム酸笑顔】 #毎週ショートショートnoteの応募用 (410字くらい)

 一枚のパンフレットを見る。 「トラネキサム酸笑顔で一杯」  声を出してキャッチコピーを読む。ふふふと笑ってしまった。当時の若い私は、肌もすべすべで真っ白に見える。 「また見てるのか?」 「だって、お別れだから……」 「まだ白いよ」  確かに同年齢の方よりも白いかもしれないが、もう歳だ。手の皺を指でなぞる。 「そろそろだ」 「判ってますって」  夫はせかすが気乗りしない。私は体を捨てるから……ベッドに寝かされて、目をつむる。自分で自分の手を握る。 「はじめます」

SS 評価

「あなたたちは選ばれました、それぞれを評価してください」  十数人の男女は初対面だ。椅子がサークルのように丸く並べてあるので、精神的な治療のグループディスカッションにも見える。 「いきなり呼び出されて評価と言われても……」 「そうよ、何を評価すればいいの」  選考をしている人物は穏やかに答えた。 「あなたたちは、小説に応募をしました」 「ええそうよ、呼び出されたので受賞かと……」 「ですから、小説を応募した人が評価をします」  みなが一瞬だけ絶句すると、応募者がそれ

私を見て【#花吹雪】 #シロクマ文芸部

 花吹雪が地面に落ちるまで舞い続ける。美しい桃色の花びらは晴天の青い空を、赤く染め上げた。 「帰ってくるの……」 「立派な侍大将になる」  若い雑兵は、ろくに鎧もなく刀もサビだらけだ。それでも功名心が高いのか明るい笑顔で、若い娘はさみしげに彼を見送る。桜が散る頃の話。  女は待ち続けたが、ついに帰らずに桜の樹の下で眠る。気がつくと自分は桜に生まれ変わる。 (私も生まれ変わるなら、いつかきっと彼も……)  何年も何十年も何百年も待ち続ける。春になれば、豊かな桜の花びら

SS カエルとストロー【#代用うんこ】 #爪毛の挑戦状

「代用うんこを入れます」 「代用ですか」 「代用じゃないとダメです」  近未来、腸内細菌で人体の健康を維持する研究が進んだ。そして発明されたのが「腸内細菌サプリメント」だ。 「このサプリだと、働く意欲が高まります」 「これは美肌ですね」 「老化を防止して皺を抑制します」  ただし、問題がある。口から入れると強力な胃酸で大半が溶けてしまう。そこで発明されたのが「お尻からビルドイン!」だ。 「それで代用うんこですか」 「他人のうんこは入れたくないでしょ」 「そりゃそうです

SS 童話:虚無 【#どうでもええわっ!】Mr.ランジェリー様お題枠

 ある所に、どうでもええわっ!が口癖の男が居ました。彼にとっては世界は虚無でしかありません。 「なんでわざわざそんなん難しいこと考えるねん? それはそれこれはこれでええんちゃうんか? むずかしーく考えれば判るんか? なんも判らんやろ。どうでもええわ!」  だいたいこんな感じで暮らしていましたが、税金を滞納したことで税務署から呼び出されても 「どうでもええわっ!」  家が抵当になり追い出されても 「どうでもええわっ!」  土管で野宿していたら、中学生にカツアゲされて

SS 愛したい女【据え膳の猫ビーム】#毎週ショートショートnoteの応募用

「これが猫ビーム」 「はぁ……」  白衣の美人科学者が、気弱そうな助手を見る目は飢えていた! 「主任、それで猫ビームってなんですか」 「量子チェシャ猫逆説理論を実証する新発明よ」 「それって測定器を騙す理論ですよね?」 「一般的にそう思われているけど、私は! 実証実験に成功した」  助手は疑わしそうだったが、事実なら素晴らしい発明だ。 「それが成功すれば、人間の体と心を分離できます! すばらしい」 「ふふふ、それであなたを実験体にしたいのよ」 「え? いきなりですか」

SS 【デジタルバレンタイン】【SFチックな】#毎週ショートショートnoteの応募用

「突入せよ」  ジリジリとした時間から解放される喜びで、下肢が跳ね上がる。任務は単純だ、人質の救出。 「隊長はバレンタイン知ってますか」 「古代の風習だったかな……」  義体の体は高価なサイボーグ素材で作られている。隊長の義体は、ゴリラのような巨大な胸をしていた。 「昔はチョコレートを好きな人にプレゼントしたんですよ」 「チョコってなんだ?」  義体は人間の食べ物を分解はしない。食べられるが溶かすだけで栄養にしない。代わりにサイボーグ用のゲル状の流動食が使われる。隊

SS 帰還 【青写真】 #シロクマ文芸部

 青写真が、机に置かれている。 「間取り図ですか」 「かなり古いね」  図面に描かれた線は、輪郭もわからないくらいに古くかすれている。半世紀前の図面から、奇妙な隠し部屋があるとわかる。 「きっとおじいさんの遺産があるんですよ」 「隠し部屋か、ロマンだね」  親戚は興奮で騒いでいるが、弁護士の私は懐疑的だ。 (わざわざ隠す理由がない……)  遺産があるなら私に真っ先に知らされている筈だ。資産家の故人の男性は、何かの特許で財をなした。あり余るほど金はある。 「さっそ

SS つっこみ【お題:何でやねんっ!】

 銀色のどら焼きみたいな円盤から出てきたのは、緑色の宇宙人だ。 「これが、ファーストコンタクトか」 「まるで初デートのようにドキドキします」 「なんでやねん!」  政府高官が、軍高官に突っ込む。  タラップから降りてきた宇宙人は、二本足で二本の腕がある。宇宙人は手を水平にして、喉にあてる。 「ワレワレは、宇宙人だ」 「なんでやねん!」  地球人側が突っ込むと緑色の宇宙人は舌を出して、ほっぺに指をあてる。 「えへへへっ」 「なんでやねん!」  緑色の宇宙人は、急に

SS ドローンの課長 #毎週ショートショートnoteの応募用

 蒼穹には何も無い。ただ青く下方に雲が広がっている。何も無い空を飛ぶのは気持ちがいい。 「ドローン課長」  新人のアシスタントは親しみを込めて愛称で呼んでくれる。自分もそう呼んでくれると嬉しい。怪我をした顔は、プラスチックのマスクでおおわれている。趣味がドローンの課長は、気さくで好かれていた。 「UAV(無人航空機)のテストが始まります、チェックしてください」  航空自衛隊を辞めて、民間の研究施設で勤務をしている。テストパイロットだった私は事故で二度と飛べないと思ってい

ゲームの彼に恋したら【坊ちゃん賞 落選記念作品】

 好きな人とつきあえるなら何もいらない。私は文芸部で漫画を描いている少しだけ大人しい女の子。 「瑠璃、できそう?」 「文化祭までには余裕」 「あんたゲームの彼が好きだもんね」 「最高の推しよ」  ソシャゲの彼を愛でる、イベントで彼が登場するだけではしゃいでしまう。彼の設定を深く読み、誰よりも理解する。そんな蜜月は長く無かった、サービス終了でプレイできない。 「ソシャゲはサービス停止したらプレイできないのが欠点」 「課金したんだけどなぁ」  そんなことはない。漫画にして

SS 怪人制御冷や麦 #毎週ショートショートnoteの応募用

 うだるような四畳半で寝そべりながら、扇風機の生ぬるい風にあたる。 「大家も冷房くらいつけてくれよ」  怪人修行で五年目だ。オーデションに受からない。バイトしながら悪の組織に入るんだと頑張っていた。 「君は特徴ないからね、君はカニ怪人だっけ? 造形がありふれてるからねぇ」  別にカニでもいいだろうと思う。カニ怪人とか子供にも受ける。殻は固いしハサミは格好がいい。スターになれると思った。 「おい、暇か?」 「することない」  相方のテナガエビ怪人がドアを開けて、熱気

SS タイムスリップアレルギー #爪毛の挑戦状

 気がつくとタイムスリップをしている。医者からは一種の記憶障害と診断された。実際に経験しても、実体験をしたように感じない。 「タイムスリップアレルギーですね」 「なんでそんな事が……」 「記憶の連続性が希薄に感じる、忘れっぽいと考えてください」  精神科を出て薬局で薬をもらう。記憶喪失とは異なり、思いだせるのに他人事だ。夜に寝て、朝に起きると三日くらい経過している。 「昨日は……計画書を作ってたか……」  会社で仕事をしていても、仕事の内容は、覚えているのに仕事をした