ご免侍 六章 馬に蹴られて(七話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬の朝帰りで、月華は、つい一馬と口づけする。
七
月華は、自分が一馬が好きかどうかは、あまり考えていない。男を操るために、体で縛るのは得意だ。
(抱かれるときはどんな時でも本気)
芝居が芝居ではない、演技をすれば本能でばれる。だから常に本気で芝居する。そして本気に飲まれない自分を作る。そう教え込まれた。
「私は一馬とは一緒になれないよ……」
「そうなんですか」
「それが判るから、琴音は、私に怒らないのさ」
「でも水知らずの人には怒ると……」
琴音が、うつむきならが難しい顔をする。
「私は一馬様を頼もしく思いますが、その……恋だとは思ってませんでした」
「――はたから見れば兄妹にも見えるね」
「そうですね、兄のようにも感じます」
(まだ、色恋を知らないのね)
月華と琴音は歳の差はほぼない。生まれた環境が違いすぎるだけで、同じ少女でしかない。
「それで相談って、嫉妬しない方法を知りたいの」
「いえそうではなくて……夫婦なれない事を知っているのに、一馬様の事を考えてしまうのです」
「……なればいいじゃん」
「いえなれません……」
「なんでよ」
「帝の元にいくためです」
月華は、ぐらりと世界が揺れたような気がする。道場の床に手をつけて体を支える。
(そんな事が……)
目の前の少女は京に上って高貴な身分となるのかと思うと信じられない。
「……お役目なのね」
「はい……お役目です」
「なら一馬の事は忘れた方がいいわ」
「はい、そのつもりなのに……出来なくて」
「そうだ一馬に、嫌われる事をする」
「嫌われるですか……、どのようにすればよろしいでしょうか」
「……冷たくするとか」
陽が沈み夜になる薄暗闇の中で、二人の少女がらちもない事を延々と相談していた。
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