ご免侍 六章 馬に蹴られて(十話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬の朝帰りで、月華は、つい一馬と口づけする。
十
「決して琴音殿に邪な感情を持ったわけではない」
一馬は自分で言っておきながらも、嘘くさいと判っている。琴音が、美しく可憐でなければ、とうの昔に奉行所に引き渡していたかもしれない。手元に置いて一緒に暮らすのは下心が無いと断言できるのか、自問自答を繰り返しながら琴音と月華を説得する。
「俺の力量が無ければ、琴音殿が危ういと思うから、一緒に暮らしている」
「あんた弱いじゃん」
「ぐっ」
月華が鋭い指摘を入れる。
「と……とにかく、琴音殿が嫌がる事はしない」
「そうですか……」
「なら琴音が、良いと思ったらいいんだ」
その場の全員が固まる。一馬は、琴音が、自分によりそうように体を開く姿を想像した。
琴音は、顔が赤くなるとぷるぷると震えている。月華も自分の言葉で、一馬と口吸いをした事を思いだしたのか顔が朱で染まる。
「なにをしておられる」
雄呂血丸が大小の刀を持って部屋に入ってきた。
「いや……そのなんでもありません」
「そうでござったか、一龍斎様から一馬殿へ芸を教えてくれと言われまして」
刀は、雄呂血丸が使う同田貫で、幅が広く大きい。
「拙者は、大道芸人として暮らしていましたからな」
「どのような芸をするのですか」
「そうですな、兜割りの技で鍋を斬る、同田貫で投げた大根を切り刻む……」
「それは見物ですな」
「そんなんで金になるの」
月華は、落ち着いたのか雄呂血丸に茶々を入れる。
「まぁ投げ銭で、そばを食えればいいので楽なもんです」
豪快に笑う雄呂血丸のお陰で、先ほどの事はきれいさっぱり忘れたように感じたが……
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?