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ご免侍 六章 馬に蹴られて(十話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことね月華げっかの事が気になる。一馬の朝帰りで、月華げっかは、つい一馬と口づけする。


けっして琴音ことね殿によこしまな感情を持ったわけではない」

 一馬かずまは自分で言っておきながらも、嘘くさいと判っている。琴音ことねが、美しく可憐でなければ、とうの昔に奉行所に引き渡していたかもしれない。手元に置いて一緒に暮らすのは下心が無いと断言できるのか、自問自答を繰り返しながら琴音ことね月華げっかを説得する。

「俺の力量が無ければ、琴音ことね殿が危ういと思うから、一緒に暮らしている」
「あんた弱いじゃん」
「ぐっ」

 月華げっかが鋭い指摘を入れる。

「と……とにかく、琴音ことね殿が嫌がる事はしない」
「そうですか……」
「なら琴音ことねが、良いと思ったらいいんだ」

 その場の全員が固まる。一馬かずまは、琴音ことねが、自分によりそうように体を開く姿を想像した。

 琴音ことねは、顔が赤くなるとぷるぷると震えている。月華げっかも自分の言葉で、一馬と口吸いをした事を思いだしたのか顔が朱で染まる。

「なにをしておられる」

 雄呂血丸おろちまるが大小の刀を持って部屋に入ってきた。

「いや……そのなんでもありません」
「そうでござったか、一龍斎いちりゅうさい様から一馬かずま殿へ芸を教えてくれと言われまして」

 刀は、雄呂血丸おろちまるが使う同田貫どうたぬきで、幅が広く大きい。

「拙者は、大道芸人として暮らしていましたからな」
「どのような芸をするのですか」
「そうですな、兜割りの技で鍋を斬る、同田貫どうたぬきで投げた大根を切り刻む……」
「それは見物みものですな」
「そんなんで金になるの」

 月華げっかは、落ち着いたのか雄呂血丸おろちまる茶々ちゃちゃを入れる。
「まぁ投げ銭で、そばを食えればいいので楽なもんです」

 豪快に笑う雄呂血丸おろちまるのお陰で、先ほどの事はきれいさっぱり忘れたように感じたが……

#ご免侍
#時代劇
#馬に蹴られて
#小説


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