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SS&SF 学校へ行く日 Jelly Beansシリーズ

あらすじ
人口減少の世界で、人工授精の実験台の少年が母親の元で暮らす。彼女は仮想世界のOSのメンテナンス要員だった。息子のトムは手伝うことになる。

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「トム、メッセージキューを可視化するから確認をして」古い仕様なので内容が複雑だ。「時間処理の部分で仕様が古いみたいです」「オバーフローが発生しているわ、よく動作しているわね」致命的でなければ、平気な場合が多い。ただ時間の値がバグると、過去タスクに不具合が出る様に見える、錯覚をする。人工知能だとその部分を検出できない。推論の幅が広がりすぎるからだ。

仮想ダイブの部屋から出ると、一息つく。ゲーム世界への接続は、様々にあるがフルダイブ(完全没入)以外は、立ったり座ったりして作業は出来る。今回は立ったままで仕様を確認しながらの仕事だ。

「ねぇ、アメリア」僕はずっと聞きたい事があった。アメリアはダイブ用の服を脱ぎながら、僕を見る。「お金でも欲しいの?あげるわ、バイトだからね」ゲーム内では、様々な貨幣が存在する。ただ貨幣には制約がある、ゲーム内だけで使えたり、リアルマネーにも交換できたりとバリエーションが複雑だ。「その事では無いです」実際は政府からかなりの金額を貰えている。生活には不自由が無い。「名前の事です」

「名前?トムって名前?」「はい」僕はあまりにもありふれた名前で、友達にからかわれた。「うーん、昔見た動画からのタイトルを使って、書類にサインしたわ」「動画ですか?」「トムとジェリーって動画よ」知らない題名だ、後で調べよう。

僕はアメリアの家から学校に通う。集団で同年齢の子供達とコミュニケーションを取るのも、レポート作成に必要なテストだ。ただもう子供は少ない。自然に生まれた子供達はどんな感じなのだろう?

同じ境遇の子供達は、よく言えば仲が良い、なにしろ生まれた時から一緒なので相手を知っている。悪く言えば、知らない人への対応が不安な部分もある。「今日から登校するトム君です、仲良くしましょう」ベテランの老いた女性の先生が僕を紹介する。

六人の生徒は僕を見つめる、珍しそうに見る。僕からの印象は、非常に複雑な気分だ。なんだろう野生の動物と一緒の檻の中に居る気分になる。彼らは何を考えているか判らない。

僕は授業を受けて(本と言う紙で出来た古いタイプの授業だった)彼らと別れの挨拶をして家に戻ろうとした。「なんだもう帰るのか?」長身な男子が僕の前に立つ。「はい、アメリアと仕事があります」母親の手伝いをする予定だ。「俺はヒューイって言うんだ、ママがそんなに大好きなのか?」ニヤニヤ笑う彼は、母親との仲が悪いのかと予測した。

「仮想ダイブの約束があるんです」ヒューイは驚いている。「なんで子供がダイブできるんだよ」疑っているようだった。「僕は前の学校で訓練を受けたので……」みな集まってくると「すごーい」「お金持ち学校なんだ」「英才教育じゃないの?」女の子達が嬉しそうにしている。

僕はもう一度、別れの挨拶をすると家に戻った。自然交配の子供達は訓練は受けてないらしい。レポートに書こう。

「ただいま」アメリアは僕の服を持ってくるとすぐにダイブ室に入る。「あんたのお陰で、スケジュールを速く消化できるわ、暇な分は遊べるしね」上機嫌なアメリアは、仕事に前向きだ。「アメリアは、パートナーと一緒に仕事はしないの?」途端に嫌な顔をする。「男と一緒になんて、仕事がはかどるわけないでしょ」怒っているようなので詳しくは聞かない事にする。これもレポートに(以下略)

ダイブすると、そこはテクスチャで彩られた不思議な世界だ。リアル世界には似せているが、デザインがすっごくばらけている。遙か昔にWeb3.0が流行った頃に、デザイナーが大量にオブジェクトを用意した。でもそのデザインは統一性が無い。あまりに多くのデータを、様々な人が無秩序に利用をしたため、かなり混沌として世界を構築している。

僕はアメリアの指示で不具合のリストを見ながら対応方法を検討していた。ちらりと視界に子供が見えた。

ヒューイの言う通りに、子供はダイブはしない。リアル世界の生活を優先させるからだ。ダイブ室が高価な事もある。人口減少はダイブ室のせいだと言う学者も居た。ダイブに夢中になり出会いが減ったと主張をした。

ただし、ダイブ後は自分のアバターを改変する場合もよくある。だから今回も子供のアバターを利用した大人と考えた。挨拶をしてみる。共通のメッセージで「こんにちわ」と打つと、その子はすぐに隠れて見えなくなった。

きっと忙しいのだろう。メッセージを無視したと僕はその時は考えた。

続く


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